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第43話 見たい人には見せてあげようじゃありませんか

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーは情報の大切さを改めて思い知らされていた。


 といっても、大事が出来したわけではない。

 12歳の子供がすでに冒険者として社会に出ていることを知ってしまっただけである。


 そのこと自体は本当に大したことはない。

 ギルドでもっと詳しく説明を聞いていれば入手できた情報であり、ラノベ知識にも似たようなものがあったので自然に受け入れられただろう。

 そして、何気ない会話の中で話題になることもあろう。


 実際そんな会話中にヘイスの耳に入ったのだ。


 ヘイスが失態を犯したと思ってしまったのは、その話を聞いて動揺してしまったことにある。

 これでヘイスは常識を知らない人、と周りから認識される恐れがあるのだ。

 それは事実だ。

 しかし、事実だから仕方ないでは済まされない。 

 ヘイスの最大の目的は地球世界に帰ること。そのために、邪神呼ばわりされても平然としているようなメンタルの存在と契約を交わしたのだ。

 だが、ヘイスのメンタルは普通人のそれである。

 いくら異世界の人たちだからといっても、自分のことを異常者だと認識されたくはないのだ。


 予防策として、ヘイスは修行の旅をしている魔法使いを名乗っている。これだけでもすでに変人扱いされるだろうが、異世界人や邪神の使徒とバレるより遥かにマシな設定だ。

 ヘイスの読んだラノベの主人公たちは記憶喪失やら山奥で師匠に育てられたなどと誤魔化していたが、ヘイスの場合、年齢と任務の性質上それらの言い訳が却って疑いを持たせるのだ。どちらかというと山奥の師匠の立場が一番近い。

 なにしろ、予定では一年の大半、おそらく4分の3はダンジョンに篭っているはずである。人里に出て来るのは食料の買出しぐらいだ。まさに山奥の師匠ではないか。


 話は逸れたが、ヘイスの考えではこの世界の常識を完璧に身に着けるより、『たまに街に来る変な人だけど、それぐらいなら不思議じゃない』ぐらいのポジションを狙った方がいいのではないか、と思っている。


 そのためにはさっさと冒険者のランクを上げて実際に山で修行という名目でダンジョンに篭ればいいのだ。


 そんなわけでヘイスは気合が入っていた。

 本日は、異世界生活四日目で、冒険者昇級試験の日だ。


 順調に行けば8級になるだろう。


 ちなみに、昨晩は孤児院には泊まらず、初日に利用した『黄金の海岸亭』に泊まった。

 ミスティがギャン泣きしたが、ヘイスは心を鬼にして孤児院を辞したのだ。


「ステラ嬢、8級の試験を受けに来た。案内してくれ」


「おはようございます、ヘイスさん。ただいま事務長を呼んできますので少々お待ちください」


「わかった。ああ、それと慌ててしまい逆になったが、おはよう。それから昨日紹介してくれた店のことも感謝する」


「まあ。ウフフ。お役に立ててよかったです。それじゃ、少し待っててくださいね?」


「ああ」


 ステラが奥に向かうと酒場ゾーンが騒がしくなる。

 ヘイスが目を向けると、通常はこの時間帯は閑散としているはずが、酒場は冒険者で溢れていた。


「おい、アイツ、ステラちゃんと馴れ馴れしくしやがって……」


「アイツか、事務長に取り入ってノルマ誤魔化したってのは」


「顔はよく見えねえが、30過ぎで9級なんだろ? 怪しいな」


「金は持ってるらしいぜ? 《山風と炎》の連中が奢ってもらったらしい」


「なあ? 俺たち、なんでここにいるんだ? 所詮8級の試験だろ?」


「まあ、その場の勢いとノリ?」


「おい、来たぞ。事務長だ。何で事務方が仕切ってるんだ?」


「いや、冒険者統括も来た。おいおい、ギルマスじゃねえ、あれ?」


「幹部のほとんどが出て来たじゃねえか、どうなってるんだよ」


 などと、一人おかしなのがいた気がするが、ヘイスは注目されていたようだ。内外で。


「お待たせしました。こちらが本来冒険者の実務を担当する、冒険者統括のフレイズさんです。後ろのは只の見学者ですから、今日は気にしないでください」


 事務長のアンギラがヘイスに紹介する。

 ヘイスも見渡したが、知っている顔は買取のミゲールだけだった。フレイズはいかにも冒険者上がりという風貌だ。


「統括のフレイズだ。事務長の期待通りなのか見せてもらうぞ」


「魔法使いで修行の旅をしている、ヘイス・コーズキーだ。よろしく頼む」


「ではヘイスさん、こちらへ。裏に訓練場がありますから」


 そういってアンギラがヘイスを案内する。

 酒場の冒険者たちもぞろぞろついてきた。


「おまえら! これは8級の試験だ! 見せモンじゃねえぞ! 仕事に行け! 仕事に!」


「まあまあ、見たい人には見せてあげようじゃありませんか」


「よっ、事務長話せるねえ」


「アンギラ、てめぇ……」


 にぎやかな集団は建物を通り抜け、裏の訓練場についた。

 ヘイスの見たところ、四方を壁に囲まれたテニスコートほどの広さだった。当然地面は踏み荒らされた土のままだ。


「えー、今回はこちらからリクエストがございまして、魔法と格闘を見せていただきたいのですが、よろしいですか?」


「ああ、普通の試験がどんなものか知らんが、それでかまわん」


「ありがとうございます。では、魔法ですが、あちらをご覧ください」


 言われて見た方向には丸太が3本壁際に立っていた。


「あの丸太を後ろの壁に傷をつけず、一本ずつ切り倒すことができますか? できれば根元の方を」


「なるほど。俺に伐採ができるかどうか試そうってことだな?」


「ええ、まあ。隠すほどのことではありませんから」


「問題ない。なら、距離は指定なしか?」


「そうですね。安全重視でお願いします」


「わかった」


 ヘイスは試験の意図を汲み取り、丸太に近づく。

 使う魔法は《ウインドカッター》。

 システム依存だと対象を切断後も勢いが止まらないのがデフォルトだが、熟練すると魔法効果の範囲が指定できるようになる。

 当然ヘイスのは魔素でコントロール可能だ。


「《ウインドカッター》! 《ウインド》!」


 丸太が倒れてもぶつからない位置に立ち、ヘイスはわかりやすくコマンドワードを唱えた。二つ目のは倒れる方向をコントロールするためのものである。


 ドシンという音を響かせ丸太はヘイスの方向に倒れた。


 おー、という歓声が上がる。

 まだ2本残っているが、すぐに確認の人員が走った。


「……これ、すごい切り口です」


「前に倒れたな。方向も自在なのか?」


「次は方向も指示してみましょう」


 2回目と3回目の試技は方向も指示されたが、ヘイスにとっては児戯に等しかった。


 幹部らしき見学者がなにやら興奮していたが、次は模擬戦だ。

 これは、魔法を使わないで戦うことができるか、という試験らしい。武器はOKだそうだ。


「ではヘイスさん、こちらは元上級冒険者で今は単なるギルド職員です。気楽に全力でお願いします」


「おい! マジかよ。なあ、お前さん、魔法無しでどこまで戦える?」


「それを今から試すのではないのか?」


「いやいや。そんなわけないだろ? これは8級の試験だ。軽くでいい。ゴブリン相手だと思ってくれ。いいな?」


「わかった。ゴブリンだな」


「おう。話が早くて助かる。武器はどうする?」


「棍棒だが、自前のでいいのか?」


「魔法付きじゃなきゃ何でもいいぞ。貸し出しもある。アンギラ!」


「はいはい。ヘイスさん、どうしますか?」


「これでかまわんか?」


「うわっ、なんだよそれ。スゲー禍々しいぞ?」


「おっと間違えた。事務長、適当な棍棒貸してくれ」


 ヘイス愛用の土の棍棒はこれでもかと魔素で圧縮されている。ギルマスはその気配を感じたようで、ヘイスは慌てて引っ込めた。


「はい、どうぞ」


 ヘイスは木製の棍棒を受け取り、ギルマスに対して構えを取った。


「あんなおっそろしい得物使ってるヤツの相手? 冗談じゃねえな……」


 ギルマスも模擬戦用の剣を構えた。

 ギルマスの受難は続く。




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