第49話 だが、条件がある
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『相棒はご先祖サマ!?』 https://ncode.syosetu.com/n1665ho/ 火木土0時投稿予定。
鈴木公平改めヘイス・コーズキーは冒険者にして、今は開拓者である。
知己を得た孤児院で昼食を取り、幼年組が昼寝するのを見届けてから孤児院を辞した。
この後は開拓の時間だ。一日目の午後の部が始まる。
そう意気込んで北東の門を出ようとすると、何故か門衛に止められた。
「待ってましたよ」
そう言って現れたのは、ギルドの幹部、開発推進本部の責任者・モンドールであった。
「俺に用か?」
想像はつくが、形式的な遣り取りに過ぎない。
「材木置き場のことでご相談したいのですが」
「かまわんが、歩きながらで頼む。時間は有効に使いたい」
「え? ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
ヘイスは返事を待たずに森林方向に歩き始める。
モンドールたちは仕方なくヘイスを追いかけた。
「へ、ヘイスさん、午後もアレと同じぐらい運んでくるって聞きましたが……」
「ああ、その予定だ」
「ちょっと困るんですが……」
「そういう契約だ。大体何に困るんだ? 野菜や魚と違って腐るものではないだろう?」
「いえ、置き場所が……」
「壁沿いで問題あるのか?」
「警備の人間が不安がっています。魔物が飛び越えやすくなるんじゃないかと」
「短期間なら大丈夫だと言っていたが?」
「あの量を短期で処理はできませんよ」
「なら、街道沿いに置くか?」
「それはもっとマズイです。盗賊は滅多に出ませんが、隠れる場所があんなにできては通行人が怖がります」
「ふむ、じゃあ、海岸はどうだ?」
「確認はしてみますが、あそこは輸出用の材木置き場もありますから、空いているかどうか……」
「なら、確認してから出直してくれ」
「いえ、ですから、材木置き場を新たに確保するまで運搬を待っていただければと思いまして……」
「ふむ……だが、断る!」
「え? そ、そんな、困りますよ」
「いや、違った。確認するが、待つのは運搬だけで、開拓は進めていてもいいんだな?」
「え、ええ。それはもちろん」
「わかった、それならかまわん。だが、条件がある」
「条件、ですか?」
「ああ。切った木は開拓済みの場所に置くことになるが、そこがギルド指定の仮置き場と看做す。期限は俺が予定の開拓を終えるまで。そこで契約満了だ。以後再運搬は別契約になる。俺に運んでほしかったら開拓が完了する前に置き場所を手配することだな。どうする?」
ヘイスの条件を聞いてモンドールは悩んだ。連れの職員とも相談している。
そうしているうちに開拓の前線が見えてくる。
「わ、わかりました。その条件でいいです」
「そうか。責任者だけはあるな。ああ、書面にしてもらうぞ? 今日の夕方ギルドに取りに行く。これ以上の譲歩はするつもりはない。反故にするなら契約も破棄する。元々ギルドに有利な取引だ、誠意を見せろよ?」
「わ、わかりました。で、ではこれで」
一応話し合いは終わり、モンドールたちは開拓現場の手前でUターンしていった。
おそらくギルドで幹部会議でも開くのだろう。
ヘイスは、朝と同じく、開拓従事者たちに挨拶をしながら森に入っていった。
体感で2kmほど歩くと開けたところに出る。午前中ヘイスが開拓した土地だ。
「さて、面倒が増えそうだが、始めるか」
手順は少し変わるが、大まかな作業内容は変わらないはずだ。
ヘイスはなるべく効率よく作業を進めた。
伐採&限界まで回収、その後整地済みの場所に材木を放出。新たに切った根っこ掘り&整地、作業中乱入してくる魔物の対処。
ヘイスはこの作業を二度繰り返した。材木の運搬がなければこんなものである。午前と合わせて大よそ10分の3開拓できた。このペースなら、あと二日でこのエリアは完了する。
ギルドは置き場探しが間に合うのだろうかと他人事のように心配した。
夕方になる前にヘイスは街に戻ってきた。
門を潜る前、門衛に睨まれる。
「安心しろ。ギルドと話はついた。ここには持ってこんよ。ところで、もう作業してるんだな」
ヘイスの目に止まったのは門衛の表情ばかりではない。
昼に放出した材木の山に人だかりができている。
コンコンと音も聞こえてくるので枝払いの作業だろうと想像はつく。
「当たり前だ。いつまでもあんなところに置いとかれちゃたまらん」
「文句はギルドに言ってくれ。俺はただ指示に従っただけだ。じゃあな」
まだ不満そうな門衛をスルーしてヘイスは入場する。
カードのおかげでスムーズだ。確かに冒険者になっていた方が今後も便利だろう。だからこそ早めに中級になっておきたい。
そんなことを再認識しながらヘイスは夕暮れ迫る街並みをギルドに向かって進む。
何事もなく到着。
「ステラ嬢。開拓本部のモンドールと約束がある。呼んでくれないか?」
「はい。少々お待ちください」
まだ日没には早かったので受付はそこまで混雑しておらず、ヘイスの順番が来るのも早かった。
そしてモンドールが反応するのも早く、ヘイスは先日の会議室へステラに案内された。
会議室には先日ほどではないが人が集まっていた。顔を覚えているのは開拓推進本部の関係者が多かった。事務長・アンギラとギルドマスターの姿も見える。
「ヘイスさん、どうぞお座りください」
「俺は契約書をもらえればそれでいいんだがな」
あまり手厳しいのも今後の関係に悪影響するかもしれないので、言う通りに席に着く。
「実は、ご相談がありまして」
「手短にな」
「北東門脇の原木ですが、移動していただきたいのです」
「ふむ……まあ、それくらいなら依頼の範疇だからかまわんよ。ただし、一度だけだ」
「そこをなんとか……」
「断る。話はそれだけか? 契約書がないなら開拓の件もこれまでだな」
「ま、待ってください!」
「まあ、そう結論を急ぐな。話し合いはこれからだろ?」
ヘイスがモンドールの要請を断ると、ギルドマスターが口を出してきた。
だが、ヘイスの気持ちは変わらない。
「俺には話し合いたいことはないな」
「そう言うなよ。お前だって依頼失敗にはなりたくないだろ?」
「俺は材木置き場を指定しろと言っただけなんだがな」
「そこを相談しようって話じゃねぇか」
「一介の下級冒険者の出る幕じゃない。そっちで決めてくれ。それより契約書か契約破棄か結論を出してくれ」
「おい。本気で言ってるのか? 契約破棄だと? ペナルティーになるんだぞ?」
「ギルドの落ち度で破棄するのにペナルティーが付くのか? それでもかまわんが、なんならこのまま開拓を続けてもいいぞ?」
「なんだよ。わかってるんじゃねえか」
「ただし、もとの契約どおり材木の置き場所は門の壁際だ。毎日積み上げてやるぞ?」
「てめぇ、ギルドを脅す気か?」
「それは困ります! ギルマス! 何ケンカ売ってるんですか!?」
「ケンカ売ってきたのはコイツじゃねえかよ!」
「いえ。私も今のはギルマスの落ち度だと思います」
今度はアンギラまで口を出してきた。
ただし、ヘイス寄りで。
「なんだよ? お前まで」
「いいですか? 我々はお願いする立場です。そこを忘れてはいけません」
「だがよ、こっちだってコイツに中級昇格っていう便宜図ったんだぜ? ちょっとぐらいこっちの要求を呑んだっていいだろうが」
「取引を持ちかけたのはギルドからだ。俺は地道にゴブリン千匹でもよかったんだぞ?」
「きゅ、9級のノルマだって認めてやったろ!」
「あれはギルドの不備を指摘してやっただけだ。どう改善するかはギルドの決定だ。俺には関わりはない」
「くっ……ギルドを除名するぞ……」
「「ギルマス!」」
「ふっ、元の旅の魔法使いに戻るだけだな」
「申し訳ありませんヘイスさん! ギルマス、出て行ってください。お願いします」
「ちっ、わかったよ……」
ギルドマスターは苦い表情で退席していった。
「すみません。私がグズグズしていたものだから、ギルマスが私をフォローするつもりで……」
「ああ、そのことは気にしなくていい。俺はどうとも思っちゃいない」
「……では!」
「だが、契約は別だ。俺は時間の浪費が一番嫌なんだ。早く契約書書くか破棄するか選べ」
「モンドールさん。これはヘイスさんが正しいです。契約書を作り直して運搬は別途依頼を出しましょう。なにもかも一度に済まそうとするからダメなんです」
「わ、わかりました。契約書を書きます……」
ようやく帰れそうなヘイスであった。
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