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第92話 王都についてから悩むことにします



 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはミッテン王国の冒険者ギルドが用意した護衛をキャンセルしてもらうつもりだ。ケムールのギルドは事後報告を認めた。あとはギルド本部が認めれば大手を振って単独輸送ができるのである。果たしてその結果は?



『どうした? 他に報告がないなら通信を終わるぞ?』


 本部の買取部門の担当者だという人物の答えはドラゴンさえ本部に届けば問題ないというものだった。

 サブマスターは呆気に取られ、微妙な沈黙が降りる。

 そして危うく通信を切られそうになり、慌てて確認を取るのだった。


「あ、あの、護衛の件は本部からの指示ですが、本当に取り止めても構わないのですか?」


『うん? ああ、勘定方と警備方が何か言ってたな。買取部門としちゃドラゴンさえ無事に届けば文句はない。そうだな、俺からも上に報告はしてやるが、念のため通信係に報告出しておけばいい。明日には担当者に届くだろうし、改めて指示があるだろうよ』


「わ、わかりました。これから詳細を報告します……」


『おう。輸送の冒険者にテランで待ってるって伝えてくれや』


「は、はい。そのように……」


『じゃあ、通信係に代わるぞ。じゃあな』


 その場にいた幹部たちも呆気に取られるほど豪快な処置だった。

 ヘイスは、同じ買取部門のミゲールを思い出していた。ミゲールならきっと同じように豪快な決断をすることだろう。なんとなく王都テランに行くのが楽しみになってきたのだった。


 その後気を取り直したサブマスターはナジャスからの報告と予定の変更をテランの通信係に記録を取ってもらい、それを上層部に提出してもらうことを頼んだ。

 王都の通信係はやはりぶっきら棒な態度だったが、仕事は真面目にこなすようで、報告は滞りなく受け付けてくれた。


 本部との通信が終ると幹部たちは大きく溜息を吐いた。

 それぞれ思うところがあるのだろう。

 まずは予定されていた利益がなくなった。次に募集していた護衛役の冒険者に対する対処。そして明日間違いなく本部からクレームが来る。何勝手なことしているんだと。

 保身のためには本部の意向に従いたいところなのだが、もしヘイスの予想通りアルマン王国がこの件に関与していたら支部レベルでは責任が取れない。そもそもヘイスが梃子でも動かないというのだからどうしようもない。

 ならばヘイスの提案どおり囮として冒険者を動かすべきかと考え始めた。本部の承認は必要なのだが、同じ利益はバラ撒けるので提案してみる価値はあるだろう。


「……では、明日本部から連絡が来るまでこの町で待機していてくれ」


「いや、それは断る」


 しばしの沈黙を破りギルドマスターが新たな指示を出してきた。

 しかし、ヘイスは軽い口調で断った。


「なんだと? いや、確かに今日一日待ってもらったのはこちらだが、本部から明日指示があるんだ。それを確かめてからでもいいんじゃないか?」


「そんな必要はない。本部とやらが承認すればよし。承認せずにあれこれ指図してきたとしても、それに従う義理はない。そんなことより、ここに留まって敵に嗅ぎ付けられても面倒だ。さっさと出発した方がいい」


 ヘイスにとってドラゴンが本当に重荷になってきた。ヘイスが冒険者になったのは自由に街に出入りできるからであって他人にいいように使われるためではない。これでは日本のサラリーマンと同じではないか。これは最早ドラゴンの呪いか何かではないかと真剣に考え始めている。一刻も早く手放したいところだ。


 だからこの街も早めに出発しよう。


 ヘイスの堅い意思はギルドマスターにも伝わったようで、それ以降何も言わなくなった。

 代わりになのか、サブマスターが引き止めにかかる。


「ですが、時間ももう遅いです。出発を明日にするならもう少し待っても同じではないですか?」


 言っていることは正しい。ケムールからの通信を待っていたことで本部への報告が終わったのは日が暮れてしばらく経ったころである。いくらヘイスでも街灯も整備されていない街道を夜中に進もうとまでは思っていない。どの道夜はきちんと睡眠を取るつもりだ。ダンジョン暮らしでは時間感覚がなかったため2徹3徹は当たり前だった。そんなブラックな生活には戻りたくない。


 そして、ヘイスの移動方法を知らないとはいえ、サブマスターの言っている『もう少し待っても同じ』というのも的を射ている。『本気を出す』ならば一日で王都に到着するのだ。ドラゴンよりも面倒なことになりそうなので絶対にやらないが。むしろ時間を潰せるなら寄り道も歓迎だ。ただし、馬車に揺られるだけとか部屋に缶詰とかは精神的に苦痛なのでサブマスターの要請はお断りする他ない。


「何度もいうが、この依頼はドラゴンを王都に届ける、ただそれだけだ。他に条件はない。条件を追加してくるなら俺はこの依頼を降りる。ドラゴンはここに置いてってやるから自分たちで運ぶんだな。盗賊に襲われても俺は知らんがな」


「それは……しかし……」


 サブマスター並びに幹部たちは、今朝から何度も聞いたヘイスの言い分に言い返すことができないでいる。最大の切り札である『ギルド除名』も『指名手配』も役に立たないのだ。輸送対象がドラゴン丸ごとではなく、もっと小さな物品であったら話は簡単だ。ヘイスから取り上げてもっと従順な冒険者に運ばせればいい。

 そう。問題はヘイスがキレてドラゴンを放置した場合のことである。実際に目にはしていないが、巨体であることはわかっている。どうやって運ぶというのか。特注の馬車でも作れというのだろうか。それとも解体してしまえとでもいうのか。後になって責任を追及されては敵わない。ならばヘイスと同じアイテムボックス持ちに依頼するか収納の魔道具を用意するしかない。が、それも簡単ではないだろう。冒険者ギルドの総本部に頼るかミッテン王国に泣きを入れるしか思いつかない。いずれにしろ、ユーブネの冒険者ギルドレベルでは処理できない問題なのだ。

 だからこそ本部の指示に従いたいのだが、それはヘイスに断られた。まさに八方塞がりなのである。


「……理解は出来たようだな。じゃあ、俺たちはこれで。ああ、本部には俺たちはもう出発したって言えばいい。実際にそうなんだからな。ヘタに探そうなんてしない方が賢明だぞ? じゃあな」


 幹部一同が無言になったところで、ヘイスはその場を去ることにした。アドバイスになるようなならないような言葉を残して。


 ギルドマスターたちは黙って見送るのみだった。呆然としたままともいえる。


「ヘイスさん。これでよかったんでしょうか?」


 我に返った幹部たちに引き止められるのは御免とばかりに足早にギルドの施設から飛び出す二人。無論、飛び出すといっても人目を避けるように、且つ、目立たないようにだ。大通りに出て尾行されていないことを確認してからナジャスがポツリと聞いてくる。


「いいも何も、こうするしかないだろう? 少なくともボルサスの了解は取れたんだ。後は上に任せればいいさ。所詮俺たち下っ端は命令どおり動くしかできないからな」


「ヘイスさん、命令どおりに動いてるんですか?」


「当然だろ? 依頼書どおりなんだから」


「それはそうなんでしょうけど、そうじゃないっていうか……」


「まあ、そこまで気にするな。本部とやらでドラゴン提出すれば済む話だ。まさか要らないとは言わんだろう。ナジャスの交渉はそれからだ。気楽にやればいいさ。どうやっても儲けは出るんだろ? 精々恩を売ればいいさ」


「う~~……わかりました……王都についてから悩むことにします……」


「そうしろ、そうしろ。さて、昨日と同じ宿、部屋はあるかな?」


 こうしてユーブネの二日目の夜は更けていった。



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