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第68話 何もなかった

新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。


『鋼の精神を持つ男――になりたい!』 https://ncode.syosetu.com/n1634ho/ 月水金0時投稿予定。


『相棒はご先祖サマ!?』 https://ncode.syosetu.com/n1665ho/ 火木土0時投稿予定。




 鈴木公平改めヘイス・コーズキーは誘拐事件の後始末に奔走していた。


 誘拐されたミーちゃんことミスティを単身救い出し、孤児院に無事戻せたヘイスは取り急ぎ冒険者ギルドに向かった。

 が、すぐに足が鈍る。


 肉体的問題が発生したわけではない。

 今後の方針を決めかねたのだ。


 アイテムボックス内のドラゴンを再びギルドに納品する。これは確実に行なわなければならない。

 すでに手遅れだが、もし仮に祭り前に正式にギルドに買い取ってもらえていて、その情報が周知されていたとしたら、今回のようにヘイスの身近な人間が人質になる可能性はなかっただろう。ヘイス痛恨のミスである。再発防止のために手放したことを証明しなければならない。

 そしてわがままを黙って聞いてくれたミゲールのためでもある。日本なら背任行為で訴えられても不思議ではない。ただ、そこまで厳格に追求はされないとも思っている。ミゲールの権限がどこまで大きいかも知らないし、そもそも正式に売買契約を交わしたわけではない。査定のために一時預けていただけで、気が変わって回収しただけだと抗弁すれば何とかなりそうだ。


 問題は誘拐事件についてギルドにどう報告するかである。

 先ほど誘拐犯からの脅迫状をミゲールに見せてしまった。犯罪行為を示唆する言葉が一切使われていないので立証は不可能だが、ミゲールはヘイスの態度から事情を察したことだろう。教会でもミスティが行方不明になったのは、手紙のタイミングからして誘拐ではないかと疑っていた。


 日本での鈴木公平なら間違いなく事前に警察に通報したことだろう。

 だが、ここは異世界で、ヘイスはチート持ちの邪神の使徒なのだ。事実、あっさりと解決してしまった。

 しかし、事後処理に関してはヘイスは法律の素人で、一般常識すら怪しい。ラノベでは盗賊は討伐推奨のパターンは多いが、必ずではあるまい。それに誘拐犯は盗賊扱いなのかもわからない。しかも相手は他国の騎士団所属だ。事件の発覚前にヘイスが独断で処理して問題にならないか。死人に口無しでも関連を疑われるし、生かしてギルドに引き渡しても証拠不十分で釈放の可能性大だ。


 とはいえ、ミスティを助けたことに後悔は一切ない。

 もし通報して主導権がギルドに移った場合、解決に数時間どころか数日かかったかもしれない。ミスティはそれだけの期間恐い思いをすることになる。それはまだ良いほうで、ギルドの介入を知った誘拐犯が激高し見せしめとしてミスティの殺害に及ぶ可能性も高い。あるいは逃走後闇奴隷として売られるかもしれない。

 そんなことがあっていいものか!

 首尾よく迅速にミスティを助け出せたことをヘイスは誇りに思う。宣伝するつもりは全くないが。


 やはり問題になるのは事後処理だ。

 理想は『何もなかった』ことであろう。


 ヘイスは国家の闇など関わるつもりはない。いずれ日本に帰るのだ。この世界に対しては『魔素の正常化』という人の手に余る貢献をしているつもりだ。それ以外の面倒は御免である。


 大よそ方針が固まったところでギルドに到着する。

 先ほどドラゴンを回収してから一時間も経っていない。予想通りミゲールはギルドにいた。


「無事だったか!」


「ああ」


「もう話せるか? 相手は誰だ? 何をされた?」


「何の話だ? 商談が物別れになっただけだ。やっぱりここで買い取ってもらうことに決めたよ。倉庫に案内してくれ」


「は!? 脅されたんじゃないのか? どう考えても脅迫状だったろうが」


「単なる商談の申し込みだ。それだけだ。ほれ、夜も更けた。さっさと案内しろ」


「……言えないのか? 子供は無事なのか?」


「祭りで浮かれて迷子になった。それだけだ。すぐ見つかって、とっくに寝てるよ」


「……そうかい……なら、いいんだ……」


 何か言いたげだったが、ミゲールはそれ以上追及はしなかった。


「ありがとうよ。借りは必ず返す」


「なに、いいってことよ。何かあったら相談しろ。出来れば前以ってな」


「わかった……ああ、じゃあ、今聞いとくか。いいか?」


「おう。俺でわかることならな」


「例えばな、あくまで例えばだぞ? 盗賊は問答無用で倒していいんだろ? じゃあ、それ以外の犯罪者はどうしたらいんだ? 人攫いに出会ったら殺していいのか?」


「やっぱりお前さん……いや、そうだな、確かにすべての犯罪者を盗賊扱いはしていないな。だが、盗賊の即時討伐が認められてるのは、基本街の外だからだ。街中なら捕まるぞ。ま、当たり前だな。そういう話じゃなかったか。人攫いか。なんにしろ、街の外で襲われたら盗賊扱いだな」


 ヘイスの質問の内容から何か事件の臭いを感じたが、あえてそこには触れず、素直に答えるミゲールであった。


「なるほど。じゃあ、もう一つ。街の外で襲われて、返り討ちにしたら、その相手が実は貴族だったりしたら、どうなる?」


「そりゃ……運が悪いとしかいえねえな。バレたら関係者に狙われるだろうぜ」


「そういう場合、スキルで尋問したりしないのか?」


「ん? ああ、《看破》とか《魅了》な。悪用されることが多いから信用されん。知らないのか?」


「幸いなことに、お上の厄介になることなんてなかったからな」


「魔法の修行してるとそうなのかねえ?」


「そんなもんだ。おっと、つい話し込んじまった。ドラゴンのこと忘れてたぜ」


 ヘイスは話を切り上げ倉庫にドラゴンを取り出す。

 改めて預り証を受け取り、今度こそギルドを辞した。


 ミゲールに色々確かめて方針は決まった。

 再び向かうは海の上である。

 人気のないところで空に飛び上がる。海は真っ暗だが、《マップ》スキルがあるので楽々目的の船まで到着した。脱出する際全員眠らせていたので少し流されていただけで済んだ。


 ヘイスは甲板に降り立ち、倒れている犯罪者たちを見渡す。いまだ起きる気配はない。

 ミスティ救出のときは内心焦っていたし、恐怖もあった。なにせ対人戦闘は日本を含めても生まれて初めての経験だったからだ。ゆえに敵に対しては眠りの魔法も手加減せずに使ってしまったらしい。いきなり殺すという選択をしなかったのは日本人的忌避感からなのか、尋問用に獲っておいたのか、今となってもわからない。


 だが、今は決断をした。

 ヘイスは一人一人起こしては尋問する。MP0HP1の状態で魔素ゴリ押しの《魅了》をかける。抵抗できる人間はいない。

 尋問内容は二段階。始めに「所属部署はどこか。誘拐の件を知っているか否か」を聞いて選別する。予想通り無関係の船乗りが多数いた。彼らには「ヘイスに会ったことは忘れろ」と《思考誘導》して再度眠らせて甲板に放置しておく。

 二段階目は誘拐に関わった者たちである。

 誘拐犯の一味は一ヶ所にまとめて再尋問だ。《マップ》の改良により一人残らず選別できている。その中でも見た目偉そうな男数人に確認した。


 結果は、ダンジョンに置き去りにして来たリーダーと同じくアルマン王国の第5騎士団所属で国の暗部だった。

 指示はリーダーから出ている。定期的に本国に連絡している。前回はリーダーに誘拐の指示が来た。誘拐を実行したことはまだ連絡していない。指示書などはない。などということがわかった。


 アルマン本国に誘拐を実行したことが伝わっていなくてヘイスは一安心する。

 が、懸念はまだある。街に仲間がいるか聞いたところ、いる、と答えられた。これに関しては当然だと思いながら、その仲間は誘拐のことを知っているかと聞くと、わからない、と答える。《魅了》だろうが《思考誘導》だろうが、知らないものは答えられないのは道理だ。

 ならば、誘拐の実行犯は全員ここにいるかと聞くと、全員いる、との答えだったのでヘイスの満足できる結果に終わった。誘拐計画の段階で情報が止まっているなら向こうで勝手に計画変更の理由を考えてくれるだろう。

 あとは船にある証拠になりそうな物の押収だ。通信装置は当然として、偽名だろうが全員の身分カード、指示書ではないがヘイスやその周辺の調査メモ、ついでにもう彼らに必要はなくなった現金である。

 やるなら徹底的にやる。ヘイスの決断の一つだ。


 さて、残る作業は一つである。



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