第34話 事務長登場
鈴木公平改めヘイス・コーズキーはついに冒険者としての仕事を開始した。
記念すべき一回目のクエストは、船からの荷降ろしだった。
「終わったぞ」
ヘイスは早々に仕事を終わらせギルドに戻ってきた。港からの移動のほうが時間が掛かったくらいである。
依頼者のサインと支払額を記入した依頼書を受付に提出すると、受け取った受付嬢・ステラがフリーズした。
ヘイスは内心『またか』と思った。
彼女がフリーズしている隙に新たな依頼表を持ってくる。
「ず、ずいぶん早かったですね。支払額も九級ではありえないぐらいなんですけど……」
「事実だから仕方がない。それより、今度は同時に二つ受けてもかまわないだろうか。やはり港まで往復するのに時間を取られてしまうのだ」
「ちょ、ちょっとまってください。上に確認してみますから、この金額はちょっと……」
「支払いならいつでもかまわんぞ。ただし、先に依頼を受け付けてからにしてくれんか? その後ゆっくり確認すればいい」
「え? あの、その……」
「これを頼む」
ヘイスの有無を言わせぬ態度に、ステラは恐る恐る手続きをした。
「感謝する。ゆっくり確認してくれ。では行ってくる」
ヘイスはそういって再び港に向けて出かけていく。
ステラからの『いってらっしゃい』の一言はなかった。
二件目。
全く同じコースを進み港に着くと依頼者を探す。
先ほどの隣の船だった。
大きさもほぼ同じ。積荷の量も同じぐらいではないかと予想する。
「お、アンタがうわさの魔法使いか」
「うわさ?」
「あの船の荷運びしたんだろ? あっという間に終わったって騒いでるぜ?」
「ああ。俺で間違いない。それより仕事を始めたいんだが……」
「ああ、来てくれ……」
こうしてヘイスは二度目の仕事に取り掛かり、予定通りあっさりと終わらせてしまう。
そして、同じ港の三つ目の仕事もあっという間に終わらせてしまうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここは冒険者ギルドの受付カウンターの裏側の部屋。
「あの事務長。ちょっとよろしいですか?」
「なんだね? ステラ君」
「この依頼なんですけど……」
「どれ……ん? 何ですか、この支払額は。何かの間違いじゃないですか? 九級用の荷運びでしょう、これは」
「そうなんですけど、どう見ても間違いないんです」
「まさか十日かけて運んだわけじゃないでしょう?」
「いえ、今日の依頼です。それも半刻ほどで」
「は? ステラ君、何言ってるんですか?」
「本当なんです。本当に半刻で戻ってきたんです。ちゃんとサインも入ってます」
「おかしいでしょう? 何者です? その九級は」
「ヘイスさんといって、新人ですがベテランの魔法使いの方らしいです。ワケありだってミゲールさんが連れてきて……」
「……なるほど。只の新人ではないと。上級の実力の持ち主ならこの結果もありえるわけですか……ミゲールに聞いてみましょう。呼んできてください」
「はい」
ステラは部屋を出て行き、すぐに目的の人物を連れて戻ってくる。
「なんだ? 事務長」
「この依頼書ですが、ヘイスという九級が半刻で終わらせたそうです。偽造や改竄を疑いたいところですが、只の新人じゃないと聞きましたので貴方の意見も伺いたいと思いまして」
「ほう、ヘイスがね。確かに九級の依頼としちゃおかしな金額だ。だがよ、知ってるか? アイツ昨日いくら魔石換金したか」
「魔石ですか?」
「おう、聞いて驚け、大銀貨2枚と銀貨2枚だぜ。おそらくまだまだ持ってるだろうよ。わざわざゴブリンクラスだけ選んで出してたからな」
「ほー、それはそれは……確かに只の新人ではありませんな」
「ああ、アイツは金がほしけりゃ魔石を売るだけでいい。こんな小細工は必要ねぇ。ノルマはさっさと終わらせたいだろうからサインは偽造もあるかもな」
「キミ! 一体どっちなんだね!」
「冗談だよ。大体、これが本物かどうかなんて依頼者に確認すりゃ一発だろうが。なあ、ステラ。お前、アイツのスキル知らないのか?」
「え? いえ、実は空欄で提出されて……」
「なんだね? スキルが関係あるのかね? キミは知っているのかね?」
「あー、本人が言わなかったのなら俺の口から言うのもマズイだろう。アイツが帰ってきたら直接聞いてみたらいい。納得できるはずだ」
「もし教えてくれなかったら……」
「そんときは、ギルドメンバーを信じて支払う。疑いが晴れないなら依頼者に確認をとる。簡単なお仕事だろ?」
「……事務長、どうしますか?」
「……払えばいい。確かに九級としては破格だが、中級以上の実力者と考えればおかしなことではない。無駄に仕事を増やすよりマシでしょう。今、彼は?」
「それが……また2件荷運びの依頼を受けて出かけてしまいました……」
「なんだって……」
「はっはっはっは。ヘイスのヤツ、本気で級を上げに来てるな。こりゃ何日で中級になるか見物だぜ」
「何日、か……何ヶ月でも何年でもなく、何日というのかね。それほどの実力者だと?」
「知らんよ。俺も昨日門で魔石を鑑定してやって、ここまで案内する間にちょっと話したぐらいだ。なんでも魔石は修行の余禄だとよ。でもよ、アイツがいつ、どこから、どうやってこの大陸に上陸したかわからんが、それが出来るぐらいの腕は持ってるってことだろうな」
「ギルドにも登録せずに修行か。一体どんな生き方をしてきたのだろうな。事務畑の私でも興味を覚えるよ」
「あの、事務長。そろそろ戻ってくるかもしれませんので、私は受付に戻ります」
「なに? もう戻ってくるのか?」
「はっ、こりゃいい。俺もアイツが何て答えるか見に行ってやろう。事務長もどうだ?」
「う、うむ。では、私も見に行こうか……」
こうしてヘイスは職員3人に待ち構えられることになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お帰りなさい、ヘイスさん」
「ただいま? なんでミゲールが? 後ろの人は?」
ヘイスがギルドに戻ったのは三人が話し合いを終えて間もなくのことだった。
カウンター、ステラの後ろにミゲールと事務長が立っている。
「今は気にすんな。まずは報告しろよ」
「……わかった。これが依頼書? 受領書? 何て呼ぶんだ?」
ヘイスはごく自然にアイテムボックスからサイン入りの受領書を取り出した。
「……アイテムボックス……」
声が漏れたのは後ろの事務長だ。
「い、いえ。依頼書でかまいませんよ? 依頼受付から完了のサイン受領まで使いまわしますから」
「ああ、そう……で? ミゲールは何の用だ?」
「なに、お前さんがスキルを一つも報告してないって聞いてな。全部とは言わねぇが、バレても困らねぇのは申告したほうが面倒がねぇぞ。少なくとも偽造や改竄を疑われるこたぁなくなるな」
「偽造?」
「す、すみません。ヘイスさんの仕事があまりに早くて、運搬量も多すぎますし……」
「ああ、なるほど……スキル欄に書くメリットはこういうのもあるのか……」
「そういうこった。で? 何を申告する?」
「そうだなあ、アイテムボックスは問題ないとして、浄化は九級の仕事に必要か? 今日は元々依頼の傾向を見るつもりでいたんだ。受付で長々と聞いていいもんかね?」
「昼なら人も少ねぇし、かまわねぇんじゃねぇか?」
「ああ、それなら疑ってしまったお詫びに私が話を聞きましょう」
「アンタは?」
「これは失礼しました。私は当ギルドの事務長をしております、アンギラと申します」
「……ギルドマスターとは違うのか?」
「いいえ? 事務方の責任者ですよ」
ギルドあるある、ギルマスの登場かと期待したが、現実はやはり現実的だった。
「そうか。俺はヘイス・コーズキー。見ての通り魔法使いだ。この歳になって新人冒険者を始めてみた。至らぬところもあるだろうが、ご指導願おう」
「これはご丁寧に。ではあちらでお話しましょうか」
「ああ、いや、昼までまだ時間がある。もう2件荷運びをするつもりだ」
「は? お前さん、一体いくつ仕事を請ける気だよ?」
「できるかぎり、だな。さっさと中級になっておかないと旅もできん。ということでステラ嬢、受付を頼む」
「あ、はい……いえ、依頼達成の清算がまだなんですけど……」
「それは後回しでいい。まずは受付を頼む」
「事務長……」
「ステラ君、受け付けてやりなさい。規則に違反するわけでもありませんから」
「……はい……」
こうしてヘイスの4件目の依頼が始まるのだった。




