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第61話 見学会

新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。


『鋼の精神を持つ男――になりたい!』 https://ncode.syosetu.com/n1634ho/ 月水金0時投稿予定。


『相棒はご先祖サマ!?』 https://ncode.syosetu.com/n1665ho/ 火木土0時投稿予定。


 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーは孤児院へのお土産にドラゴンを持ってきた。


 だが、孤児院には中庭があるものの、野菜を育てている上に、そもそもサイズ的にドラゴンを置くことは無理だった。

 そこでギルドの倉庫を借りるという面倒なことになったが、子供たちの喜ぶ顔が楽しみのヘイスはかなり乗り気である。


「いっそのこと、教会前の道に出してもよかったんじゃないか?」


「いや、それはマズイでしょう? 大騒ぎになりますよ?」


 そう答えたのは、スライムの間引きで一緒に仕事をしたことのある、孤児院出身のギルド職員・ナジャスだった。


「祭りの余興ってことでどうにかならんか?」


「え? 本気ですか? うーん、出来ないこともないでしょうが、根回しが面倒ですよ?」


「面倒ならいい。さあ、行くぞ! ちゃんと手を繋ぐんだぞ!」


「「「「「「はーい!」」」」」


 ヘイスが仕切っているが、ちゃんとシスター・アネリアと職員たちが目を光らせている。


 子供たちは滅多にないお出かけに興奮しながらも大人の言うことをよく聞いて大きい子が小さい子の手を繋いでいる。


 子供といえど、ヘイスの感覚で小学生以上になったらギルドまで歩くのも問題ないと思われる。

 問題はミスティ以下の子供だ。

 幸いといっていいか、この街の孤児はそう多くはないようで、6歳未満は5人しかいなかった。大人が手分けすれば抱えて歩ける。


 そんな感じで、一向は楽しげにギルドを目指した。街の雰囲気もお祭りが近いこともあって悪くない。


「さあ、着いたぞ。ここがギルドだ!」


「「「「わーい! ぎるどー!」」」」


「「「「「知ってるー!」」」」」


 子供たちは初めての子と来たことがある子供に分かれた。ただ、10歳未満の子供は滅多に来ないようなので楽しげではあったが。


 一向は職員に案内されギルドの中に入る。

 せっかくなので一通り見せてもらった。酒場は遠くからであるが。

 そして買取コーナーの脇を通り、解体倉庫の入り口に辿りついた。


「この中にドラゴンがいる。怖くないか?」


「「「「「こわーい!」」」」


「「「「「こわくなーい!」」」」」


 これも怖がる子と怖がらない子に分かれた。実際どうなるかは蓋を開けてみるまではわからないが。


「よーし。大きい子は怖がる子の手を握ってやるんだぞ。じゃあ、開けるからな」


 そして、蓋ならぬ倉庫の扉が開かれた。


「「「「「うわーっ! ドラゴンだー!」」」」」


 扉を開けると探すまでもなくすぐ目に入る。子供たちは歓声を上げた。どうやら小さな子供たちも釣られて喜んでいるようだ。ヘイスは一安心する。


「恐くないなら、近くに行ってみてもいいぞ。なんなら触ってもいいぞ?」


 ヘイスがそういうと、子供たちは恐る恐る倉庫の中に入る。

 入るといっても数歩で足が止まる。

 このドラゴンは小型だが、体長10mはある。伏せている状態でも高さは3mありそうだ。子供からすると見上げるような大きさだ。


 子供たちは、しばらくは手の届かない距離で眺めていたが、一人の男の子が勇敢にもドラゴンにタッチしたことから、我も我もと続いた。その中にはミスティの姿もある。

 泣く子が出なかったのはヘイスにとって喜ばしいことだった。


 こんな世界だ。ヘイスはダンジョン暮らしとミスティの境遇を知って、魔物の恐ろしさを知ることとそれに慣れることの両方の大切さを理解した。

 子供たちにはトラウマやPTSDになってほしくはないし、魔物を甘く見すぎるのも危険だ。


 ヘイスは子供たちがドラゴンに夢中になっている間に事務長やギルドマスター、ミゲールと話し合いをした。

 ドラゴンを展示することは同意したが、具体的内容とそれ以後の扱いである。


「ギルドから正式に依頼する。祭りの三日間朝に設置と晩に撤去を頼む」


「土産物を仕事に使うのは気が引けるが、子供たちも祭りを楽しみにしているからな。いいだろう、引き受けた。だが、これは5級の依頼になるのか? とどのつまりは荷運びってことだろ? 下級じゃないのか?」


「はははは。ドラゴンを自前で用意できるのはどう考えても上級ですよ。ランクフリーとして処理しますから安心してください。ああ、ちゃんとノルマも達成になりますので」


「わかった。素直に受け取っておこう」


「それよりお前さん、あのドラゴン、傷一つないんだが、どうやって倒したんだ?」


「おう、それは俺も気になったな」


 事務長との話が一段落したと見るや、早速ミゲールが話題を変えてきた。

 ギルドマスターも追従する。


「前にも言った気がするが、魔法で拘束して棒で頭を殴っただけだが?」


 対するヘイスは事実だが説明になっていない答えを提示する。


「ゴブリンやウルフと一緒にするんじゃねぇよ……まあ、気になることは気になるが、仕事の話だ。祭りが終わったら、当然買い取りに出してくれるよな?」


「ああ、そのことだが、こちらも頼みがある」


「言ってみな。アレを買い取れるんならギルマスの権限で出来ることは最大限応じるぜ? なあ、ギルマス?」


「俺かよ!? まあ、ドラゴン丸ごとなんて滅多にないからな。出来るだけのことは聞いてやるぞ?  

 またノルマか?」


「いや。そこまで大げさなことじゃない。あれは孤児院への土産のつもりだ。だが、飾っておくもんじゃない。売ってしまった方がためになるのはわかっている。その売り上げをギルドで管理してほしい。この街の孤児院が金に困っていないなら他の街の孤児院に回してもかまわない。どうだ? できるか?」


「できるかって、そりゃギルドで経営してるところなら簡単な話だ。だが、孤児院にも色々あるんだぜ? 大まかに教会運営と領主運営と個人経営だ。そこにも寄付しろってことか?」


「たかがドラゴン一匹で無茶は言わん。分配のために無駄な会議を開かれてもたまらん。ギルマスの独断で適当に配ってくれ。相手が信用できるなら誰かに任せてもいい」


「中抜きが心配か。孤児たちに直接配っても取り上げられるだろうし、なによりそんなことしたら経費がかかりすぎる。ここは、中抜きじゃなくて経費だと考えて、各運営者に任せることだな。半分が孤児たちに回れば御の字だろうよ」


「世知辛いな」


「孤児院経営してるだけでも立派なもんだ。お前の心配している悪どい連中は別もんだと思え」


「やっぱり孤児を食い物にしてる悪党がいるのか」


「ああ。違法な奴隷商と手を組んでたりする。始めは9の孤児のため仕方なく1の孤児を売ってたのが、いつの間にか自分の懐を肥やすためになっちまう、そんなパターンが多いらしい」


 ヘイスはギルドマスターの話を聞いて考える。

 ラノベからの知識に過ぎないが、孤児問題も奴隷問題もよく知っている。単純な正義感だけではどうしようもない。奴隷はある意味弱者救済の一面もあるからだ。違法な奴隷商だけを処分しても孤児たちが救われることはない。全滅するよりは一部を犠牲にして、という考えは納得できるのだ。

 そして実際孤児たちを救うのは為政者の仕事であるが、そもそも孤児院の経営は生産性ゼロであり、経営者の善性をアピールする手段でしかない。将来性への投資という考えもあるが、この世界ではハイリスク・ローリターンの甘っちょろい考えである。

 むしろ、社会保障の一環として『お前が死んでも子供の生活は看てやるから、安心して死んで来い』と兵士や冒険者に危険な仕事をさせる『エサ』と考えた方がいい。


「……悪いのは社会ってやつか。たまらんな……」


「この街でそんなことは許すつもりはねぇが、他所の街までは口出しできねぇ。口惜しいがな」


「なら、俺もできることをしよう。ドラゴンでいいならちょくちょく持って来よう。分配はギルドに任せる」


「おいおい。ドラゴンをちょくちょくって、お前、一体何者なんだ?」


「俺は見ての通りの旅の魔法使いだ」


 ギルドマスターの質問にいつものように答えたヘイスは、ついにドラゴンに攀じ登りはじめた子供たちを眺めた。


「おじちゃーん!」


 視線を感じたのか、ミスティがヘイスに手を振った。

 ヘイスもそれに答えて手を振り返す。


「お前たち! 今日はドラゴンのステーキだぞ!」


「「「「わーい! ドラゴンのお肉だー!」」」」」


 子供たちから歓声が上がった。


「山で修行してたら知らなかったことでも、もう、こうして知ってしまったんだ。見過ごせないだろう?」


 ヘイスの呟きに答えられるものはいなかった。





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