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最強を目指す

 おばさんの笑顔が気になるけれど、やっぱりアオイは可愛いなぁ、と思う。


 アオイは恥ずかしがり屋の赤面症で、赤くなった顔をすぐに隠してしまう。


 こうなると俺もイタズラ心をくすぐられて、ちょっと意地悪をしてしまう。


「どうしたアオイ? おーい」


 うずくまるアオイの顔を下から覗き込もうとしたり、顔を隠す手をどけようとしてみたりする。


 可愛いなぁ、未来の俺の嫁。


 アオイを見ていると胸が熱くなって、腕のなかで可愛がりたくなる。


 アオイも、こんな反応をするくらいだから、俺のことを好いてくれていると思う。



 今年で十三歳になった俺は、もう大人扱いだ。新人の大人だ。


 あとは、アオイが大人の女の仲間入りをすれば、結婚を申し込もうと思っている。


 おばさんの話だと、まだアオイは大人になれていないらしい。


「アギト君、ジャッカルを持って来たよ」


 俺が置いてきたジャッカルを担いで、おじさんが帰って来た。


「みんな凄い騒ぎようだよ」


 おじさんは重そうにジャッカルを下ろすと、嬉しそうに話し始める。


「何せ狩り二日目でジャッカルを仕留める人なんて普通はいないからね。長老も感心していたよ」


 俺は得意げになって胸を張った。


「まぁ、大人たちがみんな逃げ出した相手ですからね」


 俺は、この集落のなかでもかなり強い部類に入る気がして、少し誇らしかった。でも、それは俺の早とちりだった。


「いや、リーダーを含めて何人かの大人もジャッカルを狩れるよ」

「え?」


 バカっぽい声で驚く俺に、おじさんは続ける。


「ジャッカルが出てきたら、リーダーはみんなに逃げるよう指示したんだよね? でも、リーダーひとりだったら、逆にジャッカルを全員倒していたね。でもリーダーはリーダーだから、みんなを守る責任があるんだ」


 おじさんの口調は穏やかだったけれど、その眼差しは真剣だった。


「三匹のジャッカルがリーダーを狙うならいい。でもジャッカルがリーダー以外の、弱い仲間に襲い掛かったらどうだろう。それで守りきれなくて仲間が死んだら悲しいよね? 

だからリーダーは勝てる相手でも、わざとみんなに逃げるよう指示したんだ。仲間のみんなを、確実に守るために。僕の言っていることは、わかってもらえるかな?」


「…………」


 俺は、すぐには答えられなかった。おじさんの言っていることを理解できないのではない。むしろ、そんな深い意味があったことを理解して、自分の浅はかさを思い知らされたのだ。


「わかるよ、おじさんの言っていること。あーあ、てっきり俺は集落最強の男なのかと期待したんだけどなぁ。まだまだか」


「そんなに気を落とさなくてもだいじょうぶだよ。いまのリーダーが初狩りのときは、ジャッカルや牡鹿なんて仕留めていないし、素質はアギト君のほうが上さ」


「そうっすか? よっし、じゃあ見ていろよアオイ。俺はこの集落最強になっていっぱい肉を獲って来るからな♪」


 俺がテンションを上げると、アオイはまだ赤みの残る顔をあげて、はにかんだ笑顔で俺の手を握った。


「うん、がんばってねアギト。でも、あんまり無茶したらやだよ?」


「安心しろって。俺がアオイを残して死ぬわけないだろ?」


 俺が歯を見せて笑うと、アオイは幸せそうな顔で俺の腕に寄りそった。アオイが体温を感じていると、なんでもできる気がしてきた。

  

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