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第23話 新階層の探索

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーは新たに辿りついた第四層で精力的に活動していた。


 コアルームに戻るかどうか悩んだ結果、探索の継続を選んだのだ。


 理由はいくらでもある。

 出発時のアスラ神の言い方からして神力変換とやらはそうすぐにはできそうもない。ならば、いま戻っても転移魔法のインストールは期待できないだろう。同じ理由で魔素回収もそれほど急いではいないはず。


 それに、今後転移魔法が使えるようになっても塩の取れる階層は重要だ。塩も野菜も果物も何でもある楽園みたいな階層を見つけない限りは、ここに仮拠点を作っても無駄にならないはずだ。


 大ヘビの肉もコアルームではなくここに保存しておけば塩と合わせて非常用にもなる。さらに上の階層に食用になる魔物がいなかったら最後の生命線になるのだから。人型も口にしたくないが、ゴーレムとかゾンビとかスケルトンとかは無理。ゴーストなどは物理的に食えない。


 ぶっちゃけると戻るのが面倒だったからである。


 そんなわけでヘイスは次の階層に繋がる入り口を探している。

 まず三層に続く洞窟の周囲。

 これは、三層とは違って海があったからだ。三層では運よく入り口同士が正面を向き合っていたが、第四層の正面には海と氷山があったので別方向も調べることにしたのだ。


 探索の結果、吹雪で見えにくかったが、洞窟のある小山は海に囲まれた小さな島、或いは氷山だということがわかった。

 唯一怪しいのは洞窟正面の氷山である。


 ヘイスは塩を採取したクレバスを飛び越え、平面部分のほとんどない絵に描いたような氷山の調査に執りかかった。


「うっ、落ちたら死ぬ……吸収!」


 身体レベルがいくら上がっても、ヘイスは元々はしがないサラリーマン。実は一子相伝の古武術の後継者だ、という設定もなく、雪山登山やロッククライミングが趣味というわけでもない。

 その上足装備は合成革靴。思いつきで魔素を込めてみて丈夫になっているかもしれないが、この環境ではとても適しているとはいえない。日本の冬は厳しく、都市部でも道路が凍り、毎年滑って転倒する事故が頻発する。ヘイスもそんな経験があるのだ。


 そこでヘイスは裏技を使った。

 氷山の一部を魔素吸収で崩壊させ、ちょうど足をかける部分ができるようにするのだ。


 こうして吹雪と落下の恐怖に耐えながら氷山を一周する。


 魔素吸収を最大範囲でかけながら調査した結果、マッピングスキルで判別したのだが、洞窟の正面方向に新たな氷山がわずかに見えた気がしたのだ。


「また正面か……このダンジョン悪意があるのか親切なのか……」


 自分がダンジョンマスターならわざと30度ぐらいずらすのに、と考えるも、今のところ選択肢はなく、海を渡るしかない。

 ではどうやって?


「海をすべて凍らせる? できるか? あとは無難に船、造るしかないか……」


 何十もの氷の塔を建ててきたヘイスにとって造船自体はさほど難しくはなかった。

 難しいのは動力である。

 人力? 今のヘイスのステータスなら可能性はある。ただ操船技術が……

 魔法? 風魔法か水魔法か。どちらも生活魔法レベルだ。


 攻略に行き詰ったヘイスは一度洞窟に戻ることにした。

 どちらにしろ次の階層に行く前に拠点を整備しなければならないのだ。


 拠点といってもヘビ肉置き場である。

 太くて短めの塔を創り中をくり抜くだけでいいのだ。


 続いてヘビの解体。

 ドラゴンで要領は掴めたので後は体力勝負だった。

 頭部分はタンとほほ肉を残して魔素に分解。内臓もドラゴンに比べてわかりにくかったので全部分解。皮、骨も分解。

 これで残るのは肉だけ。


 ヘイスはアイテムボックスと自分のステータスをフル運用し倉庫に運び込んだ。解体場所と倉庫が近かったのが幸いである。それでも何十メートルの巨体、和室の押入れ二つ分のアイテムボックスでは何十往復としなければならなかった。


「あー、早くアイテムボックスのレベル上んねえかなあ……」


『スキル《アイテムボックス》のレベルが上がりました』


 やっとすべてのヘビ肉を運び終わり、一息ついたところに天の声が聞こえた。


「何でこのタイミング!? 監視してるのか!?」


 どうせなら運ぶ前にレベルアップしろよ、と憤ったが、いや待てと考えを改める。

 そしてステータスを確認し、運び終えたヘビ肉をもう一度アイテムボックスに入れ始める。


「う~ん、やっぱりか。鑑定じゃ2尋×2尋×2尋になってるけど、入るのはさっきと同じぐらいだ。神サマが魔素吸収用に調整してマイナス1だって言うのはこういうことか……なんだよ、レベルアップしても小さいままじゃん。

 魔素に汚染されていない物も入る普通の機能っていっても、このダンジョンで採れるものって全部汚染されてんだよな。今はあんまり意味ねえなあ。逆に汚染ありかなしかの判別もできなくなっちゃたじゃん。

 神サマは訓練次第で選別できるようになるって言ってたけど、鑑定のレベルアップとどっちが早いかねえ? その前に感覚でわかるようになりそう……」


 やるせない気持ちになりながら出発の準備をする。

 アイテムボックスがレベルアップしたおかげで食塩もそのまま入れることができるようになった。

 ヘイスは洞窟の岩から壷を何個か作り出し、海に行って製塩を行う。

 ヘビ肉もアイテムボックス半分まで詰め込んだ。


 これで後は海を渡る手段を思いつけば完璧である。


 ヘイスは再び二つ目の氷山に渡る。

 階段を作り出し、水面ギリギリまで降りてみた。


「う~ん、どうしよう。ホント微かに見えてるんだよな……転移魔法があれば一発なのに……」


 空中の魔素を吸収するたびに吹雪の中に浮かび上がる影。

 魔法の効果範囲から推測して30メートル、あっても50メートルぐらいではないか。

 なら船より海を凍らせたほうがよいかもと考える。


 とりあえず試すことに。


「凍れ~! 海凍れ~!」


 ヘイスは海の中に氷の塔を水平方向に建てるイメージで念じる。


「できたけど……う~ん、10メートルくらい? 届かないねえ……」


 二つ目の氷山から横向きに氷の塔が生えている様子はかなりシュールである。だが、しっかりと魔素を込めたので土台はしっかりしていて荒波にも負けていなかった。


「継ぎ足せば三回か四回で届くだろ。うん、これで行こう」


 塔は円形なのでそこは表面を加工し波を被っても流されないように両側に壁を作りながら先端まで進む。

 そして継ぎ足し。

 このアイデアは見事成功し、ヘイスは五回目の継ぎ足しで何とか三つ目の氷山にたどり着くことができた。


「ふう! 足が冷たい! 結構濡れたぞ。まあ海に落ちるよりよっぽどマシだけど……」


 氷山に上陸したヘイスはホッと息をつきながら魔法で濡れた服を乾かした。


「休みたいとこだけど、方針は早く決めときたいな……」


 ヘイスは第三の氷山の裏側に回る。


「ほら~。おんなじパターンだよ」


 空中に魔素吸収をかけると予想通り洞窟からの直線上に島影が見えた。


「こうなりゃ行けるとこまで行くか」


 こうして第四層の攻略は横向き氷の塔の継ぎ足し&氷山上陸を繰り返すこととなった。





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