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第116話 バケモノだとか異常とか、言いたい放題だな

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはいつ終わるとも知れぬドラゴンを手に入れたい者たちの会議に出席させられていた。業を煮やしたヘイスは、目立つというリスクに目を瞑ってある提案をする。それは至極全うな『みんなでなかよく分け合おう』というものだったが、欲に塗れた人間がそう簡単に聞き入れるわけがなかった。



「ヨーダン殿! いくらドラゴンを倒したといっても所詮は下賎な冒険者であろう! 何故このような無礼を許しておるのだ!」


 決断を渋る国の使者に業を煮やして、すでに所有権を手放したと宣言しているのにも関わらず、ヘイスは『この場で決めなければドラゴンは売らない』と発言してしまった。国や教会にケンカを売っているも同然である。

 冒険者ギルドと商人ギルドの代表者も驚いていたが、一番反応したのは国の使者だった。先ほどまでヘイスのことを英雄殿と持ち上げていたのにもかかわらず、本音が出たのか、『下賎』呼ばわりである。ただし、クレームを入れる先は冒険者ギルドのギルドマスターだった。ヘイスとは口も利きたくないということであろうか?


「コーモ子爵、ドラゴンを倒せるということが如何ほどの偉業か理解できぬか? 口の利き方なぞ瑣末なことだ。せっかくこちらの言い値でドラゴンが丸ごと手に入るのだぞ? 時と場所を考えんか」


 国の使者はギルドマスターと同じ子爵位らしい。年齢はギルドマスターの方がかなり上であるからか、結構キツめに言い返している。もはや説教のレベルだ。


「だ、だが、それでは貴族としての威厳が……」


「気持ちはよくわかる。だが、それでも時と場所を考えよ。ここは冒険者ギルドでワシはギルドマスターだ。そのワシが許した。何の問題がある? ここで貴族の威光を振りかざせば、ドラゴンは手に入らぬぞ? それだけではない。ドラゴンを倒せるバケモノが敵に回ることもありうる。貴公、その覚悟はあるのか?」


「ぐぬ……よ、ヨーダン殿、言葉が過ぎよう。そ、そもそも、そやつは本当にドラゴンを倒したのか? ただの、アイテムボックスを持っている運び屋だというだけではないのか?」


 誰もが確かめたかったが、冒険者の手の内は詮索しないという不文律があるためヘイスの実力は未知のままだった。しかし、ギルドマスターに説教された国の使者はその不満を八つ当たりに変換してしまい、ドラゴンの入手方法に難癖を付け始めた。これは、ラノベでお馴染みの『何かインチキをしてるに違いない!』発言と同じである。

 ラノベの主人公たちもヘイスもチート持ちなので、インチキといえばインチキであるのは確かだ。だが、それは明確なルールがあって、それに抵触してこその話だ。何でもアリ、格闘界でいう『バーリトゥード』の勝者に『卑怯だ!』と文句を言うが如しである。それを言い始めたらスポーツ界ではお馴染みになった『フェイント』すら『卑怯』ということになる。しかし、昔の兵法家も『兵は詭道なり』や『武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候』などと言っている。要は勝てばいいのだ。無論その後の人間関係もあるので、視点は広げた方がいいかもしれないが、ただ単に自分が気に食わないからといって『卑怯だ!』と叫ぶのは論外である。ラノベでは『カマセ』と呼ばれる人種だ。『俺がルールだ』とでも思っている人たちである。


 今回の一件で言うと、ヘイスに何の落ち度があっただろうか? ドラゴンを倒すこと自体は依頼を受けてやったわけではない。手持ちの獲物を買取に出しただけである。もし他人が倒した獲物でも買取には関係ない。いや、例え依頼があったとしても現物を出せば達成と看做される。金銭で調達しようが他人から譲られようが、である。それを『実際に倒す場面を自分は見ていないからインチキに決まっている』と言われても返答に困るというものだ。


 だが、ラノベ愛読者のヘイスは是非とも『カマセ』たちを論破してやりたいと思った。

 チラリとギルドマスターのほうを見る。

 フードを被っているとはいっても黒髪が隠せればいいと思っている程度だ。それにギルドマスターの方が座高が低いのでヘイスとバッチリ目が合った。


「待て。そなたが反論すると余計にこじれる。それはワシも困るのだ」


 ギルドマスターは、ヘイスが何か言いたいのがわかり、慌てて止めた。

 ヘイスはせっかくのラノベ的シチュエーションだったが、拗れて時間を無駄にするのも嫌だったのでギルドマスターに従うことにする。


「コーモ子爵、疑う気持ちもわからなくはないが、今それを言って何とする。もし貴公の疑いが間違っていたら不興を買うだけではないか。仮に貴公の考えどおり、この者が強者でなかったとして、ではどうするのだ? 無理矢理ドラゴンを奪うとでもいうのか? ギルドがそれを認めるとでも思っておるのか?」


「わ、私はそのようなつもりでは……」


「貴公も傷一つないドラゴンの死体は目にしたであろう? 仮にこの者が倒したのでなくとも、誰かが為し得たということだ。そしてそのものは間違いなくこの者と繋がりがある。敵に回して何の利があるというのだ? それに、貴公もドラゴンがギルドに持ち込まれたという知らせを受けて慌ててここにやってきたのであろう? ならばこの者がケムールからどれだけの速さで王都に辿り着いたか知っているはずだ。それだけでもこの者の異常さがわかろうというものだ」


「さっきから、バケモノだとか異常とか、言いたい放題だな……」


 ヘイスはジト目でギルドマスターを見た。

 当のギルドマスターは知らん顔である。


 ヘイスは、ボルサスでは開拓でチートの一環を見せてしまったため一目置かれるようになり、ここでは移動速度の異常さで実力を推察されたようだ。わかる者にはわかる。上級冒険者が身近にいる冒険者ギルドならではの洞察力というものだろう。

 アスラ神から命じられた任務が終わるまで目立たないようにしよう、ラノベの主人公たちの徹は踏まないというヘイスの決意はヘイス自身の考えの甘さで無駄になりつつある。特にドラゴンの披露が仇となった。タイムスリップができるなら過去の自分を殴ってやりたかった。あれがなければミスティは恐い目に遭わず、今もヘイスと仲良く遊んでいれたかもしれない。


 だが、とヘイスは考える。

 仮に実力バレがなかったとしても、任務が終わればいつかは地球に帰る予定なのだ。別れが少しばかり早くなっただけである。逆に親しくなりすぎて別れが辛くなるという『荒野のガンマン』的展開にならなくてよかったともいえる。

 ヘイスは無理矢理そう思うことにした。


 ヘイスが後悔とも新たな決意ともしれない、取り留めのないことを考えているうちにギルドマスターによる国の使者への説教は続く。

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