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第27話 初めての街

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーは異世界の街へ旅立つ。


 アスラルテア山ダンジョンを最下層から攻略することが結果的にレベル上げと魔法の修行になっていたので、移動も楽々である。

 バカみたいに上空に飛び上がり、地平線に向けて転移魔法を使う。普通の、システムに依存している魔法使いならあっという間に魔力切れになるが、ヘイスは邪神の使徒にしてチート持ち。魔素を吸収するのが使命であり、またその回収した魔素も自由に使えるのだ。


 六度目の○空術でついに地平線ではなく水平線が見えた。

 手前には明らかに人の手による壁が見える。目指すべき人里である。


 ヘイスの心は躍った。

 次元の穴に落ちておよそ三年。その間ダンジョンに閉じ込められ人との交流は絶無。姿の見えない自称神サマとの会話が心の支えとなってしまっていた自分が悲しいヘイスだった。魔法やスキルが使えなければイマジナリーフレンドを疑ったかもしれない。或いは意識不明中の夢である可能性も捨てきれない。

 そんなヘイスがやっと本物の人間に、異世界人ではあるが、触れ合うことができるのだ。これが喜ばずにいられようか。


 空中で謎の踊りをしばらく続けた後我に返ったヘイスは一度街の上空に転移し、街を囲む壁際の人気のないところに再度転移した。


 直接街中に降りてもよかったのだが、テンプレは外せなかったヘイスだった。

 一度滅び、千年経っても港町一つ維持するのがやっとの世界だ。厳格な戸籍管理などできるはずもないと楽観視している。

 これは、なにもこの世界を見下しているワケではない。純然たる事実で、極めてビジネスライクな態度だとヘイスは考えている。

 なにしろヘイスは地球に戻ることを前提として、仕事としてこの世界に留まっているのだ。恨んだり八つ当たりしないだけでも十分理性的だといえる。褒めてほしいぐらいだと思っていた。


 アスラ神によるとこの港町は『ボルサス』と呼ばれており、この大陸、通称『魔物大陸』で一番大きな港湾都市だそうだ。千年前の魔物の大氾濫、ヘイスの知識的にはいわゆるスタンピード、が起こった際、当時の王族貴族はすべて逃げ出し、一旦は滅んだとされた。その後、冒険者――これもアスラ神がヘイスの知識から翻訳した――たちを中心に奪還が試みられ、やっとここまでになったという歴史がある。近年は当時の王族貴族の子孫を名乗る者が正当な後継者として支配権を主張するなどキナ臭い状況もあるものの、いまのところ都市の運営は冒険者ギルドが行なっているらしい。


 ボルサスの街は西から南にかけて海に面しており、まさに港町の様相を呈している。北側と北東と東側三方に壁があり、北門と東門はそれぞれ海岸沿いの街道に繋がっている。特別なのは北東門で、そのすぐ外は農地になっているが、魔物の領域とも近いためなかなか再開拓が難しく、たびたび魔物が襲ってくるので警備も厳重らしい。


 以上の点を踏まえてヘイスは南門の近くを選んだ。この街はこの大陸で一番大きいが、唯一の町というわけではない。ほかにも規模は小さいが町はある。旅人も少なくないのだ。


 一旦南の街道に出て東門に向かう。

 時刻はまだ早朝とも言っていい。門から出て行く人は多いが、外から入る人は少なかった。街道で野宿してきた人たちであろう。

 ヘイスはそんな旅人たちに紛れ込む。


「次の人、カードはあるか?」


 門番というべきか、入国管理官というべきか。

 おそらくは冒険者ギルドの職員が入場者に聞いて回っている。身分証があれば入場はスムーズで、なければ簡単な審査があるらしい。


 当然ヘイスは審査を受けることになった。

 神の力、正確には現在のリソース、では偽のカードを作ることができなかったのだ。ヘイスも冒険者ギルドのテンプレはこなしておきたかったので、どうでもいいことではあった。


「名前と出身地は?」


「名前はヘイス・コーズキー。修行の旅の途中だ。出身地は事情があって言えない」


「……フードを取って見せろ」


 職員に言われ、ヘイスはドラゴンローブのフードを取った。この三年で伸びた黒髪が顕わになる。

 職員は見識があったようで、なるほど、といった表情をした。


「手配書にもないようだから問題ない。だが、身分の証明できないものは入場税として大銀貨一枚だ」


「金もない。だが、魔石で払う。かまわないだろうな?」


「さらに高くつくぞ?」


「かまわん。修行の余禄だ」


 ヘイスはローブの内側に手を入れると、そこから取り出したように見せかけてアイテムボックスから魔石を取り出す。

 これはアスラルテア山ダンジョン上層部のモンスターの魔石だ。


 ダンジョン攻略開始当初は食肉以外全く念頭になく解体した残りはすべて魔素に変換していたが、食糧事情が改善されてきて心に余裕が生じ、さらにアスラ神からも知識を得たのだ。いずれ人里に下りた場合、通貨代わりになるだろうといくつかは魔素に変換せず残しておいた。特に騒ぎにならないような雑魚モンスターの魔石ばかりを。


『俺何かやっちゃいました?』はヘイスの琴線には触れないどころか避けるべきパターンなのだ。


「ここは買取所じゃないんだかな。まあ、たまにいるんだ、お前みたいなヤツが。ちょっと待ってろ、専門家に来てもらう。ただし、手数料がかかるからな」


「文字通り手数をかけさせるんだ。追い出されたり捕まったりするよりはマシだ」


「話のわかるやつでよかったよ。なぜギルドに登録しない? 出身は強くは問わないぞ?」


「特に不便を感じなかっただけだな。冒険者以外この世のすべての町に入れんと言われたら考えてもいいが」


「そこまでは言わないが、正直こっちも審査が面倒なんだよ。何度も出入りするなら、できれば登録してほしい」


「そうだな。確かにこの町なら何度も出入りするかもしれん。考えておこう」


「いやいや。そこは考えておくじゃなくて、ぜひ登録してくれよ。ちょうど買取の担当呼んだんだから戻るときに一緒にギルドに行ってくれ」


「だがなぁ。この歳で新人扱いだろ? 聞いてるぞ? ゴロツキみたいな連中もいて、新人に絡んだりするそうじゃないか。俺みたいなオッサンが新人で登録なんかしたら面倒そうだ」


「詳しすぎないか? ホントはベテランの冒険者じゃないだろうな?」


「違うさ。ただの修行中の旅人だ。だが、わかった。詮索されたくないのも確かだから登録しておこう」


「おう。そうしてくれるか。次からは楽になるぜ。俺もお前もな」





 こうしてヘイスは冒険者ギルドに登録することになる。


 今はしばし買い取り担当の到着を待っていて、入場はお預けであるのだが。


 

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