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第113話 ピンチはチャンス?

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはナジャスとともに会議室に連れて行かれた。そこでは冒険者ギルドだけでなく、天声教会、ミッテン王国、商人ギルドの代表たちがドラゴンをめぐって丁々発止している。すでに引渡しの済んだヘイスとナジャスが、何故か巻き込まれるのだった。



「それはよろしいですな。わたくしども商人ギルドが責任をもって売り捌いてみせましょうとも」


 冒険者ギルド内の齟齬を見切ったのか、したり顔で話しかけてくる商人ギルドの代表。


「本部でもボルサスでもかまわん。国に献上いたせば国王陛下の覚えもよくなるというものだぞ」


「いえいえ。献上するなら神にこそふさわしいというものです」


 あくまでも献上しろと要求してくる国と教会の代表者。


「静かにせんか!」


 三者三様に騒ぎ立てるものだから、ついに怒鳴ってしまう冒険者ギルド本部のギルドマスター。

 とにかく煩かった。


 それでも最後のギルドマスターの一喝で再び会議室は静かになる。

 そこ隙を逃さず、ギルドマスターはナジャスに詰め寄った。


「のう、ボルサスからの使者殿。本部だ支部だと言っておるが、 ワシらは同じ冒険者ギルドの仲間であろう? 協力してことに当たるのが筋というものではないかの?」


「もちろんです。ですが、協力と言われましても、一介の職員にすぎない私に何ができるのか……」


 まったくだ。

 呼んでもいない客に押しかけられて困っているのはわかるが、だからといってナジャスに何ができると言うのだ。しかも何の打ち合わせもしていないのにだ。そもそもドラゴンは引き渡したし、交渉権も放棄した旨を告げてある。あとはお偉いさんたちでよろしくやってくれ、というのがヘイスの素直な感想である。


「それはだな……とにかくこやつらの話を聞いてやってくれ。ちょうどドラゴンを倒した者もおるのだ。どこか一組織が独占できるものではないと教えてやってくれ」


 またまたおかしなことを言い出したぞ、この爺。とヘイスは思った。

 一職員に貴族や上位の神官を相手にさせるのも問題だが、それを衆人環視の状況で切り出してどうするというのか。こういう場合、ナジャスの上司を通じて裏で指示を伝えるのが正常なトップダウンというものだろう。

 引き受けてもダメ、断ってもダメな案件と言うのは洋の東西どころか次元の壁を越えても存在するらしい。


「……平民の私では荷が勝ちすぎます。どうぞふさわしい人選をお願いいたします」


 我らがナジャスは、ここまでの道中ヘイスの爆走と魔物の大量襲撃のショックのせいか精神の麻痺が抜け切っていないようで、丁寧な言い方ながらもハッキリと拒否した。


「……ワシの命令が聞けんというのか?」


「少なくとも私の管轄ではありませんから。それより、お客様を放っておいてよろしいのですか?」


「ぐぬ……」


 ギルドマスターに一喝されてしばらくは大人しくなっていたものの、喉下過ぎればなんとやらである。手ぶらでは帰れない3勢力は再び騒ぎ始めていた。

 その騒ぎの中で、ヘイスは聞き捨てならない言葉を耳にする。


「皆様方、教会は勇者様のためにも引けないのです!」


「勇者?」


 ヘイスが海を越えてウエストリア大陸にまでやってきたのは、何もドラゴンの輸送を引き受けたからだけではない。ボルサスの騒ぎのほとぼりを冷ますためや、アルマン王国の暗部に仕返しをするという目的もあるが、最大の理由は『勇者』についての情報を集めることであるのだ。今のところすでに処理したアルマン王国の部隊から上司の愚痴として得た情報のみで、この依頼が終わったらアルマン王国に潜入しようと考えていた。

 ドラゴンを入手してそれをエサに勇者を呼び寄せようとしていたらしいが、真偽のほどは現地に行って見なければわからないと思っていたが、ここで情報が得られるとは思っても見なかった。


 いや、そもそも『勇者』は『システム』がどこからか拉致してきたのであろうから、その『システム』を神として崇め祀っている『天声教』に情報を求めれば一発なのはヘイスも理解している。だが、邪神の使徒だということがバレるのもマズイと、教会にはなるべく近づきたくないのも事実だ。

 それはそうだろう、ヘイスのような教会関係者でも貴族でもない、単なる冒険者が「勇者の情報を教えてくれ!」などと乗り込んだとしたら、「なぜそのことを知っている!? さては邪神の一派だな!?」と痛くもない腹を探られるどころか真実に突き当たってもおかしくはないのだ。


 こうなると、賢しらに情報収集の大事さを語ったヘイスの自爆である。『転ばぬ先の杖』が『藪を突いて』しまい、『システム』にアスラ神の存在を嗅ぎ付けられてしまいかねないのだ。そうなるくらいなら、邪神呼ばわりされているアスラ神の言っていたとおり、無視して時間が過ぎるのを待ったほうが賢明かもしれない。神力が溜まりさえすれば自力で『システム』に対抗できるのだからして。


 だが、この場で大司教サマとやらが自らの口で『勇者』の存在を明らかにしたことは利用できるとヘイスは考えた。

 誰かが言っていたが、ピンチはチャンスである。別にヘイスは現状ピンチに陥っているわけではないが、何故かそんなフレーズを思い出していた。

 要はヘイスがドラゴンの関係者として自然に教会のトップに接触できればいいのだ。


「ナジャス。タッチ交代だ。もしかしたら献上とやらになるかもしれんが、かまわないよな?」


「え? まあ、トラブルにさえならなければ構わないんじゃないでしょうか……」


「それは俺も御免だからな。任せておけ」


 そんな会話をしてヘイスがナジャスに代わって前に出てきた。


「何だ? お前たち、何の話をしておる?」


「いや、気になる発言があったもんでな。おーい、そこの大司教サマ、ちょっといいか?」


 訝しげなギルドマスターの問いかけに適当に返事をして、ヘイスは大司教に向かって声をかけるのであった。

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