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VSエゾシカに続いてVSクズリそしてVSボブキャット


 いつものように、六人が喜びながら俺に駆け寄って来る。


 仲間の惜しみない賞賛に、俺は手をあげて応えた。


 そのとき、変な奴が俺の視界に入る。


 小さい、まるでウサギのように小さくて黒い獣がとてとてと歩きながら、俺の獲物であるエゾシカに噛みついた。


 なにこいつ? 小型の肉食動物か? それにしても人の獲物を横取りしようとは許せん。


 俺は情け容赦なく、槍で思い切りはね飛ばした。


 でも、その獣は吹っ飛びはしたものの、すぐに起き上がると俺に向かって牙を剥き、急に飛びかかって来た。


 俺は冷静に槍の穂先でそいつを刺し貫いて、地面に縫い付けた。


 でも、その獣は串刺しにされてなお、変わらず吼えながら牙を剥き、足をバタつかせる。


 その様子には、みんなも唖然としている。


「なんだよアギト、そのちっこいの」

「待てアギト、そいつもしかして、クズリってやつじゃないか?」


 仲間の指摘に、俺はおじさんの話を思い出した。


「あー、あの命知らず過ぎるっていう奴か?」


 クズリはしばらくバタついてから、徐々に力を失い、やがて動かなくなる。


 でも、その目は決して死んでいなかった。


 死してなお相手に立ち向かう。


 クズリの死体からは、そんな気迫が感じられた。


 良く見れば、クズリは本当に小さい。


 こんな小さい体で、よくもまぁ逃げずに俺に立ち向かって来たものだと思う。


 どんな敵にも恐れず立ち向かう。


 俺も、クズリのようでありたいと願った。


 そうなると、とある猛獣のことが頭をよぎった。


 この辺りでは敵なしの、最強の猛獣にして、俺の父親を殺した怪物。


 いままで倒せた奴はいなくて、長老とおじさんは、いまの俺でも絶対に敵わないから見たら逃げろ、と言ってそいつの容姿だけは教えてくれた。


 そういえば、そいつもクズリと同じで黒い獣だったな。


 そこまで思い出したとき、俺はその気配に気づいた。


 一瞬で全身が臨戦態勢に入りながら踵を返すと、木の上から俺らを見下ろす影があった。


 黒と灰色のまだら模様にとがった耳。横に伸びたヒゲと鋭い眼光を放つ金色の瞳。


 それは、肉食動物のなかでも特別に危険と言われる『ネコ科動物』の特徴だった。


 いままで俺が倒した肉食動物、ジャッカル、コヨーテ、ディンゴといったイヌ科動物は二匹以上で狩りをする。対するネコ科動物は単独で狩りをする動物だ。


 イヌ科動物は効率的な狩りをする、という話だが、視点を変えればなんのことはない。ネコ科動物は、単独で草食動物を狩れるほど強いのだ。


 俺を見下ろすネコ科動物はボブキャット。


 大きさはコヨーテほどで、ネコ科のなかでは中型だが、シカを仕留めるほどの戦闘力がある。


 そんな森のハンターは俺からエゾシカの肉を奪うつもりなのか、それとも俺自身が獲物なのかはわからないが、その眼光は、しっかりと俺を射抜いていた。


「お前らは下がっていろ」


 みんなをうしろに下げさせ、俺は槍を上段に構えた。


 俺とボブキャット、互いに必殺の時を待ち、先に動いたのはボブキャットのほうだった。


 シカを一方的に仕留める猛獣が、木の上というアドバンテージから俺に襲い掛かる。


 一見すると絶体絶命のピンチだろう。


 でも、俺は言わせてほしい。

 

 シカぐらい、俺だって何度も仕留めてるんだよ!


 渾身の力で振り下ろした槍が、ボブキャットの脳天を叩き伏せる。


 木製の柄ではなく、石でできた堅い穂先が、見事にクリーンヒット。


 空中では衝撃が逃げてしまうから、致命傷にはなっていない。


 そう予測した俺は、そのまま穂先を地面に突き出す。ボブキャットの背中を刺し貫き、さらにカカトで頸椎を踏み砕く。


 森のハンターはあっさりと息を引き取るが、決して弱い相手では無かった。


 最初のタイミングがズレていれば、負けていたのは俺かもしれない。


 それでも、結果は俺の勝利だ。


 俺は槍を突き上げて、仲間たちへ振り返った。


「帰るぞッ。エゾシカとボブキャットで祝杯だ」


 ボブキャットの体を担ぎ、俺は万歳をする仲間たちのもとへ足を運んだ。


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