第117話 俺みたいにバカなのも多いだろ?
鈴木公平改めヘイス・コーズキーは、『本当にドラゴンを倒したのか?』と因縁をつけられた。だが、穏便にドラゴン素材とドラゴンを倒せる実力者を手中に収めたい冒険者ギルドはヘイスに代わって反論してくれた。ヘイスは素直に感謝すべきだろうか?
「わ、わかりました。ヨーダン殿、先ほどの発言は取り消します」
冒険者ギルドのギルドマスターによるメリットとデメリットに脅しを少々加えた説得の甲斐あって、国の使者であるコーモ子爵も折れたようだ。
「残念。証明しろって言われたら、湖にいるっていうドラゴンを城まで誘き出して目の前で戦ってやろうって思ってたのに」
「ヒッ」
ヘイスはギルドマスターが庇ってくれなかったら自分で論破する気だったし、最悪は今意趣返し気味に言った内容を実際にしてやろうとまで思っていた。
本気だったのが伝わったのか、コーモ子爵は息を詰まらせる。
「ヘイス殿。ドラゴンスレヤーの貴殿がいうと冗談に聞こえん。勘弁してくれぬか?」
「別に冗談じゃないからな。そんなにドラゴンがほしけりゃ、もう一匹はタダでもいいぞ?」
「わかった、わかった。ワシらの負けだ。ヘイス殿並びにボルサスには無理な要求はしないと誓おう。皆もそれでよいな?」
会議の出席者、冒険者ギルドと商人ギルド、天声教会とミッテン王国の関係者たちは顔を引き攣らせながら頷いた。
あからさまなヘイスの脅しだが、この段階で敵対するのは愚の骨頂だと誰もが理解した。あくまで理不尽な対応には相応の仕返しをすると言っているだけだ。こちらが友好的に接すれば利益があるとわかっている。地位も名誉もある人間が揃っているが、目の前の利益をふいにし、命や財産、国そのものを危うくしてまで冒険者を見下したいわけではないのだ。
「ふーん。そんなにドラゴンが恐いのに、よく目の前に街を構えていられるな。ん? そういえば隣の国とかと戦争したりしてるんだよな? 敵の特殊部隊とかがドラゴンを暴れさせて王都陥落、なんて作戦は採らなかったのか?」
ヘイスの単純な思い付きは、更に出席者の顔色を変えさせた。
中でもマシなほうのギルドマスターがヘイスの疑問に答える。
「できるできないで言えばできるであろう。だが、それをして国を盗ったところで長くは続かん。周りの国の信用がなくなるし、同じことをされても文句はいえぬ。少しでも知恵があるならあの湖には手を出さんだろう」
「ふーん、暗黙の了解ってヤツか。だが、俺みたいにバカなのも多いだろ? 国なんか要らないから胸クソな貴族どもに嫌がらせしたいってのがよ?」
「そなた、あまりハッキリ言わんでくれ。寿命が縮むわい。そうだな、基本は同じだ。湖の中央に近づくことは禁じておる。これはこの国の人間に対してだけではないぞ? 近隣の国にとっても他人事では済まぬことだ。もし大山脈に影響が出たらこの大陸全土に被害が及ぶかもしれん」
「いや、その影響なんかどうでもいいって思ってるヤツに対してはどうするんだって話」
「……詳しく言えるわけがなかろう。だが、そなたのような力を持った存在にはそれ相応の待遇を与えることにしている、とだけは言っておこう」
「ああ、それが上級冒険者の特典か」
「知っておったか。やれやれ、望めば爵位でも得られようものを、偶にそなたのように何も望まん変わり者が出てくる」
「人に飼われるのは御免だ。特に無能のクセに身分だけは高いようなヤツにはな」
「そなた、この部屋の外でそのようなことを口にするでないぞ。そなたが言うような愚かな貴族も多い。正直は美徳ではないのだ。そなたの不遜な態度を見逃すことで今後も得られる利益のことも考えられずに、断罪して一時の利益を上げようと画策する者も現れるであろう。当然そなたは暴れるであろうが、その時、国がどちらに付くかはわからぬし、ギルドもそなたを庇うかどうかはそなた次第だ。敵ばかり増やすようなマネをしていれば、いかに利益を与えてくれる存在であろうとも混乱の元を絶つのが組織というものだ。これは貴族としてだけではなく、ギルドマスターとしての忠告だ」
「流石は爺さん、年の功だな。安心しろ。俺も国はともかくギルドや教会を敵に回すつもりはない。戦いは数だからな。誰が個人で消耗戦を仕掛けるかってんだ。そもそも俺は目立つつもりもなかったんだ。ドラゴンを外に出しちまったのは後悔してるところだ。もう持ち込むのはやめとくよ」
「そんな! 今後も定期的にドラゴンが手に入るのではないのですか!」
冒険者ギルドのギルドマスターのありがたい忠告にヘイスは素直に感謝するとともに、対策としてこれ以上目立つマネはしないと改めて誓った。その一環として今後はドラゴンを納入しないと宣言する。
このヘイスの宣言に慌てたのが商人ギルドの代表であった。どうやら取らぬドラゴンの皮算用をしていたようである。
「また面倒そうなのに目を付けられたな。そこのオッサン、俺はそういう風に粘着されたくないからドラゴンの持ち込みは控えるって言ってるんだよ。そうだな、今後貴族や商人が絶対に俺に関わってこないようにできるってんなら、定期的にドラゴンを納品してもいいぞ? オッサン、どうだ?」
「ぜ、是非にお願いします! 必ずやあなた様の希望は……」
「まあ無理だろうな。自分が特別だと思ってる連中が多そうだからな。ギルド如きが指図するなって言われるだけだろうよ」
商人ギルド代表が期待に満ちた答えを返そうとしたが、ヘイスは最後まで言わせず、上げて落とした。
「そんなのが出て来たら契約違反だ。ギルドはどう責任を取るんだ? 金か? 俺はそんな物要らんし、長々と交渉する気もない。責任者の首も要らん。どうせ非主流派の人間を責任者に仕立て上げて一石二鳥ってところだろ? それでお茶を濁して再契約をしつこく迫ってくるんじゃないか? 俺に粘着するヤツが増えるだけだな。本末転倒だ。やはりドラゴンの話はナシだな」
「そ、そんな……」
ヘイスはまるで未来が見えているかのように語ったが、その場の人間はヘイスの話をありえることとして無言のままだった。
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