第84話 冗談ですよね?
鈴木公平改めヘイス・コーズキーはドラゴン移送の道中二日目で盗賊の襲撃を受けた。港町の襲撃から三日も経っていないのにこれである。護衛の冒険者たちはまさかこれほどまでとは思ってもみなかったようだ。
「じゃあ行くぞ」
「ヘイスさん、冗談ですよね?」
「ナジャスは寝ててもいいんだぞ? 浮遊の魔法はかけてるんだから揺れたりはしないはずだ。安心しろ」
「そういう問題ではないんですが……」
ナジャスは困惑していた。荷車に寝かせられている上に軽く縛り付けられているからである。そして荷車を牽くのは馬などの使役獣ではなくヘイスだという。
荷車も使役獣が引くのが一般的だが、人が牽くこともよくあることだ。街中での短距離輸送や村と畑の間などで手軽に利用される。時に冒険者も遠征時に利用することもある。使役獣の世話をする必要もない分馬車より使い勝手がいいのだ。
反面、荷車に人を乗せることは滅多にない。それこそ馬車の領分である。荷車に乗せて違和感がないのは乳幼児か傷病人の緊急搬送時ぐらいだ。大の大人が荷車に揺られて運ばれるなどナジャスの感覚では恥でしかない。実はその辺の感覚は地球人のヘイスと大差ない。
では、どうしてこうなったのかというと、話は前日まで遡る。
盗賊の襲撃を実力差、人数差で撃退した後、ヘイス一行は予定通り宿場町に辿りついた。そこで護衛たちのリーダーたちが集まり話し合いをしたのだ。
まず冒険者ギルドから指名依頼されたときの説明不足が槍玉に挙げられた。ドラゴンがミッテン王国の首都で競売にかけられる、この情報が商業ギルドに流れている。ここまではいいだろう。しかし、アルマン王国もドラゴンを狙っている!? 商業ギルドの幹部がアルマン王国に繋がっている!? そんな話は聞いていない!! と、こんな感じだった。
おそらく輸送ルートや日程なども商業ギルドを通じて拡散されているのではないかと予想される。今日は50人程度の襲撃だったが、時間を置けば置くほど襲撃側は準備を整えることができる。コースと日程がわかっているのだから、罠、待ち伏せ、そして人数。軍隊が出てきたとしても不思議ではない。
護衛の冒険者たちは、依頼を受けたとき随分大袈裟なメンバーを集めたものだと呆れたそうだ。その後港で同じ冒険者がドラゴンを狙ったと聞いて、実力より信用で選ばれたのかと納得したようだ。しかし、今ナジャスの説明を聞いて更に考えを改めた。個々の実力には自信がある。何せ上級冒険者が多数を占めているパーティーだ。しかし、襲撃者が形振り構わず人数を集めるとなると守りきれない恐れがある。数の暴力というヤツである。しかも他国の軍が出てくるのなら冒険者には荷が重い。
これは、こちらもミッテンの軍を呼ぶべきじゃないか。そういう意見も出た。なら、一度ケムールに戻ってギルドに抗議しつつ対策させればいい。再度この依頼を受けるかどうかは、その対策次第だ。最終的にそんな結論に至った。
結果、彼らは依頼キャンセルをすることとなったのだ。
これは、実は同席していたナジャスが全くといっていいほど引き止めなかったことが大きく影響していた。
通常、護衛対象である依頼者側は安全のために必死になって食い下がるものだろう。冒険者側だって報酬のことや、キャンセルしたことによるマイナス評価が気になり、そう簡単には依頼放棄を決断できるものではないはずだ。
このときナジャスはヘイスの実力を信じていた。正確に上限を知っているわけではないが、ヘイスなら一人でも盗賊や軍隊に襲われたところで問題ない。ドラゴンを倒せるのだ。そんな高レベルの化け物を心配するだけ損である。
ならばヘイス一人を先行させてしまえばいい。ドラゴンを実際に運んでいる張本人なので囮とはいえないが、盗賊たちはヘイスが一人旅していると知れば当然彼を狙うだろう。ナジャスはヘイスとタイミングをずらして進めば大規模な襲撃はないはずである。
そう考えていた。
「よし、じゃあ明日から俺とナジャス二人で進むってことだな。今日までご苦労さん」
護衛の冒険者たちが依頼をキャンセルする決断の最後の一押しはヘイスであった。
しかし、それはナジャスの計画とは大きく違っていた。
「え!? 二人? わ、私がヘイスさんとですか!?」
「当たり前だろ? 交渉役のお前を連れて行かないと俺の依頼も終わらん。王都とやらでお前が来るのをのんびりと待ってるだなんて冗談じゃないぞ? この依頼、不備だらけだな。俺が依頼キャンセルするにはドラゴンはどこに渡せばいいんだ? どっかのギルドか? ボルサスに戻れってか? 一筆書いてもらうんだったな。ま、後の祭りってヤツだな」
ヘイスは依頼書を取り出し、改めて確認していた。元サラリーマンのくせに、ろくに吟味もせずにサインしてしまった。あの時は孤児院にさえ迷惑がかからなければどうでもいいという精神状態だったためだ。一応その目的は達成できているだろう。ドラゴンを持ち逃げしたなどという噂を立てられなければボルサスに影響はないはずだ。ヘイスもお尋ね者にはなりたくはない。
よって是が非でもこの依頼は達成しておきたいのだ。そのためにはナジャスの同行が必須である。今更別行動は考えられない。
そんな考えをヘイスはナジャスに説明した。
「……わかりました。戦力にはなりませんが、これでも元冒険者です。足手纏いにならないようにがんばりますよ」
それで話は決した。
その後は細々とした手続き上の話し合いだ。護衛のパーティーはケムールにとんぼ返りすることになるが、ナジャスとも別れることになるので疑われないように手紙を用意する。ここからケムールに戻るなら馬車に積んである食料は馬用の水と飼い葉以外は最低限でいいので整理する。ヘイスがアイテムボックス持ちなので余った分は引き取ればいい。
そのヘイスはというと、話し合いが終わった段階で『買い物してくる』といって出かけてしまっていた。この小さな宿場町で何を買うのか知らないが、やはりアイテムボックスは便利だな、とナジャスは黙って見送ったのだ。
そして次の日、ケムールを発って三日目の朝。
「では、ケムールに皆さんが着くほうが早いでしょうからギルドへの報告はお願いします」
「今更言うのも何だが、ホントに二人で大丈夫なのか?」
ナジャスが出発の挨拶をすると護衛の代表が心配そうにしている。
「たぶん? としか言えませんが、向こうは馬車の数で判断しているでしょうから、歩きになったことでいい目晦ましになるかもしれません。ケムールにこの情報が伝わるまでは大丈夫でしょう。ユーブネに到着しましたらこちらからもケムールに連絡しますので」
「……確かにドラゴンを護衛無しで運んでるとは誰も思わんだろうな。わかった。だが、何があるかわからんから気をつけろよ」
「わかりました。そちらも昨日の盗賊がまだいるかもしれませんので気をつけてお戻りください」
こうして護衛たちと挨拶を終える。ヘイスも軽く言葉をかけて別れるのであった。
そして二人は宿場町の東の門から街道に出る。
人の目がなくなったところで、ヘイスはある物を取り出した。
そう。荷車である。
これは前日宿場町でヘイスが買い求めたものだ。見た目はボロボロで今にも分解しそうな雰囲気である。
なんでも廃棄するかどうか踏ん切りがつかない持ち主が放置しっぱなししていたらしい。おそらくヘイスが買い取ったことで持ち主はホッとしていることだろう。
「さあ、ここに寝ろ」
ヘイスの行動についていけないナジャスは言われるがままであった。
ロープまで取り出したのを見たとき、ナジャスは思った。一体どうなるのだろうと。
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