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第99話 こっち見んな

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはドラゴンの納入を拒否された。だが、それは門前払いというわけでなく、受け入れ態勢が整っていないので後日にしてくれというものだった。ヘイスにしてみれば馬鹿にされたようなもので話し合いは平行線を辿るが、何とかナジャスが間に入り、ヘイスは一日待つことで譲歩するのだった。



「おう。お前らがボルサスからやってきたっていう二人組か? えらい早かったが、本物だろうな?」


 ドラゴンをボルサスから運ぶこと十日余り。ヘイスからすると時間がかかり過ぎという思いだ。日本でやったら訴訟問題だし、海外からの船便でももう少し早いのではという気がする。

 しかし、この世界ではありえないほど早いらしいのだ。

 魔法があり、レベルのある世界なのに流通が遅れている。早馬なり高レベルの冒険者が飛脚をやるなり、なんなら飛竜便ぐらいあってもいいのに、ファンタジーなんだから。と思うこともある。

 ないものはないので仕方ないらしい。


 それはともかく、ミッテン王国首都・テランの冒険者ギルド本部を訪れ、なし崩しに待機を余儀なくされていたヘイスの元に買い取り部門の責任者であるセザルがやってきたのは昼も近くになっての頃であった。

 夜明けと同時に宿を飛び出してきたヘイスからしてみると『重役はやっぱり重役出勤だな』とイヤミを言いたくなるほど待ち侘びていた相手だ。

 ただ、後で話を聞いてみたところ、今日は偶然遅番のシフトだっただけで、早朝から出勤することもあるようだ。そういえばボルサスでもミゲールやギルドマスターたちも朝早くからギルドにいるときもあったな、と思い出した。早まってイヤミを口にしなくてよかったとホッとしながらも反省する。

 ちなみに今日も本来なら午後遅くからの出勤予定なのだが、部下のジャックルから緊急で呼び出されたらしい。暇だった待ち時間、借りてきた資料を読みながらダラダラしていたヘイスが文句を言える立場ではなかった。


 その辺は現役のギルド職員であるナジャスは如才ない。何事もなかったかのように丁寧に挨拶をしている。ヘイス的には仁義を切るというところだろうか。


「お初にお目にかかります。ボルサスから来たナジャスと申します。こちらは今回輸送の依頼を引き受けてくれた冒険者、ヘイスさんです。ユーブネの街で通信したところ、セザルさんから『モノさえ届けばいい』とお墨付きをもらいましたので、こうして急ぎ参りました。早速例のモノを引き取っていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


「……ユーブネか……お墨付きとは言ってくれるな。アレは5日前のことだぞ? 日にちが合わんじゃないか。何故通信内容を知っている? 事と次第によっちゃ容赦できねえぞ?」


「その場に居りましたので。その他にも私たち宛てに『テランで待っている』とのお言葉もいただきましたので、こうして日を継いでやってまいりました」


「マジかよ……本当に本人なんだな?」


 通信は傍受していないという証明は出来るわけもないが、ナジャスの堂々とした態度にセザルは困惑している。


「はい。本人確認というより、現物を確認していただければわかるかと。セザルさんが仰っていたように『無事に届けば文句はない』なら問題ないのでは?」


「わかった、わかった。確かにブツを見なけりゃ話にならねえ。付いて来い」


 どうやらジャックルと違って、まずは現物の確認からのようだ。

 セザルは入ったばかりの部屋を出て行ったので、ヘイスとナジャスも慌てて付いていく。


「あの、倉庫の準備とか警備の用意とか、大丈夫ですか?」


 どこに連れて行かれるのかは聞いていない。気になったのか、ナジャスが歩きながら確認する。


「ん? ああ、ジャックルな。勘弁してやってくれ。もともと一月以上かかる予定だったんだ。ユーブネからの通信で少し早くなるとは思ってたんだが、それでも10日以上かかると踏んでたんだ。誰が5日で来るなんて想像できる? 情報じゃ二人とも中級ランクなんだろ? 早馬を使ったにしろ、未だに信じられんな」


「私は中級以上になれなかった口ですが、ヘイスさんは上級の上のレベルですよ。詳しくはいえませんが、単純に馬より早いです」


「そうか、そうか。中級なのに上級のレベルか。こりゃ幹部どもの情報収集がなってないな。手間をかけさせたな」


「いえいえ、仕事ですから。それより、倉庫の件は?」


「ああ。ドラゴンが来るってんでボチボチ片付けさせてたんだ。今ジャックルのヤツが突貫で場所を空けさせてるだろうよ。警備も、ドラゴンの現物を見れば担当もやる気になるだろ。今日明日凌げば何とかなる。お前さんらがジャックルに言ったとおりだよ。心配するな。ドラゴンを引きとらねえって法はない。頼むから他所に卸すなんて言わないでくれな?」


 どうやらジャックルは正確にセザルに報告を上げていたようだ。

 ヘイスはホッとする。ドラゴンさえ正式に引き取ってもらえれば、あとは横流しされようが盗まれようがどうでもいいからだ。

 この依頼が終わったらしばらくギルドには近づかないようにしよう。口に出すとフラグが立ちそうなので心で決意するのみのヘイスであった。


「さあ、ここだ。ジャックル! 状況を報告しろ!」


 本部とはいえ同じ敷地内なのでそれほどの時間もかからず目的地に到着した。見た感じ、ボルサスでもちょくちょく利用した解体倉庫だろうと推測できる。

 倉庫の中では何人かが忙しそうに動き回っている。

 セザルはその中の一人に声をかけた。言わずと知れたジャックルだ。部門長の代理を名乗ったぐらいだから現場の責任者なのだろう。


「はい! と、とりあえず解体台は撤去させました。ドラゴンの確認はここでできると思います。ですが、ここに置いておくと搬出が……」


 ヘイスは倉庫を見渡した。

 人用の出入り口の他に大型の扉もある。しかし、大型といっても精々馬車が通れる程度だ。とてもドラゴンが出入りできる大きさではない。そもそもここは王都のど真ん中である。馬車以上の大物が通行できるわけがないのだ。そういう大型の魔物は現地で解体するかアイテムボックスを利用するしかない。まさにヘイスのことである。


「……こっち見んな」


 その場にいた全員が、魔法使い然としたヘイスを注目するのは当然だった。


「……そうですね。とりあえず引き渡してから考えましょう。ヘイスさん、お願いします」


「……言っておくが、出した時点で俺の依頼は終わりだからな……端に寄れ! 出すぞ!」


 蜘蛛の子を散らす、というほど多くはないが、片付け作業をしていた職員が慌てて壁際に移動する。

 それを見定めてヘイスはアイテムボックスからドラゴンを取り出した。


「「「「おおーっ!」」」」


 セザルをはじめ、職員たちから異口同音に感嘆の声が上がる。

 ヘイスはある意味気分がよかった。アイテムボックスは重さを感じないが、やっと肩の荷が下りた思いなのだ。


「……本物かよ……しかも傷一つ見当たらねえ……一級レベルってのも頷けるぜ……」


 セザルは呆然としながらもドラゴンを鑑定している。

 そこにヘイスが近づいた。


「これで依頼は完了だ。サインしてくれ」


 ヘイスは依頼表をセザルの鼻先に突きつけた。


 セザルはしばらくドラゴンと依頼表を交互に見つめて、おもむろに口を開く。


「……なあ、話があるんだが……」


「だが断る!」


 超能力者でなくとも話の内容は想像のついたヘイスは、この世界に来てから実際に口に出来るようになったセリフを言う。今回はポーズ付きなのが蛇足だが。

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