第55話 おじちゃんは必ず帰ってくる
新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。
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『相棒はご先祖サマ!?』 https://ncode.syosetu.com/n1665ho/ 火木土0時投稿予定。
鈴木公平改めヘイス・コーズキーは港町ボルサスを出て行くことを決めた。
念願の、というほどではないが、異世界といえば冒険者、冒険者といえば異世界、異論は認める、程度のミーハーな気持ちで登録してみた。
しかし、せっかく登録したからにはノルマの期限が厳しくない中級に昇格しておこうという欲が出た。
ちょうど森の開拓のペースに焦りを感じていたギルド職員とヘイスの思惑が合致し、トントン拍子にランクを上げることができた。
反面、ギルド側は組織であることで、経済面以外で、かなり苦労したようだ。
なにせヘイスの要求は、効率的かつ速やかに、である。一々『持ち帰って会議で検討する』とか『改めてご相談を』などと平時通り口にすると『なら依頼はキャンセルする』と答えが帰ってくるのだ。なまじ利益が見込める上、途中で破棄されるとデメリットしかないので、依頼してしまったからには後には退けなくなってしまったのである。
ヘイスの足元を見て100人分と言いつつそれ以上の仕事を与えたので利益面は十分なのだが、予想外にヘイスの仕事は早くギルドは対応にテンテコマイだったのだ。
しかも、性質の悪いことに、これもギルドの考えが甘かっただけなのだが、ヘイスは時間のかかる枝払いの作業だけは引き受けなかったので、未処理の原木だけが大量に発生することになった。
例えて言うと、自動車の生産の依頼を受けたが、内装だけは引き受けなかったため、大量の未完成品の自動車が納入されたようなものである。
この場合、『大量』という点がネックだった。そちらの処理に職人を手配すると、本来の仕事が滞ってしまうのである。
また、置き場所にも困るという問題もある。
この数日間、ギルド関係者は夜も眠れなかっただろう。
昇級の手続きが終り、まもなく街を出るとヘイスが告げると、どことなくホッとした空気が流れた。
無論残念がって引き止める者もいた。
事務長のアンギラと買取担当のミゲールである。
二人は、いっそのこと上級になるまで開拓を続けたらどうかとヘイスに勧め、ギルドマスターや開発推進本部の職員たちを大いに身震いせたのだった。
ヘイスは二人の好意をうれしく思いながらも謝辞した。
目標の6級どころか5級になることができたので十分以上なのだ。
ちなみに6級昇格の試験は、免除というか危険な森の奥の魔物討伐を試験代わりということにしてもらったので、そのままストレートに5級になることができた。
決して再びギルドマスターが模擬戦相手にさせられることを嫌がったわけではないだろう。
昇級後、ヘイスはダンジョン攻略に向けて準備を始める。
大半は食料の用意だ。最長3ヶ月の予定なのでそれだけの量が必要だ。
なにしろ初見のダンジョン。すべてドラゴン系とかは怖くない。食べられるモンスターが出てくれば御の字だ。しかし、ゴーレムダンジョンやアンデッドダンジョンだったりした場合、モンスターに殺されるのではなく餓死してしまうことが恐ろしい。
ヘイスはアスラルテア山ダンジョンで飢餓の恐ろしさが身に染みているのだ。
あとはベッドと寝袋のような布団も購入した。
ここは熱帯に属するらしく冬も短いので一般的ではないが、たまにダンジョン専門の上級冒険者に売れることがあるので在庫があったのだ。
ヘイスは雪山にも若干トラウマがあるので迷わず買ったというわけだ。
翌日も買い物をした。
当分会えなくなるのでミスティや孤児院の子供たちを連れて、今までろくに観光できなかったボルサスの街並みを散策しながらだ。
勿論シスター・アネリアもお目付け役として同行してもらった。
ミスティは終始ヘイスに抱っこや肩車されてご機嫌であった。
ヘイスとの別れが近づいているのを知っているはずなのだが。
異世界生活19日目。
切りの悪い数字だが、実はヘイスが今まで気にしていなかったこの世界の暦ではこの日が10月1日なのだった。
旅を始める目安としてはふさわしいだろう。ダンジョンの中でどれだけ役に立つかはわからないが。
ヘイスは昨晩は孤児院に泊まらせてもらった。
ミスティがぐずったこともあるが、ヘイス自身名残惜しかったのだ。
早朝、ヘイスは孤児院の前にいる。
この世界、皆早起きが習慣なので小さい子供たちもしっかり目を覚ましている。
勿論ミスティも。
「じゃあ、みんな。元気でな」
子供たちとは昨晩たくさんお話をした。もう言うべき言葉はない。
「おじちゃん!」
ミスティがヘイスに声をかけるがその後が続かない。
子供は子供なりに考えているのだろう。『行かないで』『早く帰ってきて』などとは言わなかった。
「ミーちゃんもいい子でな。おじちゃんは必ず帰ってくる」
「……うん、まってる!」
ヘイスの言葉に両親を思い出したのか、ミスティはどう答えたものかと逡巡したようだ。が、一番ふさわしい言葉を選んだようだ。
これも成長なのかとヘイスは喜ぶ。
ヘイスは後ろ髪引かれながら、孤児院を後にした。
子供たちはヘイスの姿が雑踏に消えるまで見送るのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
孤児院から中央区を通り南東へ向かう。
この街に来たときと同じ東門から出て行くつもりだ。
東門と言っても向きが東向きなだけで実質南にあり、南街道に繋がっている。
ヘイスは冒険者カードを使いすんなりと街を出ることができた。
そのまま街道を東に向かって進む。
同じ方向に向かう人間は多かったが、現代日本に比べれば疎らも疎らである。
ヘイスは人目がなくなったタイミングで北側の森に足を踏み入れる。
森が目的地ではない。
さらに人目を避けるためだ。
「久しぶりだな。ちゃんと発動するかね……《転移》!」
そう。人里に下りてからは使わなかったスキル《転移魔法》である。
真の目的地はダンジョン。
記念すべき一ヶ所目は、やはり下山後初めて降り立った小山の近くのダンジョンに決めていた。
ヘイスが転移したところには、間違いなくヘイスが創った魔法陣のプレートがあった。
そして遥か遠くにアスラルテア山の山頂が幽かに見える。
転移は成功のようだ。
だが、ここはあくまでも中継地点。ダンジョンは、アスラ神からの情報によると、アスラルテア山を中心とした円周上に時計の文字盤のように存在しているらしい。
ここから一番近くても100kmほど離れていて、時計の文字盤の7時と8時に当たる。
ヘイスはなんとなく8時を選んだ。本当になんとなくである。
空中に魔法で飛び上がり、方向を確認すると空中で転移する。100kmも一瞬だ。
転移後、再び空中に飛び上がった。
今度は転移するためでなく、ダンジョンを探すためだ。
マップスキルで方向と距離がわかるので、あとはアスラ神の情報と照らし合わせればよい。
だが、捜索は困難を極めた。
空を飛ぶ魔物の襲撃と大地が森に覆われているせいだ。
面倒になったヘイスは、地球なら非難されまくること間違い無しの強硬手段に訴える。
魔素吸収で森ごと分解するという荒業を使った。
ダンジョン産の木ではないので完全崩壊はしなかったが、ヘイスの魔法効果範囲の木は軒並み枯れてしまった。
そこに生息していた魔物たちもすべて倒れている。HPは1か0になっているだろう。
ヘイスはそんな魔物たちは無視して、見通しのよくなった元森を再び探索した。
程なく小さな丘に洞窟を見つける。
「鑑定……よし! ダンジョン発見!」
ヘイスは洞窟に足を踏み入れ、壁に鑑定をかけた。
とうとう目的地に辿りついたのだ。
だが、目的地はここではあるが、目的はコアの破壊ならびに回収である。
ヘイスの任務は始まったばかりだ。
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