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第20話 ペースアップ

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーは困惑していた。

 天の声ことシステムが《氷魔法》と《マッピング》を取得したと通知してきたからである。


「なんで今なんだよ! 特にマップスキル! 出るならもっと早く出ろや! クッソ時間の無駄だぜ!!」


 只の八つ当たりである。もしアスラ神がこの場にいたら、そうコメントしたであろう。


「ふー……落ち着け俺。使えるモンは使えばいいんだ。使い方は……マップ画面が出るのか? 違うな。ステータス画面で……あ、鑑定で調べればいいのか……なになに? 自分の通ってきたルートがなんとなくわかる。記憶期間は一日……って使えねえええ! なんだよなんとなくって! 一日って短すぎるだろうが!」


 鑑定結果に納得がいかず、より激しく癇癪をおこすヘイスであった。

 八つ当たりする対象は雪しかなかったが。


「ひっひっふー……お、落ち着こう……使えるモンは使おうって決めたばかりじゃねえか……レベル1は使えねえってわかってるだろ? いつか花咲くこともあるさ……」


 自己暗示をかけて落ち着こうとするヘイス。実に涙ぐましい。しかし、そうでもしなければ気が狂ってしまう可能性もある。ここは地球ではないのだから。


「……よし、落ち着いた。とりあえず使ってみよう。マップ! ……うん? マジかよ。わかるぜ……」


 希望通りのマップ画面は出なかったが、本当になんとなくお宝部屋のある方向がわかる気がしたヘイスだった。

 ただ、ピンと来るというよりは、もやっとする、といった感じなのが不満であった。


「ま、まあ一日限定でも迷子にはならなそうだな。使えないこともないぜ。レベルが上がったら、きっとマップ画面に進化するはずだし、長い目で見るか。

 とりあえずこの階層は氷の柱は必須だな。おっと、そういえば氷魔法も取れてたな。水魔法は別なのか?」


 再びステータス画面を確認する。


「ほお? 下位スキル? だったっけ、攻撃スキルっぽいのがあるな。《アイス・ボール》か……ま、定番だな。ランスやウォールはレベルⅡかね。しかし氷のポール作って攻撃技取れるのか?」


 ヘイスは自分の造ったポールならぬ巨大な柱を眺めながら疑問に感じるのだった。


「ああ、そうか。数か。俺が氷の柱立てまくったからスキルが生えてきたんだな。マップも道造ったり何度も方向確認したからかな? 蹴り技は戦闘一回で取れたし、レベル1は取れやすいのかもな。あれ? じゃあ土器作りまくってる土魔法とかは? ……ああ。神サマの結界の中だったわ。外で使い続ければそのうち取れるんだろう。原初魔法使えるんだから気にすることはないな」


 ヘイスは自分なりに考察する。

 正しいかどうかはわからないが、スキルを取ることが主目的ではないと自戒して、目的のために今あるスキルを利用すればよいと結論づける。

 そして探索再開。


 かなり時間を浪費した感はあるが、フィールドの探索手順を確立したら後は順調だった。


 目測でおよそ100メートルごとに巨大ポールを立てていく。

 これは、ヘイスの感覚で魔物相手に魔素吸収効果があるのは最大10メートルぐらいだとしても、空中に漂っている魔素なら三倍は効果がありそうだと感じているためである。半径30メートル、直径で60メートルの範囲から吹雪が消えれば、そのさらに周りの吹雪も影響を受けて空気中の雪が拡散し、一瞬でも見通しが良くなるという寸法だ。

 というより、実際何本もポールを立てながらギリギリ見える距離を模索してきた経験論でもある。


 そしてさらにマッピングスキルも活躍した。

 通ってきたルートがなんとなくわかる、というのは鑑定当初はバカにしていたが、実際使ってみると自分で立てたポールの位置がわかるのだ。というより、まっすぐ進んでいるかどうかが感覚でわかるようになった。

 これで100メートル間隔といわず、1キロでも10キロでも方向に迷うことはなくなった。フィールド探索に一日以上かかり、前の記録が消えたとしても出発再開地点に二本以上ポールを立てておけば方向がわからなくなることはない。何しろまっすぐ進んでいるだけなのだから。

 今までの苦労はなんだったんだ! とヘイスがまた癇癪を起こしそうになったが、効率アップの前には些細なことである。


 ヘイスは走った。

 アスラ神の特訓のおかげで魔法の並列発動も慣れた。

 今は前方に魔素吸収を発動しながらマッピングスキルで方向を確認し、時折靴を乾燥させながらマラソン選手張りに走っている。


 体力はヘイス本人が信じられないくらいある。防寒のローブがいい仕事をしているためでもあるだろう。

 ただ、空腹は何ともできず、何度か食事休憩を取った。ランドマークになりそうな巨塔に部屋を造って。

 しかし、部屋は造ったが睡眠は取らなかった。

 いくらドラゴンローブがあるといっても氷の部屋、氷のベッドに寝たくはない。凍死しないほうがおかしい。

 そんなわけでヘイスは時折塔を建てながら腹が空いたら食事し、また走り始めるということを繰り返した。


 そして体力の限界と睡眠不足による意識の酩酊が感じられたころ、ついに目的のものが見えてきた。


 ヘイスは賭けに勝ったのだ。一発大当たりだった。


 ヘイスの目に映ったのは雪山。雪原ゾーンでは出発地点のお宝部屋以来初めての立体構造物である。

 ドラゴンだったなどというオチではない。空間ループしてお宝部屋に戻ってきたというわけでもない。

 上の階層に続くであろう扉のない洞穴も見えるようになった。


「やった! やったぞ! これで眠れる!」


 ヘイスの今の感動の理由はそれであった。

 しかし、勢いのまま洞窟に飛び込んだりはしなかった。


 まだ残っている理性を動員し、いずれコア部屋に帰還する時に必要になるランドマークを立てなければならないのだ。

 すでにお宝部屋の位置はわからなくなっている。

 しかし途中まっすぐに進んだ道のりはまだ感じられる。


 ヘイスはその道のりに沿って二本の巨大ポールを建てた。もちろん洞穴から見える位置にである。

 これで後日ここに戻ってきたとき、このフィールドのマップがなくともお宝部屋の方向がわかるのだ。


 そしてまだやることは残っていた。


「吸収!」


 ヘイスは洞窟に向かって魔素吸収をかけた。


 アスラ神は言った、魔物は淘汰され一階層につき一匹だけだろうと。だが、『だろう』では完全に信用するわけには行かない。


 ヘイスはこの雪原探索で慣れた魔素吸収を使いながら慎重に洞窟に入った。

 そこはすぐに階段が見える。


 間違いない、とヘイスは思った。外から見た雪山はさほど大きくはなかったが、現代日本人的に空間魔法的な階層移動も納得できるのだ。


 暗いので光魔法を併用する。ただし最小限に。

 ヘイスは疲れた身体にムチを打ち階段を登り続ける。

 すでに雪山の高さ以上は登ったのではないかと感じたころ、ついに終わりが見えてきた。


 光だ。


 ヘイスは自分の光魔法を消して、ゆっくりと進む。

 魔物と出会い頭の衝突など御免である。


 まぶしさに目を細めながら階段の終わりを覗くと、そこは……


「え? 雪山の上に出た?」


 そこは先ほどまで見ていた吹雪舞う光景が広がっていた。



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