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第28話 初めての冒険者ギルド

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはやっと異世界の街を体験することができるようになった。


 テンプレを体験してみたいという遊び心から正式に門で係員から審査を受ける。

 テンプレ通りというかアスラ神の情報通り問題なく審査を潜り抜け、ついでに冒険者ギルド登録を勧められた。


 ギルド登録に関しては、アスラ神からの任務上は必要はないが、ヘイスの個人的、日本人的感覚で是非こなしておきたいイベントだった。門の審査では気のないポーズはしたが。


「すまんな。道案内まで頼んで」


「なに、かまわんよ。朝は買取の仕事が少なくてな。たまに鑑定を頼まれて出掛けることもある。戻りついでに道案内ぐらいじゃ金も取れんよ」


 買取の担当という40代に見える男が門までやってきて、ヘイスの提出した魔石を鑑定する。一つ一つが安かったので結構な数になった。

 大銀貨一枚分と手数料分の魔石を納め、晴れて入場許可が出る。

 買取担当の男が冒険者ギルドに戻るというので案内と受付の紹介を頼むと快く引き受けてくれたのだった。


「まだ持ってるなら登録した後で俺のところに来い。マシな値で買い取ってやるぜ」


「ああ。頼む。現金も少しは持っておきたいからな」


「お前さん、アイテムボックス持ちだろ? 隠してるようには見えないしな。魔石のほかに売れそうなモンあるかい?」


「まあ、あるな。だが、食料にするつもりのオークの肉だぜ?」


「ほう? 格好からして魔法使いだとはわかるが、浄化もできるのか?」


「まあな」


「そりゃ食うには困らんだろうな。ギルドに登録しねえのも頷ける話だ」


「ああ。特に街ですることもないしな。たまに野菜が手に入ればいい」


「修行ねえ? まあ、詮索はご法度だからな。詳しくは聞かないが、一度登録してしまえば詮索されることも少なくなるぜ? お前さんにはそっちのほうがメリットがあるんじゃないか?」


「そういう考え方もあるな」


「それに、ここはギルドの街だぜ? 登録してたほうが便利なのも間違いねえよ」


「知っているさ、それぐらいはな。ああ、そういえば、領主を名乗る貴族がいるんだってな?」


「ハッ! バカバカしい話だ。無能が夢見やがって」


「もし正式に決まったらどうするんだ?」


「そこは知らなかったのかよ。当然ギルドはここから撤退するさ。この大陸にほかの街がないわけじゃねえからな」


「……なるほどな。いい手だ。時間はかかるだろうが、町が立ち行かなくなって貴族がまた逃げ出すのを待つのか」


「おう。そのとおりだ。冒険者は魔物がいればどこでも仕事があるからな。ま、港は惜しいと思うがよ。撤退するときはぶっ壊してやるさ」


「そのときは協力するしてやろう。ギルドの冒険者としてな」


「おう、頼んだぜ、魔法使い。おっと、ここがこの街のギルドだ」


 ついにヘイスは冒険者ギルドに辿りついた。


 外観は一階部分が石造りで二階が木造という変わった造りだが、ヘイスがそれに気付いてほかの建物を見てみると似たような建物が多く、どちらかというと木造のほうが多い気がした。

 あとで聞いてみたところ、魔物の領域を開拓すると木材がいくらでも手に入るのだそうだ。石は貴重品とまではいわないものの、頑丈さが必要な箇所にだけ使っているのだという。


 それはともかく、ヘイスは満を持して冒険者ギルドの入り口を潜った。


「ステラ! 受付を頼む!」


「あら、ミゲールさん。表からなんてどうしました?」


「コイツの受付を頼む。腕利きの魔法使いだ。ワケありってほどじゃねえが、登録は初めてなんだとよ」


 大概の小説は筋が通っていたようで、早朝とは言えなくなったこの時間帯はギルドに冒険者の姿は疎らだった。

 そしてテンプレ通り、酒場は併設されていた。朝から飲んでいる男たちもいる。


 ミゲールと呼ばれた買取担当が受付にヘイスを紹介すると、ヘイスに耳目が集まるのもテンプレ通りのようだ。

 しかし、買取でお世話になっているだろうミゲールの紹介だ。究極のテンプレである新人への絡みは期待できない。


 そんなことを考えながらヘイスはステラと呼ばれた受付嬢の前に立った。


「ボルサス冒険者ギルドへようこそ。受付担当のステラです。登録をご希望だそうですね?」


「ああ。いろいろ勧められてな。30過ぎてるが、かまわないか?」


「はい。当ギルドは犯罪者以外どんな方でも登録は可能です」


『30過ぎ』の辺りで酒場から笑い声が聞こえてきたが、受付嬢ステラが歓迎の微笑で答えてくれたため酒場は静まった。

 ミゲールの睨みの効果もあるかもしれないが。


「じゃあ、ステラ。頼むぞ。登録料は買取から引いておくからな」


「世話になったな」


「まだ買い取りは終わってねえよ。またあとでな」


 酒場の反応も大丈夫だろうと判断したのか、ミゲールは仕事場に戻っていった。

 ヘイスは再びステラと向き合う。


「じゃあ、手続きを頼む」


「はい。こちらに記入しますが、代筆しましょうか?」


「名前ぐらいだろう? 自分で書くさ」


 申し込み用紙は、日本の常識では考えられないぐらいスカスカな内容だった。

 しかし、元営業担当サラリーマンとして、隅から隅までずずずいっと確かめなければ気が済まないヘイス。


 名前は書いた。

 出身地は、まさか日本とは書けないので空欄。

 現住所は、おなじく空欄。


 レベルとスキルの欄で手が止まる。


「このレベルとスキルの記入は必須なのか?」


「できれば記入してほしいのですが」


「嘘はつきたくないのでな。何か書いてメリットがあるのか?」


「パーティーメンバーを探したり、こちらでクエストを紹介するときに役に立ちますね」


「そうか。もしそんなときが来たら改めて記入しよう。これでいいな」


 結局名前のみの記入で提出するヘイス。

 受付嬢ステラは苦笑いで受け取った。


「では、これを」


 ステラが取り出したのは、地球でいうところのスキャナーだった。

 これもアスラ神から情報を得ていた。対策もバッチリである。


「手を載せてください」


 ヘイスは平然とした態度を崩さず黙って手を置く。


 この世界、アスラ神が言う通り、魔物とシステムのせいで中世レベルを抜け出すことができないでいるが、こと魔物関連ではこのような地球以上の進化もあるようだ。さすがに千年の時間はバカにできない。

 しかし、増え続ける魔素がダンジョンを生み出し、魔物はいくら倒してもそれ以上に増えていく。この程度の発展では焼け石に水だ。


 中世レベルを抜け出すには思い切ったアウトブレイクが必要である。

 ヘイス自身がそのキーマンなのはアスラ神以外知るところではない。


「これで登録は完了です。これがヘイスさんのカードです。登録料は銀貨一枚ですが、買取から引いておきますね。再発行にはペナルティー分も含めて銀貨3枚になりますのでご注意ください。

 もっと詳しく説明しましょうか?」


「ああ。特に重要なところを頼む」


「そうですね。ランクは一級から九級まで。ヘイスさんは九級です。これは問題ないですね?」


「ああ。知ってる」


「そうですね。大事といえば、ボルサスは冒険者ギルドの自治都市なのはご存知ですよね? 税金がほかの国のギルドとは違うので注意というか、誤解しないようにしてください。冒険者は依頼料や買取料金から天引きされますから。人頭税がない代わりに都市税がかかります。これは入場税も含みますのでお得ですよ。

 それから重要といえば……治安関連ですね。ここは自治都市ですから、国の衛兵というのはありません。ギルドによる自警団が衛兵の代わりだと思ってください。裁判もギルドで行ないます。ですから、ほかの国のギルドが冒険者同士の争いに関与しないというスタンスなのに対して、ボルサスではガッツリ関わります。

 あとはだいたい同じでしょう。ほかに聞きたいことはございませんか?」


「ああ。問題ない。わからないことが出てきたら改めて聞きに来よう」


「はい。お待ちしております」


「では、俺は買い取りに行かせてもらおう。手続き、感謝する」


「はい。いってらっしゃいませ」


 ヘイスは受付カウンターを後にした。




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