第65話 心当たりがありすぎた
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鈴木公平改めヘイス・コーズキーは面倒な売買交渉をギルドに押し付けるためドラゴンの現物も押し付けてきた。
世界が違っても金になる話には人が集まる。クソに集るハエのように。きっと日本でもヘイスが宝くじを当てでもしたら同じ目に遭っていただろう。
そんな煩わしさを回避できたと清々していたところに冷や水を浴びせられた。
「ヘイスさん! ミーちゃんがいなくなったんです!」
孤児院に着いて出迎えの第一声がこれだった。
とっさに反応できなかったがヘイスには心当たりがありすぎた。だが、昨日の今日どころか今日の今日でいきなり強硬手段に出るなんてそんなバカな話があるはずがない、などとヘイスの中の常識が結論を鈍らせた。
確かに今日、しかもつい先ほど二組の怪しい人物が接触して来た。
一組目は『後悔するぞ』と捨て台詞を残し、二組目は、名前は忘れたが国を盾に威嚇して来た。ヘイスがけんもほろろに交渉にすら応じなかったので相手は怒り心頭だろう。だが、やはり時間的に短すぎる。いくら短絡的でもいきなり犯罪行為に及ぶなんて、と考えていたところで日本のライトオタクの鈴木公平の内なる声が聞こえた。
『あれが最後の一匹だとどうして言える。第3、第4のハエがいるかもしれない』
そう。ヘイスのドラゴンを狙う者がたった二組とは限らない。中には犯罪上等の連中もいるはずだ。それに時間にしても、ドラゴンのお披露目をした時点からいえば祭りの三日間だけでなくギルドの解体部屋でのことが外部に漏れていたとしたら結構な時間が経っていた。この世界、電話やネットはないが魔法的な通信手段があるとヘイスは聞いていた。
全うな商人だけでなく犯罪組織、ことによったら国の暗部が動いてもおかしくない。完品のドラゴンにはそれだけの価値がある。ヘイスにはいまいちピンと来ないが。
「詳しく説明してくれ」
フリーズしたついでに色々な妄想が頭を過ぎったせいか、ヘイスは取り乱すでもなく声をかけてきた少女、孤児院のお姉さん役であるジェシーに冷静に説明を求めた。
残念ながら情報は多くなかった。
ヘイスを待ちわびていたミスティが食堂と玄関を行ったり来たりしているのを始めは注意して見ていたが、ふと目を放した隙に姿が消えていたという。慌てて中庭や教会の本館も探したが見つからない。もう外に出たとしか考えられないと探しに出ようとしたところにヘイスがのん気にやってきたというわけである。
「ヘイスさんも探してください!」
ジェシーはそう言うと外に飛び出していった。
ヘイスも慌てて後を追う。ミスティを探すのも大事だが悪い予感が拭えないヘイスはジェシーまでも攫われてしまうのではないかと危惧したのだ。
二人は教会前の通りを端から端までミスティの名前を呼びながら探した。出会う人には小さな女の子を見かけなかったかと聞いて回る。路地も隈なく調べた。
5、6歳の子供が出歩ける範囲など高が知れている。それなのに一向に見つからない。不安は高まる一方だった。
「ジェシー。一旦戻ろう。教会の人にも手伝ってもらうんだ」
祭りが終わった時点ですでに暗くなっていたのだ。今は子供はもう寝る時間だ。せめてジェシーだけは無事に孤児院に戻ってほしいと思い、ヘイスは提案する。
ジェシーも二人だけの捜索は非効率だと判断したのか渋々と頷いた。それに、ミスティがすれ違いで孤児院に戻っている可能性もあるからだろう。
二人が孤児院に戻ってみると事態が進展していた。
二人を待ち受けていたのは、ミスティではなくシスター・アネリア。そばにはヘイスには馴染みのないシスターや神官がいる。
「先ほど教会にこの手紙が届けられました」
面識があるということでシスター・アネリアがヘイスに話しかけてきた。
ヘイスは差し出された手紙を受け取る。
「読んでもかまわないのか?」
神官たちが頷いたのでヘイスは手紙を広げる。
部外者のヘイスにあっさりと手紙を見せるので少々訝ったが、中身を見て疑問が氷解した。
何のことはない、宛先は実質ヘイスであったのだ。
魔法の光に照らされた手紙にはハッキリと『ドラゴンを指定の場所に持ってこい』とあった。ワザとなのかミスティのことには触れていない。タイミング的にミスティが人質なのは間違いないが、これでは誘拐の証拠にはならないだろう。
「……少し出かけてくる。俺が言うのも筋違いだろうが、他の子供たちのことは頼んだ」
「ヘイスさん……」
「ジェシー、悪いが連れて行くわけにはいかない。すぐに戻ってくるから子供たちと待っててくれ」
「……はい、わかりました……」
ジェシーも冒険者の端くれだ。身の程は知っている。相手が犯罪者なら足手まといになってはミスティに危険が及ぶかもしれないと飛び出したい気持ちを必死に抑えるのだった。
ヘイスは神官たちに後のことを頼むとギルドに急ぐ。
誘拐犯たちはドラゴンをヘイスがいまだに持っていると思っての犯行だろう。こうなると無理やりギルドに押し付けたのが仇となる。
恐いのは奴らの情報網だ。現在ドラゴンを所持していないとバレたら役立たずになったミスティの身がどうなるかわかったものではない。
犯罪者に渡すつもりは毛頭ないが、ことはミスティの命に関わる。見せ札は必要なのだ。
監視者がいることを念頭に置いて、振り切らない程度に暗い道を進む。
余り急がなかったのはもう一つ理由があった。スキルと魔法の改良のためである。すでに取引場所がわかっているものの、犯罪者が素直に人質を返すのか不安がある。ミスティが別の場所に監禁されていることも考えなくてはならない。その探索のための魔法を構築するのだ。
この場合、監禁されているのは良いほうだ。最悪すでに殺されている可能性だってある。
ヘイスは、誘拐犯たちがドラゴンをどうしてもほしいなら交渉をぶち壊すような真似はしないだろうと、一縷の望みにかけた。神にも祈った。たとえ結界を張るのに汲々としているような神サマであってもだ。
「ミゲール! 一旦ドラゴンを返してくれ!」
「おいおい、いきなりどうした?」
ギルドに飛び込んでミゲールを呼び出す。幸い、会議が終わっていないのかミゲールが奥から出てきた。
「あとで献上でも何でもしてやる。だから今は一旦返してくれ」
ヘイスはドラゴンの預り証を差し出した。同時に教会に届いた手紙も見せる。
「……コイツは……悪い予想が当たったってことか……」
「ああ。さすがに別なのを獲りに行く時間はなさそうだ」
「時間があったら獲ってこれるのかよ。お前さんにかかったらドラゴンもゴブリンと変わらんのか……よし、わかった。俺の一存で返そう」
「恩に着る」
「な~に、また持ってきてくれるんだろ? どうせ売り先はまだ決まってないんだ。連中には説明しとくよ」
「話が早くて助かった。ここで渡せないとか言われたら最悪ギルドも敵に回したかもしれん」
「おいおい、物騒なこと言うんじゃねえよ。それより急ぐんだろ?」
「ああ。礼は改めてな」
ヘイスはドラゴンを収納し、挨拶もそこそこにしてギルドを出た。
「待ってろよ、ミスティ」
ヘイスは暗い街を駆けていく。
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