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第19話 新たな階層へ

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはやっとのことでスノードラゴン(ヘイス命名)の死体をコアルームに運び終えた。

 雪原フィールドで地道に解体し、皮、角、骨などはその場で崩壊させ魔素として吸収、食べられそうな部位だけを一日に何往復もして運び込み、コアルームの壁際、扉を除く三方にずらりと積み上げたのだ。元々何十メートルもあった巨体、コアルームが一回り狭くなった。

 実に三日かかった。


「もうあきた! 米が食いたい! 野菜食いたい! しょうゆ味食いたい! せめて塩! 味がついたのが食いたい!」


 様々なドラゴン肉の部位。世界の食通も羨む贅沢なラインナップだ。


 だが、それも日常食あっての贅沢。今のヘイスにとって一切れのパン、萎びた青菜ですら最高のご馳走だろう。

 ハツやレバー、タンなどの珍味も口直しの意味で食べてはみたが、食感が違う程度で何の解決にもならなかった。

 水煮だけでは寂しいと、直火焼きにしたり、アスラ神に頼んで電子レンジ魔法のコツを習ったりもしたが焼け石に水、ヘイスの食に対する欲求は高まる一方だった。


『ふむ。三層のドラゴンもすべて処理し終えたのじゃろ? では先に進むがよい。きっとそなたの望むモノが得られるはずじゃ』


 余談になるが、ヘイスとアスラ神はコアルームの階層を一階層、スノードラゴンのいた雪原フィールドを三階層と便宜上呼ぶことにした。


「わかってるって。だたの決意表明だよ。でもこのダンジョン、ことごとく意表をついてくるんだよな~。神サマに保証されるとなおさら心配なんだが……まあ逝ってくる。今回は塩か野菜かフルーツ見つけるまでは戻ってこないつもりだから、神サマも早く神力増やしてくれよ?」


『うむ。心配するな。といいたいのじゃが、あまり過剰な期待はするでない。神と人間では尺度が違うのじゃ。そなたはそなたの仕事を全うすればよい』


「出発前なんだから景気よくいこうぜ? 次に戻ったら早速転移魔法のインストールじゃ! とかさあ……」


『我は事実しか述べぬ』


「クソまじめかよ。まあ、いいや。逝ってくるな」


『うむ。気をつけるのじゃぞ』


「おう!」


 こうして何十回目かの遠征に出かけたヘイスだが、第三層まではダンジョンモンスターのリポップがないことと、身体レベルが中級冒険者並みになっていてその身体に馴染んできたため、非常に順調に進むのだった。


 そしてスノードラゴンのいなくなった雪原フィールド。


「たぶん魔物はアイツ一匹だけだろうから心配ないけど、こう吹雪いてちゃあなあ……」


 寒さは今やお気に入りとなってしまったドラゴンローブがあるため問題はないが、吹雪で視界が非常に悪いせいで第二層への階段部屋の位置がわからなくなった瞬間に遭難決定である。


「……まてよ? このフィールドだってダンジョンが創ってるんだよな。つまり魔素で構成されている……吸収! おお! やっぱり雪が消えた! これで歩きやすくなる! 吸収! 吸収!」


 ヘイスは手当たり次第魔素を吸収し始めた。できるだけ雪が崩壊するイメージを込めながら。


「ん~。ダメだな。どこまで消しても床が見えねえ。こりゃキリがねえな。しょうがない、幸い積もってるのはアイスバーンみたいだから歩くのには問題ないだろ。なんせドラゴンも歩けるんだからな。吸収するのは吹雪だけにしとこう」


 目の前に大穴を開けて、それを覗き込みながらヘイスは結論を出した。

 そして以前当たりをつけたお宝部屋の正面方向に進路をとった。


 歩きながら空中に向かって魔素吸収を行う。ついでに、道に迷わないように、先ほどの大穴ほどではないが、幅1メートル、深さ30センチほどに雪原を除雪しながら進む。

 これは、人間は目印のない広い場所や目を瞑って歩くと自然に左右どちらかに偏ってしまう、とネットか何かで読んだことを思い出したからである。

 GPSもない、原始的な探検に付き物の糸やロープもない。苦肉の策だった。


「マップスキルほしいな……」


 異世界もの定番のスキルも今思い出したばかりだ。

 何しろ異世界にきてまだ数日、何が必要で何が重要か、ヘイスもアスラ神も手探り状態なのである。あとからあとからほしいものが出てくるのだ。

 そして必要なことでもアスラ神にもリソースという壁がある限り何でも手に入るわけではない。

 そして、この世界に根付いているシステム上のスキルについては、今思いついたことなのだが、詳しくアスラ神に聞くのはなんとなく憚られた。


「膝丈のブーツがほしい。ゴム長でもいい……」


 本当にあとからあとから問題が出てくる。

 防寒に関してはドラゴンローブにお任せだし、歩き続ける体力もある。

 しかし、一介のサラリーマンが愛用する合成革靴に問題があった。

 歩くたびに雪が入り込み、融けて水浸しになると、さすがのドラゴンローブも防寒の適応外になるらしい。

 ヘイスは時折立ち止まり、後ろにできた雪の道がまっすぐであることを確認するついでに靴ならびに靴下を魔法で乾かしていた。


 吹雪は魔素吸収をかけた一瞬は消えるがすぐに周りから吹き込んでくる。

 そんな不毛な作業を続けながら何時間歩いたことだろう。

 腹具合から6時間ぐらいかな、と考えてヘイスは昼休憩に入ることにした。実際今が昼かどうかはわからない。なにしろこのフィールドは白夜ゾーンらしく、太陽は見えないものの暗くもならなかったからである。


 休憩のため、安全も考えて、ヘイスは自分の創った雪道から少しそれたところに魔素吸収で斜め下に雪洞を掘り、食事ができそうなスペースも作る。


「あ。土で食器とか作れるんだから雪で氷の家とか作れたんじゃないか?」


 またまた後出しの知恵であった。

 試しにと椅子とテーブルを作ってみたところ、見事成功。

 魔素吸収とどちらが効率がよいか判断はできなかったが、小物については土魔法ならぬ雪魔法に軍配が上がるだろう。

 今度があれば雪で豪邸を建ててやろうなどと考えながらアイテムボックスから取り出したドラゴン肉の処理を行う。

 肉のスープに串焼きと生姜抜きのしょうが焼き。味はほぼ同じだが見た目は大事だ。


「よく考えたら道作っても雪が積もったらアウトだよな。今気がついてよかった。お宝部屋が見える位置まで戻って雪のポールを立てながら進み直そう。全力で走れば間に合うだろ」


 食べながらヘイスは予定を少し変更する。


 食事を終えたヘイスは早速行動に移る。

 まずは雪洞前に氷の柱を立てる。もうポールというサイズではない。素材も魔素も使いたい放題なので躊躇なくドラゴンサイズだ。これなら同色ではあるが吹雪の中でも目立つであろう。


 そしてお宝部屋に向かってひたすら走った。

 柱を立てながら戻る、という案もあったが、まずは戻ることに専念したのだ。

 帰り道がわからなくなるのが怖かっただけではあったが、事実、お宝部屋付近の道はすでに雪に埋もれていて一見しただけでは素人目には区別が付かなくなっていた。

 ここで対策を取らなかったら遭難していたところだった。


「うわー。積もってる。ほとんど道が見えないぞ。ギリギリ凹んでるのがわかるぐらいだ。とりあえずまっすぐではあるな……よっしゃ! 到着!」


 中級冒険者レベルの体力で走り続け、数十分かかったが完全に道が消える前に何とか大穴を発見した。

 なるべくまっすぐであることを確認しながら進んだことで距離が稼げなかったが、結果的にそれが功を奏したヘイスであった。


「よし。まずはドラゴンのいた辺りにでっかいの立てておこう」


 ドラゴンの雪像も考えたが、半日時間を無駄にしてしまったのでシンプルにいく。

 柱が塔サイズになってしまったが、完成したので改めて出発した。


 後ろを確認しつつ、吹雪を魔素吸収すれば一瞬見える程度の位置に次々と雪の塔を建てながら進んだ。

 雪道を作りながら進むよりも体感で三倍早く休憩地点に辿りつく。


「あー、何かスゲー時間の無駄! いや、前向きに考えろヘイス! このアイデアでほかのフィールド探索も問題ない!」


『スキル《氷魔法》取得しました』

『スキル《マッピング》取得しました』


「はあ!? なんで!?」

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