第50話 一方的に利用されるのは御免だからな
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『相棒はご先祖サマ!?』 https://ncode.syosetu.com/n1665ho/ 火木土0時投稿予定。
鈴木公平改めヘイス・コーズキーはギルドマスターにケンカを売った!?
今後の人間関係がどうのこうの言っておきながら辛辣な態度で正論をぶちかましたヘイス。
正論は時に人を傷つける。
売り言葉に買い言葉でギルド除名を口にしたギルドマスター。
さすがに周りが止めた。
哀れギルドマスターは退出となり、改めて契約の運びとなった。
その場にいた大部分の職員は苦々しい思いで成り行きを見守っていたが、実はこの契約は最初から最後までギルドに不利な点はなく、利益的にはヘイスよりギルドの方がずっと大きいはずなのだ。
そのことをきちんと把握しているのは事務長だけのようである。
ギルドマスターもそうだが、皆感情的にヘイスに交渉で負けたと思っているのだから性質がわるい。
何故こんなことが起きているのかといえば、ヘイスの実力がギルドの想像の斜め上を行っているからで、例えると、小さな弁当屋に急に大口の注文が舞い込んできて、最近不景気だったので思わず受注してしまったようなものだ。
確かに利益は出るだろうが、その処理にマンパワーが足りない。
誰かに助けを求めるか、或いは誰かを恨むか、だろう。
特に職員となればいくら忙しくても給料は変わらないだろうから、一層忙しさの原因が憎くなるというものだ。
ヘイスは一人でも理解者がいることに胸を撫で下ろす。もし一人も理解者がいなかったら、冒険者ギルドという組織に幻滅し、ひいては異世界そのものに絶望したかもしれない。
思い違いをしている職員たちへの説明は事務長に任せて、ヘイスは契約を詰める。
事務長の助言でほぼヘイスの要求が通った。
開拓範囲は変わらず。
ノルマ100件分も変わらず。
切った木は枝を払わず開拓した場所に放置。
開拓完了から4日以内に新たな材木置き場の指定がなければ、それ以降は別途契約になる。この4日というのがヘイスの譲歩した点だ。おそらく誰も譲歩だとは思っていないだろうが。
守銭奴、という言葉がある。それでいうとヘイスは『守ノルマ奴』あるいは『守時間奴』になるだろうか。それともただの効率中か。
どちらにしろヘイスは変人という評価を免れないだろう。その行動の根底に神からの依頼があるということは公表できないのだから。
契約の見直しが終わってもまだ何か言いたそうなモンドールに、追加要求があるなら新しく依頼を出せ、と釘を刺してヘイスは会議室を出た。
詫びのつもりか、事務長が外まで送ってくれる。
途中事務長に事の経緯を聞かされた。
なんでもモンドールにヘイスを推薦したのは事務長だそうで、それはおかしなことではなかったが、モンドールは上級並みの実力者を下級冒険者のコストで開拓に使えるかもと俄然興味を持ったのだという。
しかし、ヘイスは異常に昇級にこだわっており、実力から言ってゴブリン駆除などであっという間にノルマを稼ぐだろうとの予測も伝えたそうだ。
是非その前に開拓の依頼を受けてもらおうと急遽開かれたのが昨日の茶番付き会議だそうだ。余りにも性急だったものだから計画が穴だらけなのも仕方がないと事務長は苦笑しながら語った。
その説明に、ヘイスは特に感想はなかった。
強いて言えば、『泥縄』『見通しが甘い』『詰めが甘い』『取らぬ狸の皮算用』というところで、総評としては、『よくあること』だ。コメントするほどの大事件じゃない。
やはり邪神の使徒は価値観が違うようだ。
ヘイスはそれを痛感しながら一旦ギルドを出る。
契約書をもらいに来ただけなのに結構時間を取られたようだ。すでに外は日が落ちている。
受付も買取も仕事を終えた冒険者でいっぱいで、並ぶ気が起きなかった。
本当は買取窓口に相談があったのだが、明日にしようと改めてギルドを後にした。
翌日早朝、割のいい依頼を求める冒険者たちでギルドが混雑する時間帯、ヘイスは珍しく姿を現した。
依頼を受けるためではない。どちらかというと達成報告のようなものだ。
ヘイスは依頼掲示板や受付カウンターをスルーし、買取コーナーに向かう。
「おう、昨日はギルマスと遣り合ったんだって?」
買取コーナーはこの時間混雑とは無縁のためか、ニヤニヤ顔のミゲールが出迎えてくれた。
表情からしてヘイスを敵視していないようである。
「まあな。それでちょっと聞きたいことがある」
「なんだ? ギルマスの弱みか?」
「森でいくらか魔物を狩った。それらを処分したいんだが」
ヘイスはミゲールの戯言をスルーし、訪問の主旨のみ告げる。
「何だよ、ノリが悪いな。まあ、いいか。それで、魔物の種類は?」
「ほとんどがゴブリンと狼だな。あとはウサギが少し」
「何体ある?」
「100ぐらいか」
「狼とウサギは買い取ってもいいぞ。いつでも持って来い。だが、ゴブリンはいらねえな。魔石ならともかくよ」
「そんな気はしてたんだが、じゃあ、どうすればいいんだ? ゴブリンも依頼があるんだろ? どうやってノルマを査定するんだ? 魔石はノルマにならんと聞いたが」
「なんだ、そこからかよ。まあ、教えてやるが、この辺の魔物は、ウサギやネズミは8級、狼やゴブリンは7級の依頼になってる。10体でノルマ一件だな。証明部位はシッポのある魔物はそのシッポだ。ゴブリンは右耳だ。いいか? 右だぞ。たまに左耳を持ってきてゴネるヤツがいるが、絶対認めねえ。それから魔石はあちこちで売ってる。証明にはならんな」
「一日で10匹狩れなかったら? 或いはネズミ5匹ウサギ5匹なんて場合はどうなる?」
「別に一日で集める必要はねえさ。そのためのノルマ期間でもある。ゴブリン以外は大抵丸ごと提出だ。こっちで記録取ってるから一日一体でも日銭は稼げる。大体は他の、薬草採取のついでの仕事だな」
「なるほど。聞いたことがあるような、ないような……じゃあ、証明部位が欠損してる固体がいたらどうなる?」
「どうもならんな。運が悪かったな、でお仕舞いだ」
「なるほど。まあ、所詮は下級の依頼か。大体納得したが、結局ゴブリンはどうすればいいんだ?」
「魔石を取り出して、ノルマをこなしたけりゃ右耳切り取って、あとは廃棄だ。街や街道の近くに捨てるんじゃないぞ」
「ここで処分してくれたりは……」
「金にならねえゴブリンはお断りだ」
「わかったよ。自分でやるよ。バラして燃やして埋めれば問題ないだろ? じゃあ、ゴブリン以外を引き取ってくれ」
「わかった。こっちに来てくれ」
ヘイスはカウンター脇の通路を通り、ラノベ知識でいう解体倉庫へと案内された。
「ここに出しておいてくれ。すぐに査定する」
「いや、これから仕事だからな。また明日この時間に来る」
ドサドサと魔物の死体を床に積み上げてヘイスはそう言った。
「わかった。キチンと査定しておくからな。証明部位はどうする? もう要らねぇだろ?」
ヘイスとギルドの取り引きを知っているミゲールが確認してきた。
「いや、一応ツケといてくれ。今の依頼がどうなるかわからん。もしかしたらゴブリン駆除の方にシフトするかもしれんでな」
「おいおい、ギルドも信用されてねぇなあ」
「一方的に利用されるのは御免だからな」
「わかってるよ。折をを見てモンドールとギルマスに忠告しておくよ」
「自浄作用が機能するのを期待してるよ。じゃあ、またな」
事務長・アンギラのほかはミゲールがヘイスの理解者のようだった。
うれしく思いながらヘイスは森へ移動する。
開拓現場に差し掛かると何か雰囲気が悪い。
近くに護衛の冒険者が苦笑していたので事情を聞いてみる。
「アンタだろ? 門のところの大量に積んであるヤツ。あれの処理で樵の半分引っ張られて行ったからな、こっちが思うように進まないのさ」
「ソイツは災難だったな」
「おい! お前が余計なことしやがったのか!」
樵の一人がヘイスに怒鳴った。
どうやら災難はヘイスにも降りかかるようである。
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