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第78話 エールでいいか?

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはウェストリア大陸東端の国・ミッテン王国で上陸直後大立ち回りを演じた。



 ヘイスがドラゴンを収納し、潰れたカエルのような盗賊紛いの冒険者を魔法で治療し終えるとまた新たな人間がやってきた。

 武装しているが、揃いの格好からこの国の衛兵ではないかとヘイスは推測。

 問題は彼らの目的である。治安維持のためなのか、それともドラゴン目当てなのか。

 前者なら何も問題はないが、後者なら面倒でしかない。そもそも駆けつけるのが早すぎる。詰め所がどこにあり、巡回ルートもどうなっているのかは知らないが、見計らったかのようなタイミングだ。


 衛兵隊は居丈高に事情を説明しろと言い募る。

 ギルドマスターが名乗ると少しおとなしくなった。ボルサスとは違い、王国制のこの国では衛兵は国王、領主サイドだが、さすがに国を跨いだ組織のトップクラスの立場には弱いらしい。

 ヘイスも事情を聞かれたが、基本的な交渉はナジャスに任せると決めてあるのでギルドカードを提示するだけに留めた。

 フードを取れといわれたが、断る。ナジャスもここは衆目があるので、話があるなら冒険者ギルドで聞くと強気の対応をしていた。

 衛兵は事件があったから取調べは衛兵の詰め所で行うと強盗団の引渡しを要求するが、ギルドマスターは当然拒否、冒険者の引き起こした事件であり被害者も冒険者ギルドの職員だから取調べは冒険者ギルド主体で行うと主張した。


 ヘイスにとってはよくわからないが、話に聞いた治外法権のようなものかもしれないと他人事のように見ているだけだった。


 しばらくすると更に人数が増えた。

 どうやらギルドマスターのお供の一人が途中でギルドに戻り応援をつれてきたらしい。盗賊たちを運ぶ荷車を引いてきている。


 衛兵隊は盗賊たちが荷車に積み込まれるのを悔しそうに見ていた。

 衛兵隊側の増援はなかったようで、実力行使は出来そうもない。そもそもギルドマスターの主張は筋が通っている。相手が悪い。


 ヘイスは、もともとギルドと衛兵の仲が悪いのか、それともドラゴンの件で何か陰謀があって衛兵隊がヘイスや盗賊たちの身柄を確保したいのか、情報が少ないので判断できなかった。

 ならば流れに任せようと軽く考える。


「待たせたな。これからギルドに案内する」


 盗賊たちが荷車に積み込まれるとギルドマスターが話しかけてきた。一時は取り乱していたがどうやら平常心を取り戻したらしい。ボルサスのギルドマスターよりも落ち着きがありそう、とはヘイスの談である。


 仏頂面の衛兵と野次馬たちに見送られ、ヘイスとナジャスは冒険者ギルドに向かう。後ろをガラガラとついてくる荷車がシュールだ。戦利品が魔物素材ではなく人間という点がである。


「さあ、着いたぞ。冒険者ギルド・ケムール支部にようこそ!」


 港は壁で囲まれていて、税関のような出口でカードの確認をされたが、ギルドマスターからの口利きですんなりと通過できた。

 ギルドはそこから少し歩いたところ、ボルサスの港とギルドの位置関係に比べてかなり港寄りだった。


 ギルドマスターの歓迎の言葉のあと、ヘイスは冒険者ギルドの入り口を潜った。

 ギルドの中を見た感想は、『イメージ通り』であった。

 ラノベやアニメのイメージだけではない。実際に利用していたボルサスの冒険者ギルドとほぼ変わらないレイアウトなのだ。

 ヘイスが聞いた歴史によれば、200年ほど前はこのケムールのギルドが魔物大陸攻略の最前線だったそうで、多くのギルド関係者がここから移住していったらしい。似たような建物になるのも頷ける話だ。


 ヘイスはナジャスとともに応接室のようなところに案内される。ギルドマスター直々の案内だった。


「座ってくれ。何か飲み物を持ってこさせる。エールでいいか?」


「お構いなく」


 ギルドからの依頼を遂行中なのだが、飲酒は問題ないのか? そうヘイスは思ったが、ナジャスが軽く対応したので異世界の習慣はこんなものだろうと考えることを放棄した。


 しばらくするとウエイトレスらしい女性と、もう一人職員らしき男性が入ってきた。女性は人数分のジョッキを置くと部屋を出て行ったが、男性はギルドマスターの隣に座る。

 男性はサブマスターを努めるカロンと名乗った。


 ギルドマスターの勧めでエールを口にする。さすがに乾杯はしなかった。

 ヘイスは念のため《鑑定》をかけたが、毒物は検出されなかったので、素知らぬ振りで飲み干す。味については我慢するしかなかったようだ。


「ふうーっ。ドッと疲れた気がするぜ。このまま帰って寝ちまいたいとこだ」


 一息にエールを飲み干したギルドマスターが大きくため息を吐いた。


「ギルマス、何があったんですか? ヤスウたちが運ばれてきましたが」


 サブマスターがギルドマスターに訪ねるが、目線はヘイスとナジャスを行ったり来たりしている。


「それをこれから話すんだ。二人とも、迎えが遅くなったせいであんなことになったのはこちらの落ち度だ。すまん。だが、やりすぎじゃないのか?」


「やりすぎって、この二人が何をしたんですか?」


「ドラゴンをな、こう、ヤスウたちの頭の上に放り出してな……」


「はあ!? ドラゴンって……アイテムボックス持ちの中級冒険者が輸送するとは聞いてましたが、なんてことするんですか!? どれほどの大きさかは知りませんが、ドラゴンですよ!? そんなものを頭から落とされたら危ないじゃありませんか!」


「お言葉ですが、盗賊相手です。相手は剣を振り回してました。周りには野次馬が多数。それを魔法使いの彼が迎撃するのに魔法を使って周囲に被害が出たら誰が責任を取るんですか? 重量物で押し潰す。妥当な選択だと思います。それがドラゴンだっただけのことですよ」


 目撃者ではなかったサブマスターがギルドマスターの断片的な説明を聞いてヘイスたちを責めるが、ナジャスは冷静に反論に出た。ヘイスが自ら弁解に及ぶ必要はないようだ。


「カロン、落ち付け。俺もやりすぎだとは思うが、一応手加減はしていたらしい。治癒魔法も使ってくれた。ヤスウたちの命に別状はない。重症のままだがな。そもそもヤツラがドラゴン目当てに二人を襲ったのが問題だ。ウチの冒険者が、だぞ?」


「襲った!? どういうことですか?」


「どうもこうもありません。こちらがお聞きしたいところですよ。私たちは指示通り船着場でギルドからの迎えを待ってたのですが、現れたのがあの4人です。しかし、どう見ても指示内容にあったギルドマスターとは思えませんでした。しかも職員カードの提示を求めても『着いて来い』の一点張りでして、私たちも困っていました。私たちが同行を拒否すると彼らは剣を振り回し実力行使に出ようとしましたが、そこからはこちらのギルドマスターが見ていたとおりです」


「そ、それはウチの冒険者が申し訳ないことを。後ほど徹底的に調べて報告します。ですが、ギルマス、時間通りに迎えに行ったのではなかったのですか?」


「そういえば彼らも足止めがどうのと言ってましたね?」


「ああ。確かに船の到着予定時間に合わせてギルドを出ようとしたんだが、来客が続いてな。断るだけで時間を取られた。しかもギルドを出てからも引っ切り無しに絡まれてな、全部ドラゴンを売ってくれっていう話だから怪しいとも思わなかった」


「……確かにこの数日、商人たちが騒いでましたね。ギルドからは情報は流してはいないはずですが……」


 商魂逞しい人間はどこにでもいるのだなあ、とヘイスは妙に感心したのだった。




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