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第112話 こやつはワシが育てたのじゃ!



 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはナジャスの仕事を終わらせるために買取コーナーに向かったが、逆にそこでセザルに捉まってしまう。何でも国、教会、商人ギルドが話し合いをしているので出頭しろとのことだった。結果がどうなろうと構わないと思っているヘイスと、下っ端に過大な要求はしてこないだろうと高をくくっているナジャスは出席を了承するのだった。



「ここだ。ちょっと待ってろ」


 ヘイスの知っているボルサスやユーブネのギルドよりも建物が遥かに大きなミッテン王国冒険者ギルド本部。

 その内部をしばらく歩かされ、到着したのは、おそらく件の会議室。

 ドアの前に各勢力の護衛が陣取っていて、先導して来たセザルが自分たちの職員に指示すると、その職員が一旦中に入りすぐに出て来て入室の許可をくれた。


「セザルです。例の二人、連れて来ました」


 ヘイスとナジャスはセザルに連れられて部屋に入った。

 中は広く、長机が口の字に置かれている。正面奥には、先ほど会った本部のギルドマスターが座っていた。両隣はおそらくギルド幹部だろう。

 右の机にはこれまた先ほど見た教会の大司教が座っている。両隣も服装からして神官である。

 左の机は、見た顔はないが、セザルの情報と、明らかに『貴族でござい』といった服装から王国の使者たちだろうと思われる。ギルマスも貴族らしいが、仕事着なのか地味であるのに対し、使者たちは仮装パーティーであるかのように派手だった。これも仕事着と言えるのだろうか?

 最後に入り口側の机だが、振り向いてこちらを見ている顔に見覚えはない。こちらもセザルの情報から残りの商人ギルドの一行だと思われる。


 これでこの部屋にこの国の四大組織の関係者が集まったことになる。

 他にドラゴンを狙っている者たち、アルマン王国、個々の貴族、裏社会の人間などがいるが、この場に呼ばれるわけはない。といってもどこかしら繋がりは持っているだろう。特に商人ギルドはすべての勢力にコネクションがあっても不思議ではない。


「来たか。こちらに来るのだ」


 ギルド本部マスターに呼ばれセザルは奥に進んでいく。ヘイスとナジャスは従うしかない。


「座るがいい」


 長机には空席があり、3人は着席を勧められた。

 セザルは部門長という幹部なので何もおかしくないが、ヘイスとナジャスは違和感を覚えた。


「このような会議に出席するような身分ではございませんので、辞退させていただきます」


 ヘイスと旅をしたことで度胸が付いたのか、代表してナジャスがハッキリとギルドマスターの要請を断った。ヘイスはなるべく口を開かないことにしたようである。


「構わぬ。ドラゴンの件ではボルサスも重要な関係者だ。皆様もよろしいですな?」


「魔大陸の者か。国に献上するとあらば是非もない」


「何をおっしゃるのやら。すべては神の恩寵。教会に捧げるべきです」


「まあまあ。お二方とも。お話がまとまらないなら、わたくしどもが間に入って調整いたしましょう。そういうことで、ドラゴンのオークションは是非とも商人ギルドにお任せいただきたい」


 ナジャスが着席を断ったというのに、各々が勝手な主張をしてくる。

 会議の体裁をとってはいるが、これは押しかけてきた招かざる客を一ヶ所に集めただけである。根回しのない会議は会議ではない。『クリープを入れないコーヒーはコーヒーではない』というキャッチコピーをヘイスは聞いたことがあるが、ブラックでもコーヒーはコーヒーだと思っている。これはどちらかと言うと『混ぜるな危険』のタイプだなと密かに溜息をついた。


「皆様お静かに。まずはボルサスの意見を聞くのが先決でございましょう」


 本部のギルドマスターは、部外者の3勢力が騒ぐのを何とか鎮め、ナジャスに意見を求めた。

 ヘイス的には、これも全く根回しがなかったので赤点である。

 ナジャスはヘイスに目配せしてから指示通り意見を述べた。


「その件ですが、先ほどボルサスから通信で指示がありまして、ボルサスは今回のドラゴンについて一切の交渉権を放棄するとのことです。予定通りギルド本部にお任せいたします」


「何!?」


 一体何を期待していたのか、ギルドマスターは目を見開いて驚いていた。


「それは話が早い。王国貴族であるギルドマスター殿なら王国に寄贈して然るべきですな」


「ま、待て」


「ギルドマスター殿は敬虔な天声教徒。功徳を積む機会ですぞ?」


「待ってくれ」


「こちらはいつでもお手伝いいたしますよ?」


 ナジャスの宣言で、3勢力のターゲットはギルドマスターに移った。いや、戻った。

 そこにナジャスが追い討ちをかける。


「ギルドマスター。それでは私はこれで失礼します。買い取り金額についてはいつでもいいですのでご連絡ください。では……」


「待たんか!」


 老齢とはいえ流石は冒険者ギルドのトップ。声には迫力があり、3勢力の代表たちも大人しくなってしまった。

 ギルドマスターが呼び止めた対象は自分だと承知のナジャスは仕方なく応対する。


「なんでしょうか? 部外者がこれ以上お邪魔するのは畏れ多いのですが?」


「面倒を持ち込むだけ持ち込んで、そう簡単に逃げられると思っておるのか?」


「お言葉ですが、元よりそのような予定だったのではありませんか? そもそもボルサスでは処理しきれない案件ですから、本部にお願いして引き取ってもらったのです。今更面倒だと言われましても、ボルサスに出来ることは新たに引き取り手を捜すぐらいしかできませんが……ちょうど購入したいという方々がいますね? 私が決めてもよろしいのですか?」


「ぬ、それは……」


 孤児院出身で冒険者上がりのギルド職員。そんな冴えない中年が、ギルド本部のトップ、しかも貴族に堂々と意見をぶつけている。

 そんな姿を見てヘイスはウンウンと頷いている。まるで『こやつはワシが育てたのじゃ!』とでも言いたげに。


 そして、他の3勢力の人々も、下っ端職員が何を偉そうに、などと怒り出すこともなく、逆に期待した顔でナジャスを見ていた。


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[一言] 後方師匠面か、流石だな
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