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第38話 たくましい子供たち

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーは戦慄していた。


 孤児院の子供たちを引率して下水道のスライムの間引きをするという依頼を受けたヘイスが目にしたものは、下水道の途中に造られた小さなプールのような場所、そこにウジャウジャとしか表現できないほどのスライムたちが蠢いていたのだった。


 ダンジョンでは決して見ることの出来ない光景である。


「どうかしましたか? あ、初めてでしたね? 最初は誰でも驚くんですよ、これ」


「……だろうな。子供たちは?」


「あの子達は何度か来てますから」


「なるほど。で? これを間引くのか? どうやって?」


 スライムのプールに落ちたら、いくらスライムが弱小だからといっても大人でも危険だ。


「これを使います」


 ナジャスが持っていたのは、管理小屋から持ってきたであろう取っ手付きの網、いわゆるタモ網であった。いや、中華料理用のザルに近いか。


「スライムに溶かされないか?」


「まあ、必要経費ですね。一回や二回で壊れるわけでもありませんから」


 ナジャスはそう言うとおもむろにプールからスライムを数匹掬い上げた。

 子供たちが群がり、叩きまくる。


 そんなことを何度も繰り返したが、集積場のスライムは一向に減る様子は見られない。


「ここはこんなところでいいでしょう。次に向かいます」


 子供たちが少し疲れを見せ始めたころナジャスがそう言った。


「あまり減ったようには見えないが」


「ははは。いざというときは中級の冒険者に頼みますよ。ただ、そうすると魔石は期待できないですがね」


「そういうもんか……」


「あ、そうだ。ヘイスさんがやってみますか? 魔石は気にしなくていいですから」


「そうだな……」


 ヘイスは考えた。

 原初魔法を使えば楽々魔石を確保できる。

 しかし、あの魔法は現システムのRPG風魔法とは全くの別物だ。おいそれと人に見せていいものではない。

 魔石は気にするなと言われたが、せっかくなので手持ちのスキルで試してみることにした。


「《ストーンウォール》。この裏に隠れていてくれ」


「うわっ、すげー」


「へ、ヘイスさん、何を……」


 突然通路に天井まで届く土の壁を出したヘイスは子供たちやナジャスに驚かれた。


「危なくはないが、汚いことになるかもしれんからな。《サイクロン》」


 続けてヘイスはプール上空に風魔法の《サイクロン》で小さな竜巻を生み出した。

 浄化槽の水面がスライムごとうねり始める。


「そら! 隠れろ! 《エクスプロージョン》」


 ヘイスは爆破魔法といわれる、火魔法エクスプロージョンを水中で発現させた。

 そして自分も子供たちと一緒に壁の後ろに隠れる。


 ドンッ! という激しい音がした。地下道なのでなおのことである。


「「キャーッ!」」

「「うわーっ!」」


 子供たちはあまりに大きな音に悲鳴を上げる。

 ベチャベチャと壁という壁に何かがぶつかる音もしたが気付かないほどだ。


「うわっ、くっさっ! 浄化! 浄化! 失敗だったかな? 浄化!」


 汚物の溜まったプールを爆破して撒き散らしたのだ。いくら大量のスライムが浄化しているとしても常に供給されているようなものなので当然こうなる。

 無論ヘイスもそれを想定しての土壁だ。臭い以外は被害はない。


 なんちゃって浄化を繰り返し、やっと臭気が薄れるとヘイスは土壁を解除した。


「あ! 魔石がいっぱい!」


「ホントだ!」


「すごい! おじさん、すごい!」


 魔石が崩壊しない程度の魔素吸収のコントロールはお手の物である。

 飛び散ったスライムが壁に叩きつけられ、浄化されて魔石だけ残っているのを子供たちが発見したというわけだ。

 爆音と激臭のコンボで子供たちの視線が険しくなったものの、魔石の発見で再びキラキラの目で見られることとなった。


「……拾った分は孤児院に寄付しようかと思ったが……」


「おにいさん、すごいです!」

「「「おにいさん、すごい!」」」


「……寄付するから。おじさんでいいから」


「「「「おじさん、ありがとう! わーい!」」」」


 たくましい子供たちは大量の魔石に群がった。


「いやー、すごいですね、想像以上ですよ。でも、よろしいんですか? 結構な数ですよ?」


「かまわんよ。それより、間引きというより根こそぎになってしまったが、こっちの方が問題にならないか?」


「ああ、問題ありません。下水道すべてのスライムが全滅したわけじゃないですから。本格的な間引きではよくあることです。これから上流に向かいますので、そこの浄化槽のスライムを半分流せばすぐに増えますから」


「なるほど。やはり今回の依頼はレベル上げが目的のようなものか」


「はい。それと見回りを兼ねてですね」


「なるほどな」


「あの、ナジャスさん、向こう側は……」


「ああ、大丈夫だよ。帰りに寄れるから」


「ありがとう! これでミーちゃんにお薬買ってあげられる!」


 サイクロンの魔法で飛び散った魔石は均等に通路の両側に落ちているはずだ。それも回収すれば利益は倍になる。しかし、支流ならともかく、本流や浄化槽は子供のステータスでは飛び越えられない。捨て置くのは忍びないと子供代表のジェシーは直談判に来たのだろう。


「……ミーちゃんか……」


 スライムの魔石がいくらあったところでエリクサーは買えないだろう。まだこの世界の常識は完璧とはいえないヘイスでもわかる。そんなことができたら、とっくにミーちゃんの両親が買い与えていたことだろう。


 孤児院の子供にとっては思いがけない臨時収入に舞い上がり、夢を語った少女のなんと気高きことだろうか。

 こうなると俄然そのミーちゃんのことが気になってくるヘイスであった。



 子供の用意した布袋では回収した魔石が納まり切れなくなり、仕方なくヘイスがアイテムボックスに預かって、子供たちがスキルに目を輝かせるという場面もあったが、任務は続行される。


 上流の浄化槽に到着し、溜まっているスライムの半分を下流に流す。

 これは下流側の水門を開けて水魔法で押し流すだけだ。


 そしてさらに上流の浄化槽に向かい、今日最後の間引きを子供たちが行なう。

 ヘイスは手を出さなかった。

 子供たちは期待した目で見ていたが。


 そして、支流と本流が複雑に絡んでいる箇所には橋があったので、本流の反対側に渡る。

 子供たちが楽しみにしている魔石拾いの時間だ。


「「「「わーい!」」」」



 子供たちは通路を駆け出した。


「落ちるんじゃないぞ!」


 ナジャスが注意するが、子供たちはあっという間に視界から消えた。

 本流沿いだから迷うことはないだろうが、引率という任務上、ヘイスも急いで追いかける。


 幸い、子供の数が減っているということもなく、最初の浄化槽脇で子供たちはせっせと魔石を拾い始めていた。


 ここも、もう袋には入らないのでヘイスが預かることになる。


「さあ、今日はこれで終わりです。地上に戻りましょう」


 子供たちは丹念に床を調べていたが、ナジャスは終了を告げた。


 入ってきた階段とは反対側にも出入り口があったようで、一行はすんなりと管理小屋まで辿りついた。


 外に出てみると、すでに夕方だ。

 地下では時間感覚がなくなるのは、ヘイスはダンジョンで慣れている。

 子供たちも、収穫があったせいか、興奮して時間のことは気にならないようだ。


 ナジャスにこれからのことを聞くと、子供たちは一旦孤児院に送るそうだ。あくまで依頼を受けたのはヘイス一人なので、ギルドへの報告も子供たちは必要ないとのこと。ただし、孤児院の責任者から依頼完了のサインはもらわなければならないので、自動的にヘイスも孤児院を経由しなければならない。


 そして孤児院までの道中、ヘイスはナジャスにある話を持ちかけた。


「なあ、たぶんなんだが、ミーちゃんて子の目、治るかもしれんぞ?」


「えっ! ホントですか!」


 ヘイスの言葉に驚きの声を上げたのは、ジェシーだった。



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