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第79話 ウチの護衛、大丈夫なんだろうな?

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはウェストリア大陸はミッテン王国東端の港町、ケムールの冒険者ギルドにやってきた。港での騒動の説明を求められたが、交渉はナジャスに任せて沈黙を続けるヘイスであった。



 ナジャスの話によると、この度のヘイスの仕事はボルサスからミッテン王国の首都にあるギルド本部までドラゴンを移送することである。

 つまりこの港町は通過点にしか過ぎない。


 だが、港に着くなりギルドの迎えを名乗る冒険者に絡まれた。状況からみて計画的犯行のようだ。お粗末極まりないが。


 ボルサスのギルドは当初、通常の魔物素材と同様に自分たちでドラゴンの素材を処理しようとしていたが、想像していたよりも反響が早く、そして大きすぎるものだった。年越しの祭りで展示したのも影響に拍車をかけたのだろう。

 ボルサスの冒険者ギルドは特殊である。

 国家権力を排除した都市経営、いずれは冒険者ギルド主体の建国をも目指しているのだ。そのためドラゴンの素材は純粋な資金源としてもギルドの力の象徴としても有効である。

 しかし、都市運営はともかく建国ともなると順調とはいえない。ウェストリア大陸の複数の国家が虎視眈々と狙っている。その上近年は開拓も停滞気味なのだ。

 ドラゴンの存在が起爆剤となり各国の介入を激しくさせると開拓も儘ならず、開戦、失陥もありえると危惧したのだ。

 ボルサスの上層部はこの際ドラゴンをウェストリア大陸のギルドに任せることにした。ドラゴンから得られる利益は減るが、今は開拓に専念すべきだ、というのが意見の大半を占めたという。ならば大々的に情報を流し、ボルサスから目を逸らせる方針を立てた。


 これがヘイスがウェストリア大陸に上陸した途端騒ぎに巻き込まれた理由だ。


 おそらくミッテン王国の首都に着くまではこんな状況が続くだろう。そう考えると頭が痛くなる思いだった。


「情報が漏れた件に関しては、ウチ(ボルサス)も積極的に流しているわけですから、責めるつもりはありません。ただ、これから護衛をお願いするのが不安になりますね」


 ギルドマスターとサブマスターの説明を聞いたナジャスは問題点を告げる。


 ヘイスは、ここケムールのギルドとボルサスのギルドとの間に齟齬があるような気がした。

 ケムールのギルドはドラゴンの情報を流していないと言うし、ボルサスでは積極的に流しているという。ボルサス的には情報は流しつつ、安全にヘイスたちを首都まで送り届けてほしいと考えていたのだろう。

 情報を流さなければ騒ぎは起きないと判断したケムールのギルドは甘いといわざるをえない。


 が、ヘイスは自ら交渉役などしたくなかったので沈黙を続けた。


「ウチの冒険者に限って、といいたいところだが、いきなりやらかした後だからな、スマンとしかいえねえな」


 頭こそ下げなかったが、ギルマスは非を認めた。


「いえ。何かしら反応があると予想はしてましたから。それより、護衛の人選は問題ないでしょうか?」


「は、はい。物が物だけに信用できる冒険者を選んであります。彼らが裏切るとは考えられません」


 そう答えたのはサブマスター。


「なら、心配はその他の襲撃ですか……」


 ここで信用できないとゴネても意味がないと考えたのか、ナジャスはサブマスターの言葉をアッサリと受け入れた。

 ヘイスも同じ考えである。そもそもヘイス一人ならどうにでもなるという自信があるのだ。問題は同行するナジャスの身の安全だ。

 ヘイスにナジャスを護衛する義務はないが、見捨てるつもりもない。


「人数は6パーティー32人です。上級と中級を集めました。護衛としては破格だと思います。ユーブネの街までの短期依頼なので何とかなりました」


 ここで新たな街の名前が出てきたが、実はヘイスも事前に聞いていた。船の中でナジャスから今回の依頼に関すること、ウェストリア大陸の情報など多岐に渡って説明を受けていたのだ。


 それによると、今回の依頼はドラゴンを首都まで搬送することだが、二人きりで移動するのではなくウェストリア大陸の冒険者を護衛として雇うことになっている。それも、出発地点のケムールから同じメンバーではなく、途中途中の大き目の都市で護衛を入れ替えることになっていた。

 その理由は複数あって、まずは長期の護衛依頼だとすぐには見つからないこと、そしてドラゴンの恩恵をたった一つのギルドが独占しないようにすること、などである。正確な金額はナジャスにもわからないが、かなりの額がケムールから首都までのコース上にあるギルドに投入され、道中の便宜を図ってもらうことになっているそうだ。


 コースから外れているギルドは歯噛みしているだろうとヘイスは思ったが、やはり黙っていることを選択したのだった。


「そうですか。それなら軍隊にでも襲われないかぎり大丈夫でしょうね」


「ええ。盗賊も50人を越える規模のところは確認されていませんし、国もドラゴンを歓迎しているはずです。国内の貴族にも手出し無用の通達がなされているはずです。あとは国外勢力と商人たちの動きですが、さすがにそこまでは……」


「わかりました。予定通り行動するしかないようですね」


「はい。港の一件は、連中を取り調べた後ギルド本部と道中の各支部に報告しておきます。すでに事件が起こったとわかればどこも警戒を引き上げるでしょう」


「よろしくお願いします」


 その後予定の再確認が行われた。

 今夜はケムールに泊まって翌朝出発となる。護衛の紹介もそのときにということだ。


 ◇ ◇ ◇


 話が終わるとヘイスとナジャスはギルド内にある宿泊施設に案内された。


 ギルドマスターとサブマスターは部屋を替えて話を続けた。といっても大半が愚痴のようなものだったが。


「かーっ! 参った! 着いていきなり騒ぎになるか!?」


「ええ。考えが甘かったようです。港の警備にこちらからも人を出すべきでした」


「今更言ってもなあ……ドラゴンの価値ってヤツをナメてたぜ」


「そうですね。魔物大陸の奥地や大山脈に存在は確認されてましたが、実物はここ数百年世に出ていませんでしたからね。どう扱っていいものやら……」


「それな」


「ボルサスでは祭りの間中展示されていたようですし、ここの港でも見せ付けたのでしょう? 噂になるとしても目撃者がこれだけ多いとなれば信じる人間も多くなるでしょう。私もこの目で見てはいませんが疑う気が起きません」


「……ウチの護衛、大丈夫なんだろうな?」


「それは……明日改めて釘を刺して置きましょう。何かあったら一生ギルドに追われる人生です。目先の利益に釣られることのないように言い聞かせましょう」


「身内が病気だとか、借金があるとか、人質を取られてるとかないだろうな?」


「……金で済むならギルドが相談に乗ると言ってみましょう。脅迫されていた場合は……その場で反応を確かめてみるしかなさそうですね。怪しい態度をしたら護衛から外す方向で」


「それしかないか。クソ、面倒なこと持ち込みやがって」


「仕方ありません。本部の決定ですから」


「まあな。金も入ってくることだし、明日送り出すまでの辛抱か」


「そうですね。まさかギルドが襲われることもないでしょうから」


「おいおい。不吉なこというなよ。本当になったらどうすんだよ」


 サブマスターの言葉がフラグになるかどうか、それは誰にもわからない。


 ヘイスのウェストリア大陸の一日目はこうして過ぎていくのだった。



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