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第26話 初めての……

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはやっと異世界を体験することができるようになった。


 スタート地点は始まりの町ではなく、世界最高峰の山頂だというのが笑えない。


 ヘイスは出発する前に景色を堪能する。

 日本にいた時には体験できなかった光景なのだ。少しくらい時間を無駄にしてもいいだろう。


 成層圏に近いこの山頂は寒さは厳しいし冠雪もあるが、常に吹雪いているわけではない。雲海は遥か下方に見えるし、空は青というより紫がかった群青である。何よりダンジョンでは見ることがなかった太陽の姿もハッキリ確認できる。


 ちなみにだが、ダンジョン探索中は時間を確認することができなかったヘイスも、転移魔法が可能になり、ちょくちょくコアルームに戻れるようになるとアスラ神から正確な時間を聞くことができるようになったのだ。

 おかげでなるべく規則正しい生活も可能になり、今はちょうど、この大陸時間で朝になったばかり。雲海の彼方にこうして見下ろす太陽も不思議な感じだ。


「あっちが東か……じゃあ、予定通り南西に行くか……」


 ダンジョン探索の合間にアスラ神からこの世界の常識に関する講義がなされた。特にダンジョンの完全攻略が終わってからはヘイスはコアルームで寝泊りする頻度が増えたため、講義の機会も増えたのである。


 アスラ神の持つ知識は千年以上前のことが多く、しかも人間社会についてはそもそも興味がないという態度だった。

 しかし、ヘイスのためにと、なけなしの神力を使い最新情報をわずかでも入手するという優しさもあった。

 ヘイスもアスラ神の心意気に答えるべく、割と真剣に講義を受けたものだ。


 その情報によると、今いるアスラルテア山は赤道直下にあり、今は『魔物大陸』と呼ばれている、南北2000キロ、東西に3000キロの大きさで、ヘイスのイメージではオーストラリアぐらいの大陸の中央にあるらしい。

 中央に高山があり、赤道付近は環境が苛酷なため人々は環境のいい南側、北側に集まって国を作ることが多かったそうだ。南側北側それぞれで一つに統一したり複数に分裂したり、有史以来南北が統一されたことはないという。


 それも千年前までのこと。

 当時四つあったこの大陸の国は魔物の異常発生により滅亡したという。


 アスラルテア山ダンジョン以外にも言及があった。


 この大陸には千年前ほぼ同時期に36のダンジョンが発生したという。

 それも、アスラルテア山を囲むように、半径およそ400kmの時計の文字盤のように12個。そして半径およそ800kmの外周に24個だそうだ。この配置を見ても、何者かの意思が介在するとアスラ神が判断したのは妥当だろう。


 それ以後も、アスラ神が結界を張ったにも関わらず魔素は漏れ続け、36以外のダンジョンも各地にぽつぽつと増えているそうだ。こちらは人為的配置かどうかは判断が付かないという。わずかでも結界の効果があったらしく発生スピードは抑えられたようだ。

 それでも千年あれば相当増えていることだろう。アスラ神もすべては把握できないという。もちろんリソース不足のため。


 ヘイスの任務は、システムが関わっているであろう36のダンジョンの完全攻略だ。そのほかのダンジョンは余裕があれば頼むと言われている。


 ヘイスのしばらくの拠点はこの『魔物大陸』なるだろう。

 では、はじめにどこに行くかだが、アスラ神の最新情報によると大陸の北東、南東、南西、北西に国とまではいえないが都市が残っていて他大陸との交易もあるそうだ。


 そして、先のことになるだろうが、この大陸から一番近い大陸は南西にあるそうなので、一攫千金を狙う旅人も多そうだということで目的地を決めたのだ。


「さて、そろそろ行くか」


 雄大な景色を心行くまで堪能したヘイスは腰を上げる。

 南西方向をじっと見つめ雲海の切れ間に注視する。


「転移!」


 このスキルは目に見える範囲での転移である。魔法陣は必要とせず、自身の魔力を使う。

 そのため平地では4キロぐらいが限界だそうだ。魔力が足りなければ発動もしない。


 だが、ここが標高10000メートルであれば話は別である。魔力もヘイスの場合魔素を流用できるので無限といってもいいのだ。

 ヘイスの転移は優に300キロを超えた。


 着地地点は大陸南西部にある小高い山の上。

 さすがに千里眼スキルは持っていないのでここが限界なのだ。

 そしてアスラ神のアドバイスで内円12ダンジョンの7時ダンジョンと8時ダンジョン(ヘイス命名)に程近いので中継点にしておくつもりだった。


「よし。幸い人目もなさそうだし、ここに魔法陣置いておくか」


 人目がないのは、この大陸が一度滅びたからである。好き好んでこんな辺鄙な場所、12ダンジョンを越えてアスラルテア山方面に来る物好きはいない。

 その証拠に、人目ではないモノが現れた。


「ぐるるるるる……」


 魔法陣の設置作業をしていると、どこからともなく狼のような魔物が現れた。いや、鑑定をしていないので正確にはわからないが。

 次第にその数を増やしている。


「おお! 第一村人じゃなくて第一魔物? テンプレじゃ馬車を襲ってるもんだが、俺が襲われるのか?」


 ヘイスは余裕そうである。

 それはそうだろう。チートがあるとはいえ千層ダンジョンの攻略者なのだ。世が世なら歴史に残る快挙なのである。


 ヘイスは、記念すべきダンジョン以外の魔物を、いきなり殺すのは忍びないので実験に付き合ってもらうことにした。


「まず俺のチートが外でも役に立つかだな。吸収! おっ、効果はあるな……じゃあ、鑑定」


 狼たちはいっせいに倒れた。

 この三年でヘイスのレベルは格段に上がり、魔素吸収能力も効果範囲、スピードともに体感で十倍ほどになっていたのだ。


「HPは1。これはよし。種族がグレーウルフ? ダンジョンモンスターじゃないのはわかるけど、魔物かどうかもわからんな。まあ、まだ山の近くだし、魔素も濃いはずだから魔物化してるんだろう」


 ヘイスはアスラルテア山ダンジョンで確実に1000匹以上の魔物と戦ってきた。そしてアスラ神の講義と鑑定によって得た魔物知識では、ダンジョンモンスターには3種類あることがわかった。

 一つ目はそのままダンジョンモンスターと呼ばれる種類。これはリポップ前提の生殖活動を行わず寿命もない種類だ。ダンジョン下層以下に多いタイプである。

 二つ目はダンジョンモンスターではあるが生殖機能を持ち寿命もあるタイプ。残念ながら山ダンジョンはリポップ機能が停止していたためにヘイスが直接出会うことはなかった。

 三つ目は、二つ目のモンスターの子孫で、同一のままの種族もあれば進化して別種族になった場合もある。この場合鑑定にはダンジョンモンスターとは出ない。


 そしてダンジョンとはまったく関係のない、普通の動物が魔素の増加によって魔物化する場合もある。おそらくこの狼たちはそのパターンか、それらの子孫であろう。


「付き合ってもらって悪かったな。これは礼だ」


 ヘイスはアイテムボックスの中から十キロはありそうな肉の塊を取り出しその場に置いた。


「ここは魔素が濃いからすぐに回復するだろ。次は冒険者として殺すからな。○空術!」


 ヘイスは空に飛び上がった。

 スキル名はヘイスの冗談でステータスにも出ていない。風魔法と重力魔法を魔素のゴリ押しで使っているだけである。

 飛び上がったのはそのまま飛行して人里を目指すのではなく、転移魔法の距離を稼ぐためだ。何せアスラルテア山から南西の都市までは2000km近くあるらしい。高度10kmからの転移を6回は繰り返さないとならないからだ。


 それができるようになったヘイスは十分チートである。


「さーて。どんなところかなあ?」






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