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第47話 ヘイヘイホ~

新作始めました。


二作品あります。是非よろしくお願いします。


初回連投。4/1、第1話、4/2、第2話、4/3、第3話、各話とも0時投稿予定。


『鋼の精神を持つ男――になりたい!』 https://ncode.syosetu.com/n1634ho/


『相棒はご先祖サマ!?』 https://ncode.syosetu.com/n1665ho/

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはギルドからある取引を持ちかけられた。


 それは中級冒険者への直行便のような条件だったので、ヘイスはその取引に応じた。




「ぼぉ~けんしゃは~、きぃ~をきるぅ~、ヘイヘイホ~、ヘイヘイホ~」


 異世界生活五日目。

 現在ヘイス以外誰もいない森で樵の真似事をしている。魔法を使ってだが。


 ギルド側からの要請は森の北、北北東、東北東、東の四ヶ所に、それぞれ半町×半里の更地を造ることである。

 この世界の半町×半里というのは地球でいうと54m×650mで35100㎡だ。

 数字だけ見るとさして広くない。

 歩幅65cmの人間が歩くと、縦が1000歩、横が90歩足らずなのだ。


 散歩したり運動したりする分にはちょうどいいかもしれない。

 しかし開拓となるとなかなかの広さである。

 ましてや、魔大陸は魔素が濃いので植物も成長しやすい。仮に、ありえないとは思うが、1㎡に一本ずつ樹木が生えているとすると、なんと35100本だ。一坪に一本としても10800本生えている計算になるのでとんでもない労力が必要である。

 ギルドの開拓推進本部の試算では、一人で開拓して25日分らしい。というより、上級冒険者なら簡単だろうという、魔法が存在し、レベル制の異世界ならではの発想だ。

 ただし、コストパフォーマンスという点は地球と同じらしく、ワケありの下級冒険者であるヘイスに白羽の矢が立ったというわけだ。



「じゃしぃ~んのしぃ~とぉ~だよぉ~、トントント~ン、トントント~ン」


 8級に昇格したその日にこの依頼を受け、午後には北側の測量を済ませたヘイスは、皆の予想通り翌朝から開拓を開始していた。

 しかし、人目がないのをいいことに、おかしな歌を歌いながらのんびり作業をしている。


 ヘイスは、開拓とは少し違うが、アスラルテア山ダンジョンの密林ステージ攻略のため、大量伐採&即時回収はお手の物だ。

 この程度の森など、散歩感覚で更地にできるはずである。まさにヘイスの歩いたところが道になり、ついでにぺんぺん草も生えない、を地で行っている男なのだ。


 確かに、ヘイスは何よりも効率、時間を重視している。今回もさっさと中級冒険者になりたいがための選択なのだ。

 しかし、急ぐにしても限度があるのをヘイスは理解している。


 ヘイスの現在の唯一の目標は地球への帰還である。

 そのための手段として魔素回収が任務として与えられたのだが、仮にヘイスが必死になって今すぐ全世界の魔素を回収したとしても、ヘイスの目的は達せられない。

 なぜなら、回収した魔素をアスラ神が神力に変換しなければ意味がないからだ。


 アスラ神曰く、魔素を神力に変換するのは現状非常に効率が悪い。少しでも神力が溜まったらそれを使い頻繁に権能をバージョンアップさせて変換効率を上げないとアスラ神はいつまでたってもダンジョンから動けない、だそうだ。


 このアスラ神の言い分は、ヘイスは日本人としてよく理解できた。ヘイス自身はあまりゲームは嗜まなかったが、日本には、給料日になる度にゲームに課金しキャラをステータスアップさせている人間がどれほどいたことか。

 そして、ヘイス自身が体験しているスキルのレベルアップも同じことである。レベル1当時のアイテムボックスはショボかった。ほかのスキルも同様だ。しかし、レベルアップする度に使い勝手が良くなるのだ。


 そんな理由からヘイスの基本姿勢は『アスラ神待ち』なのである。

 アスラ神さえダンジョンの次元の穴を塞ぎながら自由に動けるようになれば、そのときこそヘイスは晴れてお役御免。日本に送ってもらうもよし、この世界に骨を埋めるのもよし、なのだ。

 もちろん、そのためにも、今は動けないアスラ神に代わって魔素を回収しなければならない。その頻度は始めチョロチョロ中パッパ、であろうか。結局アスラ神の変換効率次第ということだ。


 ゆえに、今はヘイスが焦る必要はない。

 ただ、アスラ神のタイミングに合わせる必要があるため、自由な時間は確保しておきたい。ノルマのせいで足を引っ張られるのはヘイスの望むところではないのだ。

 中級の冒険者、6級になればノルマは月に一回。連続ペナルティーを限界まで利用すれば5ヶ月間自由に動ける。ダンジョン攻略には十分だ。少なくとも回収した魔素をアスラ神に届ける時間は出来る。


 ヘイスが昇格にこだわっている理由はそこにあるのだ。


 だから、6級昇格まで通常で最短100日と言われると、それは拒否したいところだが、じゃあ、チートを使って一日で済ませるのかといえば、そこまでする必要はないと考えている。


 元々の計画ではしばらくは久しぶりの人間の生活を楽しんでからダンジョン攻略に取り掛かるつもりだったのだ。

 つまり、その『しばらく』というのがノルマ達成に利用できる限界だろう。


 ヘイスは、大体2週間くらいかな? と考えている。サラリーマン時代、これぐらいまとまった休みなど取れたことはない。一種ささやかな夢だったのだ。


「ジャン、ジャジャジャンジャン、ジャン、ジャジャジャン~、よさぁ~……おっと、吸収!」


「ガウッ? ガウ! ガウ!」


「今度は狼か。ま、何匹来ても同じだよ。吸収!」


 狼系の魔物が群れで襲ってきたが、三年間のダンジョン生活で探査系スキルを軒並み取得済みのヘイスに死角はない。

 第一陣が魔素枯渇で倒れたのを見て焦ったリーダーらしき魔物が総攻撃をかけたが、ヘイスの魔素吸収の前では自ら罠に嵌るようなものである。リーダーは逃げ出すべきだったのだ。


 すべての狼をHP1にしたヘイスは愛用の棍棒でとどめを刺して回る。すでに冒険者となった上は慈悲はない。

 解体やランクの確認は後にしてとりあえずすべてをアイテムボックスに回収する。


「うーむ。アイテムボックスがいっぱいになってきた。今日はこれで勘弁してやろう」


 現在ヘイスのアイテムボックスはレベル11で実質レベル10である。容量は、魔素回収用にカスタムした分が10尋×10尋×9尋で、これは日本人にわかりやすく換算すると押入れ1800個分である。

 さすがに10000本の樹木は入らない。


 材木の集積場と開拓地を何度か往復しなければならない。

 これもヘイスが一日で開拓を終わらせられない理由だ。


 ヘイスの計画としては、朝ゆっくりと出勤、伐採&限界まで回収、昼まで時間がかなり残るので根っこ掘り&整地、昼前に集積場で材木を放出、街か孤児院で昼食を取りしばし休憩。午後からも同じ工程を日暮れまで続ける。

 このルーチンを繰り返せば、一つの開拓予定地で五日間もあれば十分だと思われる。四ヶ所で二十日間の工程だ。


 100日の試算が20日で済むわけだが、ヘイス的にも満足な数字だ。

 下級冒険者としては周りに驚かれるかもしれないが、魔法使いとしてはベテランであることと、アイテムボックス持ちであることは公言しているので、驚かれるにしても常識の範囲内で済むことだろう。

 例えると、酒場で知り合った女性が、実は貴族令嬢だった、というのと、実は幽霊だった、というのでは驚きの方向性が違う。

 ヘイスは前者を狙っている。決して異世界人で邪神の使徒だということはバレてはならないのだ。


「魔素吸収! おお、草が枯れた。しかし、これじゃ土の養分も枯れてるんじゃないか?」


 根っこ掘りを、どうすれば簡単に出来るか研究中のヘイス。

 持てる権能をすべて使ってみる。


 システム上の土魔法に《アースコントロール》という、地面を液状化させて動かすスキルがあったので使ってみると、なんとか根っこを地上に浮き上がらせることができた。

 ヘイスはこれに《原初魔法》を組み合わせて魔素のゴリ押しで掘り出すスピードを上げることに成功する。


 あとは下草や材木にならない潅木だが、魔素吸収は土壌にも影響しそうなので、アースコントロールで一ヶ所にまとめて火魔法で灰にし、整地の段階で適当にばら撒く方針にした。



「さて、昼も近くなったし、街に戻るか」


 予定地の10分の1ぐらいが更地になっている。根っこは数ヶ所に放置されたままだが、一日目の午前のノルマは概ね達成されたようだ。

 あとは材木の運搬だけである。


 ヘイスの足取りは軽かった。


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