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第29話 二回目の受付

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはついに冒険者になった。


 登録を済ませると買取コーナーに向かう。

 そのヘイスの前に立ちはだかる者が……という展開はなかった。


 受付嬢の話の通りならギルド受付前で犯罪まがいなことをする人間はいないだろう。ここは、いってみれば市役所でもあり警察署でもあるのだ。

 もちろん、裏ではどうか知らないが。


 それに、買い取りコーナーは酒場とは逆の方向で、わざわざ絡んでくるエネルギーがあるのなら魔物の一匹でも倒せば酒代も増えるというもの。なにしろここは『魔物大陸』なのだから。


「しかし、聞いてはいたが、ファンタジーだな」


 買取コーナーに向かう途中、手の中のカードをシゲシゲと眺める。

 おそらく金属製の銀色のカード。どうやらこの世界は階級によらず同じカードらしい。その辺は説明を聞かなかったが、ヘイスにとっては重要ではないだろう。

 単にオタク的な興味の問題だ。


「おっ、来たな」


 同じ建物内。移動時間はないに等しい。


「ミゲールだったか。買取を頼む。どれだけ出せばいい?」


「登録料があるからな。門で出したぐらいでいいんじゃないか?」


「わかった」


 大銀貨一枚あれば一ヶ月生活するのには余裕だという。

 細かい物価まではアスラ神も網羅していないので正確にはわからないが、大雑把にいって銅貨一枚100円でいいのではないかと考えている。大銀貨で10万円だ。1ヶ月日割りにして3125円、宿関連が厳しいが、確かに暮らせそうだ。

 逆に入場税が高すぎる。ギルド登録を勧められるわけである。


 そもそも日本とは全く違う世界なのだ。あまり金にこだわることはないとヘイスは考えていた。たまに美味い物が食べられればいいのだ。


「じゃあ、登録料引いて大銀貨一枚分だ。細かくしておいたぜ」


 カウンターに種類ごとに硬貨が並べられる。9枚、9枚、10枚。数えるのも簡単だ。


「確かに。門では随分手数料取られたんだな」


「だから言ったろ? 登録したほうがお得だってよ」


「まあ、気持ちの問題だな。足りなくなったらまた来るよ」


「おいおい。依頼はどうするんだよ?」


「気が向いたらな」


「なんだと? 説明聞かなかったのか?」


「ん? 何がだ?」


「九級だろ? 八日に一回、月に最低四回依頼受けねえと登録取り消しだぞ?」


「あ? あ~、そんな設定あったな」


「知っててそのやる気のなさかよ」


「いや、なんとなく聞いたことがあるだけだ。よくは知らん」


「もう一遍ステラに聞いて来い!」


「わかった、わかった。行けばいいんだろ? 今度こそ世話になったな。またな」


「おう! ちょくちょく顔を出すんだぞ!」


「わかった。気が向いたらな」


「おい!」


 ヘイスは久しぶりの人との会話を楽しんだ。アスラ神と違ってノリもいい。

 笑みを浮かべて受付カウンターに戻る。


 受付カウンターでは、先ほど相手してもらったステラのところには先客がいた。

 特に新人専用というわけではなさそうなので空いている受付嬢のところに向かった。


「すまない。ランクについて聞きたいんだが」


「はい、何でしょう?」


 こちらの受付嬢も笑顔で対応してくれた。


「先ほど登録したばかりなんだが、説明を聞き忘れてな、依頼を受けるのにノルマがあるようだが、詳しく頼む」


「あら、ベテランに見えましたが、珍しいですね?」


「まあ、俺もそう思うよ。街の出入りに便利だと思ってな」


「ああ。そういう目的の人もいると聞きます。なるほど。わかりました。ですが、税にも関わりますから、ノルマは結構厳しいですよ?」


「ああ。理解できるよ」


「では説明しますね?」




 その受付嬢からの説明は以下の通りだった。

 なお、九級から七級を下級、六級から四級を中級、三級以上が上級と呼ばれる。


 九級・・・八日に一回。同級の依頼を三十回達成後、昇級試験あり。

 八級・・・十六日に一回。同級の依頼を五十回か一つ上の級の依頼を二十五回達成すると昇級。

 七級・・・二十四日に一回。同級の依頼を五十回達成後、昇級試験あり。

 六級・・・一ヶ月に一回。同級の依頼を百回か一つ上の級の依頼を五十回達成すると昇級。

 五級・・・三ヶ月に一回。同級の依頼を百回か一つ上の級の依頼を五十回達成すると昇級。

 四級・・・六ヶ月に一回。同級の依頼を百回か一つ上の級の依頼を五十回達成後、昇級試験あり。

 三級以上・・・一年に一回。昇級条件は非開示、昇級試験あり。



「ちょっと不思議に思ったんだが、七級から六級と四級から三級の昇級試験は理解できるが、九級は何の試験だ? それとも八級に試験がないのがおかしいのか? それに、九級と七級は上の級の依頼を受けられないのか?」


「えーと、それはこの街独自の規則ですね」


「詳しく頼む」


「詳しくといっても、要は難易度の問題です。九級は街中の依頼のみですが、八級からは街の外の依頼もあります。最低限の戦闘能力がなければ認められません。似た理由で、七級の方も六級の依頼は受けられません」


「なるほど。試験に落ちたらどうなる?」


「どうもなりません。はじめからノルマのやり直しです。下級の方で落ちる人は滅多にいないですよ? 中級からの試験は厳しいですけど」


「なるほどな。それが万年中級冒険者ってやつか……ノルマで気になっていたが、例えば九級なら、一ヶ月でまとめて4回でいいのか?」


「そんなこと聞かれたのは初めてですね。それはダメです」


「なぜだ?」


「いえ、ノルマとはそういうものですから」


「だが、税金というなら月4回でも年48回でも同じじゃないか?」


「同じじゃありませんよ。九級の依頼料なんて正直税金を肩代わりしているこちらが赤字です。それに、普通に依頼を受けていれば早い人で一ヶ月で八級になれますよ? 余りのハイペースはこちらも注意しますけど」


「なるほどな。九級は依頼料も安いのも当然か。それは毎日稼がないといけないな。そうすると自然に級が上がって依頼料も増えて税金も多く取れるようになるわけか。

 納得した。だが、もう一つ。税金の問題なら、買取はノルマに含まれるのか?」


「残念ながら、依頼を通さない場合はノルマにカウントされません」


「それはまたどういう理屈だ?」


「一応建前はあるんですよ? お金でランクを買うような真似は認めない、実力があるなら自ら示せっていう。確かに依頼を受けて他人に頼ることもできますが、それは自己責任で。悪質な場合ペナルティーもあります」


「その建前は理解できるが、ノルマを達成できなかったら即除名か? 怪我やなんかで休む場合もあるだろう?」


「ああ、説明が足りませんでした。ノルマ未達成は依頼失敗と看做されます。連続5回、同級内で通算10回失敗で降格、九級の場合は除名ですね」


「ふむ、そうすると俺は一ヶ月は休めるのか……しかし結局はそのあとノルマが待っている。これは確かにさっさと昇級したほうが自由に動けそうだな」


「そうですよ? 普通は皆さんそうしてます」


「除名されたあと、再登録は可能なのか?」


「ええ、一応は……ペナルティーとして銀貨3枚かかりますけど」


「カード紛失と同じか。それぐらいなら一考の余地はあるな……」


「登録した日に再登録を予定してる人初めてです……」


 冒険者になったのは日本人としての遊び心が強いせいで、とくに必要を感じていないヘイスだった。


「もう一つ聞きたい。飛び級はあるのか?」


「そちらはよく聞かれますが、同じ理由から認めていません。本当に実力があるなら自分でさっさと上がればいいんです」


「なるほど。理解した。かなり体育会系だな。いや、なんでもない。今日は質問はこれで最後にするが、市場と美味い料理の店と落ち着いた宿を紹介してくれないか? 金はあるんだ」


「え? あ、はい。えーと……」


 突然方向性の変わった質問内容に面食らったが、二人目の受付嬢はそれでも親切に教えてくれたのだった。

 優秀だ、というのがヘイスの評価である。



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