第51話 大物ムーブ?
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『相棒はご先祖サマ!?』 https://ncode.syosetu.com/n1665ho/ 火木土0時投稿予定。
鈴木公平改めヘイス・コーズキーは森の開拓現場で樵に絡まれた。
「お前のせいで仕事が増えたじゃねえか!」
その樵は一方的にヘイスを責めていた。
だが、今のヘイスは弱小サラリーマンなどではない。言われっぱなしではいられない。
「仕事が増えたというが、冷静に、落ち着いて考えてみろ。名目は増えたかもしれんが、実際の仕事量はかわらないはずだ。ここで木を切るのも、門で枝を払うのも同じ仕事だろう? 報酬が変わるわけじゃあるまいし。街に近いだけ移動が楽になるんじゃないか?」
樵はヘイスの言葉に思うところがあったようだが、まだ不満そうであった。
「だ、だが、こっちにもダンドリってもんがあるんだよ! それを勝手に増やしやがって!」
「勝手にじゃないぞ? 俺もギルドから依頼を受けただけだ」
「そ、それは……」
「まあ、まあ。気持ちはわかるぞ?」
ヘイスは、異世界といえど、むやみやたらと人間関係を破綻させようと思っているわけではない。言葉で済むなら相手の機嫌を取ることも出来る。これは元サラリーマンとしてのスキルだ。
「俺もな、この依頼受けてからギルドから横槍が入ってな。やれ木を運ぶのは中止だの、やれ別の場所に移動してくれだの、挙句ギルド除名をチラつかせてきやがって、よっぽどこの依頼を蹴ってやろうかと思ったぜ」
「そ、そいつは災難だったな……」
「まあ、お互い雇われの身だ。雇い主の理不尽な要求もよくあることだ。気楽にかまえて、譲れるところは譲って、譲れないなら蹴っ飛ばせばいい。腕があるならどこでも生きていけるさ」
「腕か。そう、だな。悪かったな。急に大量の原木が持ち込まれて仕事が増えたと思っちまったが、何のことはねぇ、樵の仕事をバカにされたと思ってたんだな。俺には魔法も使えねぇし、木を切るしか能がねぇからよ。
だが、考えてみりゃ、目の前の森全部切るのが仕事なんだよな。あの程度で驚いてちゃ、この先やっていけねぇよな」
「そうだな。そう考えるのが合理的ってもんだ。俺は魔法使いで樵じゃない。そこに上下はないぞ。俺にはひたすら木を切り続けるなんて才能はない。そこはアンタたちを尊敬するよ」
「そう言われるとテレるぜ。そういや奥の方一人で切ってるんだろ? なんでまた? ここで一緒に働けばいいじゃねぇか」
「ここで働くとノルマが計算しづらいんだよ。プロのアンタには悪いが、魔法を使うと効率が段違いなんだ」
「そういや、あの量見て驚いたんだっけか。ホントに一人でなのか?」
「まあ、伐採と整地と運搬に魔物の対処だな。枝払いだけは勘弁してもらった」
「ああ。確かにアレは時間だけはかかるからな。で? どんぐらいの広さだ?」
「100人で一日で出来る範囲だとよ。縦が半町で横が2里ってとこだ」
「半町……2里ってむちゃくちゃ広いじゃねぇか! しかも切るだけじゃねぇんだろ!?」
「それがこっちが譲った部分だな。代わりに枝払いは断った」
「そうか、その皺寄せが門のアレか」
「まあ、そういうことだ。文句はこの条件を決めたギルドに言ってくれ」
「今更文句はねぇよ。どうせ俺らが切るはずの木だったんだ。順序が変わっただけだろ? 後が楽になると思えばどうってこたぁねぇよ。ああ、なるほど、コレが合理的ってヤツか」
「その考え方ができればつまらんことで腹も立たなくなる。ストレスも溜まらないぞ?」
「どこぞの隠者みてぇだな。まあ、気にしておくぜ。おっと、悪かったな、アンタの仕事の邪魔しちまった」
「気にするな。俺もプロの話を聞けてよかった」
「ワハハハ。うれしいこと言ってくれるねえ。一杯やりたくなるじゃねぇか」
「ああ。今度な。じゃあ、お互い仕事に精を出そうぜ」
「おう、アンタもな。一人だから気をつけろよ?」
「ありがとよ。じゃあな」
絡んできた樵とは和解できたようで、ヘイスは樵と別れて森へ向かう。
その前に、護衛の冒険者がヘイスを見て不思議なものを見るような表情をしていた。
「どうしたんだ?」
「あ、いや、なんかスゲーなって思って……」
「……よくはわからんが、問題がなければ俺は行くぞ?」
「あ、ああ。問題ない……あ。そうだ。ここ、北方面の魔物が減ったんだ。アンタのおかげだろ?」
「獲物を奪ってしまったか?」
「いやいや。護衛の仕事がやりやすくなったよ。この調子だと、樵たちの仕事も絶対やりやすくなるはずだ。感謝するよ」
「そうか。お互い依頼をこなしてるだけだ。気にすることはない。じゃあな」
また一人理解者が増えた気がしたヘイスは、大物ムーブで立ち去った。
しばし森の中を歩き、ヘイスの担当エリアに到着する。
今日はギルドと開拓現場で少し時間を浪費したが、そこまで大したことはないといつもどおり作業に取りかかる。いつもどおりといってもまだ二日目なのだが。
今日はルーチンにさらにゴブリンの死体処理が加わる。
伐採&限界まで回収、その後整地済みの場所に材木を放出。新たに切った根っこ掘り&整地、作業中乱入してくる魔物の対処。
この整地のついでにゴブリンの死体を処理する。
アスラルテ山アダンジョンでゴブリンの魔石取りは散々経験した。胸を特製セラミックナイフで切り裂き心臓横の魔石を取り出し、右耳を切り取る。あとはマイクロバブルで洗浄しアイテムボックスに保管する。
死体は魔素吸収と水分除去でカラカラにして、同じく乾燥させた下草や潅木と一緒に焼くだけだ。
残骸はアースコントロールで土壌に混ぜて整地は完了する。
今日からは門まで原木を運搬する必要がなくなったので、ヘイスは昼食も森で取ることにして、一日中開拓に精を出した。
おかげでこの日は北エリアの2分の1が開拓でき、二日目にして合計5分の4となった。
残るは5分の1である。
この日は昼食を孤児院で取れなかったので、代わりに夕方顔を出してミスティとの約束を果たした。
この調子だと、ダンジョン攻略に出かけられるか心配なヘイスだった。
異世界生活7日目。
この日も早朝からギルドでヘイスの姿が見られた。
ミゲールとの約束どおり昨日の買取清算と新たな持ち込みのためだ。
しかし、ヘイスにはもう一つ目的があった。
「すまんが、開拓本部の誰かを呼んでくれないか? 話がある」
依頼の受付カウンターは冒険者で一杯なので、利用者のほとんどいない買取コーナーの職員に頼むことにしたのだ。
「おう、呼んできてやれ。お前は倉庫な」
ミゲールが職員に指示したおかげでヘイスの目的は果たせそうだ。
一安心して昨日と同じ倉庫に向かう。
同じように床に魔物の死体を放出した。狼多め、ゴブリンなしだ。
「なあ、こいつらどうやって倒したんだ? 傷一つないんだが」
「棍棒で脳天を叩いただけだ。傷ができるわけがない」
「棍棒でな。まあ、ギルマスとの試合を見たから不思議じゃないが、魔法使いらしくねぇな」
「勿論魔法使いらしく魔法で足止めして棍棒でとどめを刺したんだ。傷がつくと安くなるのは常識だからな。木を切るのとはわけが違うさ」
「違ぇねぇや。昨日のもだが、こいつらも最高評価で引き取るぜ。今日はすぐに出かけないんだろ? ちょっと待ってろ。清算してくる」
ヘイスは開拓地の話もあるので倉庫で待たせてもらう。
程なくしてミゲールとモンドールが連れ立ってやってきた。
まずはミゲールから魔物の代金を受け取る。
これは明細も短時間で済んだ。
そして今日の本題に入る。
「ヘイスさん、話とは……」
これまでのヘイスとの遣り取りで苦手意識でもできたのか、モンドールは腰が低い。
「ああ、大したことじゃないが、今日の午前で北のエリアの開拓が終わる予定だ。できれば午後には他の3つのエリアの測量をしておきたい。この前のマップ持ちの派遣を頼む」
「は?」
モンドールはフリーズしてしまった。
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