第63話 そんな説明聞いたことがないな
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鈴木公平改めヘイス・コーズキーは冒険者ギルドで依頼完了の手続きをした。
ギルドは基本年中無休で、祭りの最終日の今日も営業している。
特に酒場コーナーは盛況だった。
対して依頼受付カウンターはほどほどであったためヘイスもそれほど並ぶことなく手続きができた。
次にヘイスが向かったのは買取コーナーである。
すでに話はついているのでドラゴンを引き取ってもらうだけだ。
「あ、ヘイスさん。皆さん会議室でお待ちしております。こちらにどうぞ」
顔見知りの職員にそう言われたヘイスは少し首を傾げる。
確かにドラゴンを提出した後買い取り金額についての説明やらなにやらで相談があると聞いていたが、順番が違うのではないかと。
しかし、提出するのはいつでもできると考え直し、素直にその職員の案内に従った。
何度か来たことのある会議室に入る。
そこにはギルドマスターをはじめ、事務長やミゲールなどヘイスの知った顔もあったが、知らない人間も多かった。
「来たか。まあ、座ってくれ」
ギルドマスターに言われ、ヘイスは黙って空いている席につく。
話し合いとやらが始まった。
司会は事務長が務めるらしい。
「ヘイスさん、真に申し訳ありませんが、買取で問題が出ています」
「……問題と言われてもな、そっちの問題だろ? 説明を聞くまでは何とも言えんな」
「おっしゃるとおりです。簡単に言いますと横槍が入りました」
「横槍とは酷い。私どもは売買に関しては商業ギルドに任せていただきたいとお願いしただけですよ」
口を挟んできたのは、初老に見える男だった。見かけも冒険者上がりには見えず、言葉どおり商人なのだろう。
「……何が問題かさっぱりわからんのだが」
「買い取り値です。商業ギルドは直接ヘイスさんから買い取りたいと言っております」
「またまた意味がわからん。俺から直接買う意味があるのか? 足元見ようたって、こうして会議もどきにかけられりゃ無理だろう?」
「そこは一つ交渉で。ヘイスさんとおっしゃいましたな。私は商業ギルドのブランカスと申します」
「……ヘイスだ。見てのとおり魔法使いだ。交渉は買取担当に任せる。俺から言うことは何もない」
名乗られたので仕方なくヘイスも名乗ったが、交渉に応じるつもりはなかった。ミゲールに話を振る。
しかし、ブランカスという商業ギルドの人間は諦めないようであった。
「いえいえ。貴方と直接交渉することに意味があるのです。ヘイスさん、あれだけ立派なドラゴン、国に献上するべきだと思われませんか?」
ブランカスの言葉に冒険者ギルド側のメンバーが顔をしかめる。
ヘイスはなんとなく問題が何かわかってきた。
「国? この大陸に国はないだろう? 千年も昔に滅んだんだ」
「いいえ! ここはアルマン王国の領土です!」
さらに顔が歪む冒険者ギルドのメンバーたち。
「また聞いたことのない国が出てきたな……」
「なっ! 我が国を知らないとは、これだから冒険者は……」
「ヘイスさん、本当に知らないのですか?」
ヘイスの呟きにブランカスは憤り、アンギラは呆れ顔だ。
「知らん。興味がないからな。簡単に説明を頼む。ミッテン何とかは聞いたことがあるんだが」
「ミッテン王国です。隣のウェストリア大陸でボルサスに一番近い沿岸国です。その南に位置するのがアルマン王国というのですが、ここにも港がありまして、ボルサスとも交易はしています。断る理由はないですから。この二つの国は、いえ、二つだけではありませんが、領土問題で争っていまして、ギルドは基本中立なのですが……」
「ああ、聞いたことはある。魔大陸から国民を見捨てて逃げ出した連中が人様の土地で勝手に国を造ったんだろ? そりゃ揉めもするだろうよ。魔大陸の開拓が上手くいったらこっちにも色目を使い始めたんだってな」
「キサマ! 我が国を愚弄するのか!」
「ヘイスさん……」
ブランカスは激高し、アンギラは呆れ顔だが、ヘイスはどこ吹く風だった。
「我が国って、コイツ、中立のギルドじゃないのか?」
ヘイスはあくまでも直接ブランカスとは言葉を交わさないつもりだ。ブランカスが喚いているが無視してアンギラと会話を続ける。
「ええ。基本的にはそうなんですが、中にはこのような人間も……」
「だから俺たちも頭が痛いんだ。正式な商業ギルドからの交渉人だからな」
ギルドマスターがため息をつきながら本音を言う。
「まあ、仕事だから仕方ないんじゃないか? 俺は……どう考えても俺には関わりのない話だ。交渉はギルド同士でやってくれ。献上でも何でも好きにすればいい」
「おいおい。そんな無責任な」
「誰が無責任だ。俺は冒険者だぞ? 討伐して来た魔物はギルドに買い取ってもらう。それが冒険者の仕事だろうが。俺がこれまで何匹狼を売ったと思ってるんだ?」
「ウルフとドラゴンを一緒にするんじゃねぇよ」
「同じ魔物だ。ゴブリン以外は買い取るんだろ? なあ? ミゲール」
突然話を振られたミゲールは言葉が出ないようだった。
「ヘイスさん、話はそう簡単じゃありません」
「どういうことだ?」
「交渉人はアレですが、正式な要請ですからこちらもそれ相応に対応しなければなりません。この街は冒険者ギルド主体ではあるのですが、商業ギルドの協力が不可欠なのも間違いありません。ですから強気だけの交渉は出来ないのです。このままですとヘイスさんの要望に支障が出るかと……」
「……なるほど、流通を握られてたら都市の運営も影響されるってことか」
「ええ、そのとおりです」
やっとヘイスにも理解ができた。
要は商業ギルドが冒険者ギルドからドラゴンを買い叩こうとしていて、その結果次第ではヘイスの希望する孤児院の支援金が減ってしまうことになりかねないのだ。
「やっぱり話は簡単だ。俺の要望は白紙に戻す。それで問題ないだろ?」
「え? どういうことですか?」
ヘイスの発言にアンギラは困惑した。ギルドマスターも同様だ。
「色々まとめて頼んだから面倒臭いことになってるんだろ? それを一つ一つ解決すればいいだけだ。だから以前俺が要望したことは一旦白紙に戻す。今はあの件は考えなくていい。それで、普通にドラゴンを俺から買い取ればいい。そのあとどこにいくらで売ろうが俺には関わりないからな」
ヘイスは、すでに知られているかもしれないが、なんとなく嫌な予感がして孤児院という言葉を使わずに要望の撤回を告げた。
「そ、それは……」
「ミゲール。とっくに査定は出来てるんだろ? 買い取ってくれ。現金でな」
困惑するアンギラをよそに、ヘイスはミゲールに話を持っていく。
「……査定は出来てる。が、現金の用意が今はない」
「おいおい。買取担当が情けないこというなよ。たかがドラゴン一匹じゃないかよ」
「仕方ねぇだろ? もともと現金取引の予定はなかったんだからよ」
「そりゃそうだな。で? いくらになる? いつなら現金を用意できるんだ?」
「待て! 買取なら私がすると言っているではないか!」
ヘイスとミゲールの買取交渉にブランカスが口を出してきた。
「話はミゲールの査定を聞いてからにしてくれ。で? いくらになる?」
さすがにここは無視できないとヘイスも言葉を選んだ。
「……状態が良すぎる。大金貨10枚でも安い」
ヘイスは頭の中で軽く計算する。大金貨は銅貨十万枚。銅貨1枚100円とすれば一千万円。大金貨10枚なら1億円だ。
ドラゴン1匹の相場がいくらかは重要ではない。
おかしいと思うのは、冒険者ギルドのような巨大組織がたった1億円の用意がないという点だ。ましてやここは冒険者ギルドが運営する都市なのだ。
「上級冒険者が依頼を受けることもあるんだろ? 大金貨たった10枚の用意もないって、いつもはどう清算してるんだ?」
「急な支払いができないってことだ。高額の依頼料や買取金は普通ならギルドに預けるもんだ」
「ん? ギルドに預けることができるのか?」
「知らなかったのかよ! うそだろ!?」
ラノベでは定番の設定に思い至らなかったヘイスは、三ヶ月前の登録したばかりのことを思い出してみる。
「そんな説明聞いたことがないな」
毎日木を切っては運んだことしか思い出せなかった。
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