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第41話 今日で九級を終わらせてくるよ

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーは成り行きで孤児院に一晩厄介になった。


 元々は治療のため、それが夕食の差し入れ、子供たちが寝るまでの相手、と、だんだんリクエストが増えていき、それぐらいなら、と結局引き受けてしまったのだ。


 最終的に泊まることになったのは、ミスティが本当に完治しているのか翌朝に確認する予定だったのでどうせなら泊まってしまえ、と子供たちにも勧められたからである。

 ミスティは大喜びだった。


 そんなわけで子供たちと就寝したヘイス。ダンジョンのフィールドですら寝泊りできるが、子供たちに囲まれてというのはなかなか慣れない環境であった。


「おはよー。おじちゃん」


「おはよう、ミーちゃん。目は痛くないかい?」


「いたくないー」


 異世界生活三日目。

 輝く朝日の中、朝のあいさつと同時に経過観察をする。


 どうやら問題はなさそうだ。

 念のため鑑定もかけてみたが、こちらも問題になりそうな鑑定内容は見られない。

 一安心だ。


 朝食は、昨日調子に乗ったヘイスが食材を出しすぎたので、痛みやすいものは回収してあり、再び、今度は適量を提供した。

 ヘイスも相伴に与る。


 朝食後、今度こそヘイスは孤児院を後にする。

 ミスティは泣いた。

 シスター・アネリアとジェシーが宥める。


「ミーちゃん、おじさんはお仕事なの。大人だから大事なことなの」


「おちごと……パパもママもおちごといった……」


「だ、大丈夫よ? ヘイスさんはまた来てくれますから」


「おじちゃん、またきてくれりゅ?」


「お、おう。かならず来るからな。いい子で待ってろな?」


「あい! ミーちゃん、いいこでまってりゅー!」


「よしよし。じゃあ、行ってくるな」


「ばいばーい。はやく、かえってきてねー!」


 孤児院の門前でそんな一コマがあった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「ほう、そんな魔法使いが九級からなあ……」


「はい。一考の価値はあると思います」


「だが、そのポイント制とやらをいきなり導入するのはなあ。本部もすぐに許可を出すとは思えんが」


「ええ。困難でしょう。しかし、そちらは意見書だけ出して、長い目で見ればよろしいでしょう。問題は荷運びのノルマの見直しです。こちらは早急に手直しした方がギルドにとっても利益になるかと。少なくとも不利益はありません」


「薬草方式だったか? だが、一人の冒険者を贔屓しているってのが問題にならねえか?」


「贔屓にはなりませんよ。依頼書で荷物の個数を明確にするだけですから。職員の裁量の権限内のことです。

 それに、薬草に限ったことではありません。ゴブリンだって10匹倒すのと100匹倒すのが同じノルマだったら大問題です。スライムは、あれは調整が目的ですから手柄目当てで殲滅されないように別の尺度が必要ですが、荷運びは薬草やゴブリンと同じです。何故今まで荷運びに限ってノルマの計算が曖昧だったのか不思議でなりませんね」


「そりゃ、あれは商業ギルド関連だからな、それに九級の仕事だ。日銭が稼げれば問題なかったからな。でっかいアイテムボックス持ちが九級にいるわけないしよ」


「ですが、今はいるんです。昨夜少しだけ報告を受けました。魔法使いとしてはかなりの腕なのは間違いなさそうです。このままですと冒険者ギルドは愛想を尽かされてしまいますよ?」


「この報告書だろ? スライムごときでそこまで言うか?」


「元中級のナジャスが実際に見ています。私は信じますよ。彼はすぐに九級のノルマを達成するでしょうからギルマスが試験の相手を務めて確かめてみてはどうですか?」


「いや、俺は現役を離れて長いからな、規定どおりの相手を探してやれよ」


「規定によれば、元中級以上の冒険者であれば問題ありません。元上級冒険者のギルマスが試験官を務めるのに何の不都合もありません」


「おいおい。俺が負けたらどうするんだ? カッコ悪いだろ?」


「現役の冒険者が九級に負けて自信をなくすよりもよっぽどマシです。それに、実力を確かめるのが目的ですから、負けたくなければ途中で降参すればいいでしょう?」


「降参て、結局負けってことじゃねえかよ」


「現役じゃないのでどうでもいいです」


「おい、アンギラ……入れ!」


 ノックする音が聞こえ、二人の話は中断された。

 受付嬢の一人が入室する。


「失礼します。ヘイスさんが昨日の依頼達成の報告に来ています」


「ステラ君、ご苦労様。彼はもう今日の依頼を受けてしまったかな?」


「いいえ。事務長に言われていたので待ってもらっています」


「わかりました。ギルマス、私は彼に今日の依頼の件で話があるので、これで。ああ、たぶん今日で九級のノルマ達成しますから、明日には試験ですよ? 準備しておいてくださいね?」


「おっ、ちょっと待て、俺はやるって言ってない……」


「では失礼します」


 事務長・アンギラはそのまま部屋を出ていった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「ヘイスさん、おはようございます」


「おはよう、事務長。報告が遅れたが問題ないか?」


「ええ。特に期限が決まっていない依頼はいつ報告されてもかまいません。常識の範囲内で、ですが。ところで、例の件でお話があるのですが、いえ、時間はかかりません」


「ああ。かまわん。進展したか聞きたいしな」


「では、向こうで」


 ヘイスとアンギラは人の少なくなった酒場ゾーンに向かった。


 ヘイスは、テンプレなら会議室か応接室に案内されるんじゃないのか、と思ったが、特に不満はないので黙っている。


 席に着くとすぐにアンギラが本題に入った。


「実は、昨日ヘイスさんが受けた5つの依頼ですが、依頼者がヘイスさんを指名依頼してきまして」


「指名依頼? よくは知らんが、九級にそんなマネできるのか? 大体、荷物はもうないだろ?」


「いえ、指名依頼といっても強制力はありません。ただの希望です。荷物の件は、今度は港の倉庫から街の倉庫への運搬です」


「なるほど。まあ、仕事があるならかまわんよ。しかし、俺が全部引き受けて他の冒険者とか人足の仕事を奪うことにならんか? それに、いつまでも荷運びの仕事を続けるわけじゃないからな」


「ええ。その問題も含めて依頼者と相談しました。彼らの話ですと、ヘイスさんの仕事が早すぎて人足が足りなくなったようです」


「あー、やりすぎたか……」


「ええ。五件とも、人足の奪い合いになっているそうです」


「それで俺に責任を取れと?」


「責任は向こうにもあります。ですから、これを機会に依頼の方式を人足何人分という形式に変えてもらいました」


「それはつまり……」


「はい。人足一人分の依頼を一件のノルマと認めます」


「じゃあ、今日は何件できる?」


「昨日の仕事の半分で問題ないそうです。制度の改善は始まったばかりで今後も調整は必要ですが、とりあえず25件で計算してみました」


「25……そうすると……」


「はい。昨日で6件。あわせると31件。一つ多いですが、九級ノルマ達成です。いえ、まだ終わってませんでしたね」


「よし、それを聞いてやる気が出てきた。全部受けられるか?」


「はい。通常は受付の段階で止められますが、今回は私が認めます。そもそも受付で大量の依頼を受けさせないのは、未達成になる可能性があると判断したときのアドバイスに過ぎませんから」


「なるほどな。じゃあ、早速受けてくる」


「はい。成功を期待しています」


 こうしてヘイスは依頼の大量受注を敢行した。

 受付のステラも話を聞いていたので黙って手続きを行なった。


「いってらっしゃい」


「ああ。今日で九級を終わらせてくるよ」


 目指すのは昨日働いた港の倉庫。

 ヘイスの足取りは軽かった。

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