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第42話 やっと昇級の目処がついた

 第42話 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはクエストの大量受注に成功した。


 冒険者ギルドの事務長と話す機会があって、世間話程度にラノベ知識を披露してみると、食いつきが尋常ではなかった。

 トントン拍子にノルマの達成条件が見直され、ヘイスにとっては有利な状況になっていった。


 おもしろ半分で事務長を紹介してきたミゲールに感謝しているヘイスであった。



「おっちゃん、その焼き魚100匹くれ」


「は? 冗談だろ?」


「本気だ。いくらだ?」


「一本銅貨5枚だ。けど100もねえぞ」


「じゃあ、20匹でいい。焼いておいてくれ、すぐに戻ってくる。ほら、銀貨一枚な」


「お、おう、まいど……」


 ヘイスは午前中に3つの商会の依頼を達成した。


 港の倉庫から街中の倉庫に荷物を移動させるという、アイテムボックス持ちの人間にとっては散歩に等しい仕事だ。商会の建物を探すの方が時間がかかってしまったほどである。

 今は港も昼休憩中だそうで、ヘイスは商会の人間に勧められた、フリマっぽくて屋台の多い市場に来ている。


「ああ、また衝動買いしてしまった……まあ、20匹だからまだマシか……」


 ヘイスは、孤児院で出会ったミーちゃんことミスティと約束してしまったので、この街に居る間は出来るだけ顔を出そうと思っていた。

 ミスティの好みが魚料理とわかったので、つい屋台で大量購入してしまったのだ。


「しかし、たぶん魚が好きっていうか、肉が硬くてあまり食べられないんだろうな……」


 ヘイスは市場を歩きながら独り言を呟く。


 ヘイスの言っていることは、やはりラノベからの知識で、しかも実際に異世界の料理を食べての感想である。

 特にこの世界では、魔素の影響で魔物肉が腐りにくく、流通面で葉物野菜よりも有利なのだ。おそらく低所得者でも肉は十分食べられる。

 しかし、魔物肉は日本で流通している家畜肉とは違う、ヘイスは食べたことはないが、ジビエそのものだ。肉質は硬く、煮込み料理でもなければ子供にとっては食べづらいだろう。

 それに比べれば魚介類は軟らかいので食べやすいというわけだ。

 子供のミスティが好きだというのも当然かもしれない。


「他に土産といったら……ぬいぐるみ、おもちゃ、洋服、服? いや、服はないだろう。あ、お菓子でいいんじゃないか」


 市場を冷やかしてみるが、子供に受けそうなのは見つからない。ほとんどが実用品ばかりである。援助としてはアリかもしれないが、ヘイスの求めているのとは違った。


 そんなときに屋台で焼き菓子らしき食べ物を発見する。


「これ一つくれ」


「はい。銅貨5枚だよ」


「ほい。どれ……ん、美味いな。これ、砂糖入ってるよな。よくこの値段で……」


 ヘイスが口にしたのは、一口大のビスケットのようなものだった。ミスティでも二口で食べられそうである。

 値段に関しては、日本の価値基準は当てにならない。そこはアスラ神からの講義で理解した。

 だが、先日の衝動買いから少しはこの大陸の物価がわかってきた。

 やはり砂糖などの調味料は高いらしい。


「ええ、まあ。実は北の農場から安く手に入る伝があるんですよ」


「そんなこと客に言っていいのか? しかし、北? 寒いところで砂糖が取れるのか? ああ、テンサイとかか?」


「おや、お客さん、北の大陸に行ったことがお有りかい?」


「ま、まあ色々旅してるよ」


「アタシが言ってるのはそこまで北の話じゃないさ。この街よりちょっと北に行ったところさ。なんでもお天道様が真上に来て暑いらしいねえ」


「……あ、あー、なるほど、わかった。確かに北は暑いな……」


 ヘイスは思い出した。

 今いるところが南半球だということを。


 ここは赤道からおよそ1000km南下した位置にある。地球と同じぐらいのサイズなら十分熱帯圏だ。ここの北方面、つまり赤道に近づけば近づくほど暑くなるのは当然のことだろう。


 ダンジョンから地上に出てまだ三日目なのですっかり忘れていたヘイスであった。


「面白い話も聞けたし、美味かったからもっと買いたいんだが、かまわないか?」


「転売されちゃ困るんだけどねえ」


「そんなつもりはないさ。ちょっと子供たちに土産をと思ってな」


「子供ねえ? ま、商売人には見えないからかまわないか。いくつにする?」


「そこは店主に任せる。売れるだけ売ってくれ」


「剛毅だねえ。ちょっと待っておくれ……この箱に100枚入ってるよ。これで勘弁しておくれ」


「いいのか? 俺はありがたいが」


「何だい? いまさら買えないっていうのかい?」


「いや、銀貨5枚だな。ほら。箱代はいくらだ?」


「お得意さんにサービスさ。ああ。ウチはパン屋が本業でね、そっちも贔屓にしてくれたらうれしいよ」


「それはちょうどいい。美味いパンも探してたんだ。店はどこだ?」


「おや、うれしいね。店はね、この道を……」


 すっかり女主人と意気投合したヘイスは店の場所を聞いたあとも世間話に興じてしまい、結局孤児院に行く時間がなくなってしまうのだった。


 昼下がり、残りの仕事のため港に向かう。

 あと2つの商会で10人分の仕事をこなせば九級のノルマは達成できる。

 否が応でも気合が入った。



 そして一刻後、地球でいうところの二時間後、ヘイスの姿はギルドにあった。


「お、おめでとうございます。これでヘイスさんは八級への昇級試験を受けることができます」


「感謝する。手続きの件は迷惑をかけたな」


「ホントですよ。五十人分の仕事を半日で終わらせたなんて、普通は誰も信じませんよ」


「事務長に感謝だな」


「そうですね。あ、事務長といえば、昇級試験の準備はできているので明日の午前中好きな時間にギルドに来てください、と伝言を預かってます」


「わかった。午前中だな。しかし、俺の都合に合わせてもらって少し気が咎めるんだが」


「いえ。他の大陸はわかりませんが、この街では下級冒険者は少ないですし、なるべく早く昇級させたいのはこちらも同じですから、その辺は融通はしますよ?」


「なるほど。魔大陸ならではってヤツか。今の俺にはありがたい」


「あの、ヘイスさんはどうしてそんなに昇級を急ぐんですか?」


「ん? 言わなかったか? 俺は修行の旅をしている。気まぐれで冒険者になってみたが、意外とノルマが厳しい。諦めてさっさと旅に出るか、それとも少しだけ時間を浪費しても中級冒険者のカードを手に入れるか、ま、この二つで迷ってるところだな」


「き、きまぐれ……」


「そういう人間もいるってことだ。じゃあ、また明日な」


「あ、はい。お待ちしてます……」


「おっと、忘れるところだった。ステラ嬢、子供向けのおもちゃや人形の売ってる店を知らないか?」


 ヘイスは呆然とするステラから何とか店の情報を聞き出した。


 当然ギルドを出た後は目的の商店に向かう。

 そこで手当たり次第に商品を買い込み店員を喜ばせた。


 次はもちろん孤児院だ。


「おじちゃん! おかえりなしゃい!」


「お、おう……た、ただいま?」


 ミスティの大歓迎を受けたヘイスだった。


 食堂のテーブルの上に買ってきたものを並べると、他の子供たちからも大歓迎された。ヘイス本人が無視されてしまうほど。

 シスター・アネリアは険しい表情だったが。


「シスター。言いたいことはわからんでもない。だが、今日はいいことがあったのだ。それに免じて許してくれ。俺も毎日こんなことをするつもりはない」


「いいことですか?」


「ああ。やっと昇級の目処がついた」


「まあ。それはおめでとうございます。3級ですか? 2級ですか? まさか、1級……」


「いや? 8級だが」


「は? 8級?」


「そうだが、ナジャスから聞いてないか?」


「いえ、昨日はそれどころではなかったですから……」


「いや、昨日ジェシーたちを引率しただろう? あれは確か8級か7級の仕事のはずだ」


「……そういえば、そうだった気が……」


「そういえばジェシーの姿が見えないが」


「ジェシーは仕事に出かけています」


「……12歳ぐらいだろうに、世知辛いな。何の仕事だ?」


「ジェシーは冒険者ですよ?」


「は? なんだって?」


 今度はヘイスが驚く番だった。


「12歳からギルドに登録できますよ。知りませんでしたか、って、その様子では知らなかったようですね。

 ただ、成人までは税金で優遇される代わりに昇級ができません。9級の仕事だけですね」


「そ、それじゃ、ジェシーの方が先輩だったのか……」


 おかしな点で情報不足を実感するヘイスであった。

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