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第21話 新たな階層?

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーは困惑していた。


 広いだけでランドマークのない、しかも吹雪と雪原、上も下も真っ白で悪視界。そんな環境フィールドを不眠不休……は言いすぎだが、少なくとも一睡もせず体感で丸二日間走り続けた。

 その苦労の甲斐あってか、ついに上の階層に続く階段を見つけたのだが、登ってみると次の階層と思われる場所は下と同じように吹雪が舞っている。

 ひょっとして物理的な階段を登っただけで同じ第三層のままではないか、と思ってしまったのも無理はなかった。


 ヘイスは睡眠不足の頭で必死に考えた。


「よし。まず寝よう」


 妥当な判断である。


 朦朧とした意識でもわかるが、この洞窟ならびに階段は岩でできている。そう、氷や雪ではなかったのだ。

 凍死する確率が下がったと喜び、急いで整地する。

 ダンジョンから魔素を完全に抜き去るとダンジョンそのものが崩壊するとアスラ神から注意を受けていたので加減しながら岩を加工する。


 階段の途中を二箇所土壁で塞ぎ部屋状に区切る。およそ四畳半ほどの空間ができた。

 真ん中の階段部分は削ったり埋めたりして一畳ほどの横になれるスペースを造った。


 もうこれだけでも十分身体を休めることができるが、ヘイスはもう一手間かける。

 下側の壁際に加工した余りの岩の塊を置くと、それを火魔法で真っ赤になるまで炙り続ける。何のことはない、暖房代わりだ。

 階段洞窟の外は両側とも極寒の世界である。いくらドラゴンローブで防寒できるとわかっていても睡眠中になるとその効果も不安になるのだ。


「よし。もう限界……」


 ヘイスは即席の石のベッドに横たわると寝心地など気にすることなく深い眠りに落ちていった。


『スキル《土魔法》取得しました』

『スキル《火魔法》取得しました』





「っふがっ……う? んー…………あ。そうか。ライト」


 魔法の光に照らされた、即席の岩の小部屋を見渡す。

 ダンジョン内での寝起きに慣れてしまったヘイスは、もう暗さにも取り乱すことが少なくなったようだ。


「何時間寝たのかねえ? 背中も痛えし、腹も減ってるな……よし。まず飯だ。あきたけど……」


 ヘイスは手早く食事を済ませる。本音はもう見たくもない。単なるエネルギー摂取だ。

 食後の休憩時間にステータスをチェックする。


「ほー? アナウンス気付かなかったけど土魔法と火魔法取れてるな。予想どおりだけど、下位スキルが《ストーン・バレット》って、石かよ! ボールは!? ……まあ、お約束か。んで火魔法が《ファイヤー・ボール》か。普通だな。

 後は新しいのはないな。アイテムボックスは……9/100か。出発時は1だったから、肉はもう少ないし、結構魔素が溜まったのか?」


 ヘイスがこの数値にピンと来ないのはドラゴン肉と違って魔素粒子が目に見えないからである。

 実はこの数値は元々の数値を大幅に減らしたものであった。

 これまでの道中、無数の氷の塔を建てまくり、岩壁を加工して小部屋を作れたのはひとえに原初魔法と魔素の大量注入のゴリ押しのおかげであったのだ。そのためダンジョンの構造物並みの耐久性を誇る。ステータスを細かくチェックしていなかったヘイスのミスである。


「さて、休憩も十分だし、そろそろ確かめるか」


 昨日? のことはヘイスも覚えている。

 この階段の先が新たな階層なのかそれとも三階のままなのか。

 実際に行って見るよりほかはない。


 せっかく作った岩部屋はこのまま残しておくことにして、ヘイスは階段上部の壁に自分が通れるだけの小さな穴を開ける。

 そして慎重に壁の外を確認すると階段を登り始める。


 すぐに階段が水平の洞窟に変わり、その洞窟も非常に短く、外が丸見えだ。

 丸見えといっても、昨日愕然としたように、外は吹雪で視界が悪かった。


 ヘイスは慎重に洞窟の外に足を踏み出す。

 もし新たな階層であったら、おそらく魔物が存在する。それもフロアマスター級。最低でもミノタウロス、最悪はドラゴンクラスだろう。


 ヘイスはスノードラゴンに出会ったときのことを思い出しながら、悪視界の中魔物の存在を探した。

 不自然な山があったらきっとそれはドラゴンに違いない。

 そんな誇大妄想をする。


「っ! 吸収!」


 洞窟を出て数十メートル。そろそろランドマークになる塔でも建てようかと考えたところで前方に小山が見えた気がした。

 こんなシチュエーションは二回目である。

 ヘイスは躊躇することなく魔素吸収をかけた。


 だが、ドラゴンだと思った小山は身じろぎもせず鳴き声も上げない。


 ヘイスは吸収の射程距離が足りないのだろうと近づいた。


 魔素吸収で吹雪も薄くなり、視界も少しは良くなったところでヘイスは自分の勘違いに気付く。


「あれ、ホントに山だ。氷山だな……」


 スノードラゴンも体表が白っぽく雪原に溶け込んでいたが、さすがに近距離で間違うことはなかった。対してヘイスの目の前にあるのはどこからどう見てもドラゴンには見えない。もしこれが魔物ならきっと名前はビッグ・ミミックなのだろう。


「吸収!」


 一応ミミックの可能性も考えて氷山に魔素吸収をかける。

 だが、表面が崩壊するのみで動きはない。


「う~ん、こりゃマジで氷山だな。戻るか……ん? 氷山?」


 一度洞窟に戻ろうとしたヘイスだったが、あるひらめきがあった。

 それは直感というよりも願望に近いものだった。


「氷山といえば流氷、流氷といえば海!」


 ヘイスはランドマークを建てることも忘れて氷山に向かう。まあ、マッピングスキルがあるので24時間の猶予はあるが。


「おわっ、あぶねえっ! ……だが、しかーし! 俺の勝ちだ!」


 興奮して錯乱気味のヘイスだが、いったい何があったのか?


 それは氷山に辿りつく前に、相変わらずの悪天候のため雪の地面が途切れていることに気付かず、危うく海に転落しそうになったのだ。


 そう。海だ。


 単なるクレバスではない。ヘイスの立っている雪原と、氷山の間は非常に狭かったが、下には確かに液体が波を打っていた。

 この液体を海水といわずに何と言うのだろうか。

 もし異世界の海水が真水だったらダンジョンを崩壊させ世界を道連れにしてやると物騒なことを考ええながら、ヘイスは海へと続く氷の階段を作る。

 原初魔法での森羅万象への干渉に次第に慣れつつあるヘイスであった。魔素のゴリ押しでもあるが。


 水面まで降りてきたヘイスはアイテムボックスから土の碗を取り出し、海水が手に掛からないように慎重に汲み上げる。

 いきなり手を突っ込まなかったのは、ここが異世界でしかもダンジョンだからである。悪意に満ち溢れているのなら、真水は笑い話で済むが酸や毒であったら只では済まないのだ。


 早速鑑定する。


「鑑定……海水……レベル1は使えないってことが改めてわかったな。しかし、毒とも酸とも出ないから安全なのか? いや、異世界の海水は酸がデフォってこともありうる。なんか大昔の地球の海も塩酸メインだって聞いたこともあるし……」


 判断に困るヘイス。最終的にはアスラ神に確かめてもらえるだろうとやや楽観していたのが功を奏したのか別の判別方法を思いついた。


「ダンジョンの壁からケイ素だけ分離できたよな。もう何魔法かわからんが、塩もいける気がする。というか元々そのつもりだったし、やってみればいいんだ」


 思いついたというより当初の目的を思い出したというべきか。

 とにかくヘイスの実験は続く。


「頼むぞ原初魔法! 塩! 塩化ナトリウム! 出ろ! ……おわっ、な、なんだっ!」


 ザバーンと飛沫を上げて海から出てきたのは、塩などではなく、ドラゴンらしき顔ををした巨大なヘビのような魔物であった。





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