第56話 8時ダンジョン
新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。
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『相棒はご先祖サマ!?』 https://ncode.syosetu.com/n1665ho/ 火木土0時投稿予定。
鈴木公平改めヘイス・コーズキーはアスラ神から命じられた魔素回収という任務を再開した。
「よう! 久しぶり! 神力変換とやらはどうなった?」
再開したはずなのだが、ヘイスは古巣ともいえるアスラルテア山ダンジョンのコアルームを訪れている。
『特に進展はないのぅ。そなたは帰りが早すぎるのではないか?』
「いや、時計ダンジョン? 36ダンジョンか? その一つをやっと見つけてな。その報告がてら回収した魔素を持ってきた。いやー、森一つ潰しただけでアイテムボックスが一杯になるなんて思わなかったぜ。レベルアップが待ち遠しいぜ」
『なるほど。我の神力変換はまだまだ効率が悪いが、コアルームに入れられるだけ置いて置けばよい。なんならこのダンジョンに放出しておいてもかまわんぞ』
「ああ。そのつもりだ。せっかく転移が使えるんだ。一杯になったらちょくちょく戻ってくるさ」
そういうことだった。
ヘイスは、本当に久しぶりだったわけではないので、事務的に報告を済ませるとコアルームから出て行く。
そして転移魔法で8時ダンジョン前に戻った。
このダンジョンで転移魔法の実験はすでに行なっている。ダンジョン内から直接外には今のスキルレベルでは跳べないのはアスラルテア山のと同じだったので魔法陣のプレートはダンジョンの外と一階層の二ヶ所に設置している。
次の実験はこのダンジョンは階層を跨いで跳べるかどうかについてだ。
アスラルテア山ダンジョンでは問題なく跳べたが、それはコアを破壊した上アスラ神がコアルームに結界を張り続けてシステムを誤魔化しているせいだからかもしれない。
この8時ダンジョンはコアが生きているはずなので、もしかしたら転移魔法が阻害される可能性もある。ヘイスは日本でそんな作品も読んでいた。
「ま、実際試してみないとわからんな」
先ほど鑑定でダンジョンと確認したときは一階層の入り口付近をうろついただけだったが、今度こそ本格的に探索を始める。
一階層はオーソドックスというべきか、入り口から同じような洞窟が続いている。
「お、ネズミか。やっぱりセオリーがあるんだろうな。誰が決めたか知らんが」
鑑定するとダンジョンモンスターと出たので間違いなく魔物だ。
だが、ヘイスは襲ってくるネズミは軽く打ち払うだけに留めて先を急いだ。
ヘイスの任務は魔素回収だが、手順的にダンジョンコアの破壊と回収が優先される。アイテムボックスが魔素で一杯になったら帰還するとはいっているが、優先順位は低い。単なるもったいない精神の発露だ。
なにしろ、コアを破壊すればモンスターのリポップが止まる可能性が高い。先にコアを仕留めた方が確実に仕事がやりやすくなるというものである。例えザコでも魔物を倒すのは面倒なのだ。
「これが階段かな?」
さすがに一階層は複雑な造りではなく、距離はあったが分岐は少なめでマップ持ちのヘイスは難なく次の階層に続くであろう階段を見つけた。
階段といっても洞窟がそのまま傾斜して続いているだけにも見えるので、少し不安だったが、他に選択肢のないヘイスはそのまま進んだ。
しばらく進むと洞窟が水平に戻る。
おそらくここが第二層だと判断し、転移魔法の実験を行なう。
魔法陣のプレートを創り設置して、もったいぶることなく魔法を発動させた。
「転移! ……よし。成功だ。あとは距離なんだが、魔素を大量に込めりゃ大丈夫だろ」
一階層のプレートが設置してあるところからは外が見えるので瞬時に成功を確信する。
ヘイスは再び二階層に戻り、もうここでは使わないと判断したプレートを回収し、最下層目指して探索を再開した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここは10階層……っと」
ヘイスはボス部屋らしきところでメモを取っていた。
ボルサスの街で筆記用具を購入していたのである。早速活躍していた。
マップスキルがあるのに何故メモが必要なのか?
それはヘイスが、小説の主人公のように万能感に浸れないからである。
確かに、ヘイスは3年間のダンジョン生活で多数のスキルレベルを上げていた。一般的には高レベルといってよいだろう。
しかし、ヘイスはこの世界のシステムというものが今一理解できていない。
スキルレベルにカンストがあるのはわかったが、個別でその数値が違うらしい。
生活魔法とアイテムボックスがいい例だ。
片やレベル5でカンスト、片やレベル11になってしまった。
それ以外はレベル5以上10未満だが、いくつでカンストするか予想がつかない。これでは自分の能力の程度がわからないというものである。
HPとMPは最大値と現在値の表記があるのにスキルには分数表記がない。幾多のラノベを読んでいるヘイスにとってこの世界のシステムは穴だらけにしか見えない。
無論鑑定レベルが上がればわかることかもしれないが、それならステータスが誰でも見えること自体必要ないだろうとも思っている。これが仕様だとしたら悪意を感じるレベルだ。ゲームならクレーム殺到だ。
ともかく、ヘイスの鑑定とマップスキルのレベルが足りないせいで、ダンジョンを鑑定しても階層情報はないし、自動で未到達部分が丸裸になるというイージー・モードにはならない。
マップ記録もレベルアップに従って期間は延びたものの遠からず消去されてしまう。
ゆえに、このダンジョン攻略の期間が全く予想できないので、念のため簡単にメモを取っているのである。
「まあ、10階にボス部屋があるってことはここまでが上層ってことだろう……そうだといいな……」
アスラルテア山ダンジョンは上層だけで300層あったと知っていても希望だけは捨てないヘイスだった。
攻略を始めて、体感で10時間は過ぎた。一時間に一層のペースだ。
ゲームではメニュー表示に必ず時間の欄があるが、この世界のステータスには表示されない。確かに現実では時差があるので一律表示は難しいだろう。これもおそらく鑑定のレベル次第だと思われる。
しばらくはまめにアスラ神に確認した方がいい。ノルマ期限もあるし、なにより子供たちとの約束がある。
ヘイスは野営の準備を始める。
「階段部屋か、久しぶりだな。今回からはベッド持参だからラクラク……って、待てよ? もしかしたら、転移使えばボルサスに帰れるんじゃね? あれ? そしたら、毎日ボルサスからダンジョンに通ってもいいんじゃね?」
ヘイスは今の今まで気付かなかった。
「うわー! 何が、おじちゃんは必ず帰ってくる、だよ! 毎日帰れるよ!」
ヘイスは自分の言動を顧みてボス部屋でのたうち回る。
しばらくそうしていた後、ヘイスはノロノロと立ち上がり、階段部屋の整備をし始めた。
「……約束しちゃったからなぁ。その日のうち『やっぱり旅に出るの止めました』ってノコノコ戻るのも情けないよな。ミスティは喜ぶかな? それとも『おじちゃんのうそつき』とかって言われんのかな? わからん。賭けに出るのはやめよう。仕事があるのは間違いないし、最初のダンジョンぐらいは通しで攻略してみるか。神サマのところはノーカンで」
ぶっちゃけるとヘタレたのだ。
それはともかく、ヘイスはダンジョン攻略に一層邁進することになった。
階段部屋で睡眠欲を解消したあと、攻略を再開する。
一日、かは判断できないが、起きてから寝るまで10階層を目標にした。テンプレなのか、このダンジョンには10層ごとにボス部屋があるのでわかりやすい。
そして、階層の種類だが、アスラルテア山ダンジョンで見たようなステージとモンスターばかりで攻略も容易だった。
確かに、1000層もあればこの世界の魔物すべて網羅していたとしても不思議ではない。なにしろ本当に階層が変わったのかと、疑心暗鬼にさせるのが狙いかと邪推するほど同じような階層が多かった。
ゲームなら、運営のネタが切れてグラフィックを使い回していると酷評されるところだ。
アスラルテア山ダンジョンとそれ以外のダンジョンが似通っていたとしても納得出来るというものだ。
そして幾日かが過ぎ。
「あれ? これ、ダンジョンコア?」
いつの間にか最奥に辿りついていたようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(……№9コアの消失を確認。マザー・システムへ報告……)
《・・・・・・・・》
(……マザー・システムより応答なし。マニュアルに従い待機……)
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