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第111話 俺は悪くねえ!

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはもう一日ナジャスに付き合うことにした。思ったよりもドラゴンの影響が大きい。冒険者ギルドも清廉潔白な組織ではなさそうであるし、アスラ神の敵である教会までドラゴン争奪戦に加わるようでもある。君子ではなく邪神の使徒ではあるが、危うきに近寄らずといきたいところである。



「お前ら! どこに行ってた!」


 ナジャスの今後の行動を決めたいが、挨拶もなしに他所のギルドから立ち去るのは論外であるので、誰かに相談したい。だが、おそらくはドラゴンをめぐって激しい戦いが起こっているだろう解体倉庫には近づきたくはない。

 結局買い取りカウンターに戻ってきた。

 職員にこっそりと部門長であるセザルを呼び出してもらおうとの腹づもりだった。


 だが、訪れてみると本人がすでにいて、理不尽にも怒鳴られてしまった。


「お前だって人のことは言えないだろう? こうしてあそこから逃げ出してきてるんだからよ」


「逃げ出したわけじゃねえよ! お前たちを探すように言われたんだ!」


「何でだよ? これ以上の依頼は受けないって言ってるだろ? あ、買取の金額か? そりゃ結構」


「買取どころじゃねえよ。大司教のあとすぐ王国の使者と商人ギルドの幹部まで押しかけてきて、てんやわんやだ。どうにか会議室に移したところだ」


「よかったな。売り先が選り取り見取りで」


「よかねえよ! どこを選んでも他に恨まれるわ!」


「さっさと解体してバラ売りすりゃいいだろうが。そうすりゃ持ち運びも簡単だしな」


「そうしてしまいたいのは山々だが、どこの勢力も丸ごとほしがってる。特に国と教会はメンツがあるからな。献上しろって煩い」


「俺なら商人ギルドに丸投げするところだな。ま、大変だろうが、がんばってくれ」


「何他人事みたいに言っている。お前たちはその話し合いに呼ばれてるんだぞ? だからこうして探してたんだ。ほれ、こっちに来い」


「は? 冗談だろう? 俺に何の関わりがある? ナジャスだって、ギルド内の買取金額が決まればいいだけで、取引相手までは関わる必要はないだろ? なあ?」


「ええ。幹部同士というのなら、ないこともないですが、さすがに私程度の職員が関わっていい話ではないですね。そういうことで、セザルさん。今回のドラゴンの買取金額ですが、ボルサスは交渉権を放棄します。すべて本部の方で決めてください。例えタダと言われても後から文句をつけることはありません」


「おお? 明日まで待つつもりだったが、もう決めたのか?」


「ええ。関わってる人が人ですからね。荷が重いです」


「おいおい。随分思い切ったな。そんなこと勝手に決めていいのか?」


「ええ。先ほどウチのギルマスに確認を取りました。金額より安全を選べ、だそうです」


「先ほどって、まさか……」


「ちょいとボルサスに通信をな」


「中にいたのかよ!? 道理で外を探させても見つからないわけだ。だが、どうやって部外者が通信できた?」


「無断じゃないぞ? ちゃんと警備の部門長とやらが許可してくれたぞ?」


「アイツか……他のメンツの濃さですっかり存在を忘れてたぜ……今どこにいる?」


「さあな。通信室に置いてきたから、仲間に連絡でもしてるんじゃないか? 知らんけど」


「……俺が捕まえる意味はねえな。何を謀んでたか知らんが、無駄になったみてえだし、黒幕もわかりきってるからな」


「黒幕、バレバレなのか?」


「まあな。アイツ貴族の出なんだよ。派閥には逆らえないってことだな」


「ほう? ま、俺には関係ないな。じゃあセザル。世話になったな。またいつか会おう」


「待て待て! 何しれっと去ろうとしてやがる! お偉いさんたちから呼ばれてるんだ! 逃がさんぞ!」


「ちっ……一応聞くが、逃げたら俺たちはどうなる?」


「メンツがメンツだ。ブラックリスト入りは確実だな。最悪難癖つけられて指名手配もありえるぞ」


「俺はそれでも構わんが、ナジャスはどうなる?」


「うーん……ボルサスに抗議が行くんじゃないか?」


「……ナジャス、逃げても問題なさそうだぞ?」


「私は、ヘイスさんがそれでいいなら……」


「おいおい、冗談だろ? ブラックリストに指名手配をそんなに軽く考えるんじゃねえよ」


「そんなこといってもなあ……」


「そうですね。ヘイスさんですし……」


「お前ら、悪いことは言わねえ。顔だけ出して黙って連中の話聞いてやれ。どうせ今日で結論が出るわけがねえ。夜には解散だ。逃げるならその後にしておけ」


「だが、俺が話し合いに出たら、連中をぶっ飛ばしてしまうかもしれん」


「おいおい。そこは我慢しようや。どこの野蛮人だよ」


「どっちかっていうと、連中の方が野蛮だろ? 身分っていう力で嵩にかかってくるなら、こっちも力で対抗するしかねえじゃねえか」


「その発想が野蛮だってんだ。受け流しておけ」


「ナジャス、どうする?」


「正式な呼び出しではありませんが、知らなかったでは済みそうもありませんね。しかたありません。出頭しましょう。私はそもそも下っ端の職員ですから何を言われても『上司に相談します』で回避できると思いますが、ヘイスさんこそどうするんです? ユーブネのように脅しますか?」


「人聞きの悪いこと言うなよ。俺は誠意を持って説得しただけだ。向こうもわかってくれたろ?」


「皆さん顔面蒼白でしたが……」


「俺は悪くねえ! ……冗談はともかく、今更俺に何の用があるんだ? 国やら商人ギルドが出てきたんなら、アイテムボックスの件も問題じゃねえだろ? まさか人数分ドラゴン獲って来いって話じゃないだろうし」


「はは、まさか。やっぱり話を聞いてみるしかないですね」


「それしかないか……ま、明日まで付き合うって言ったからな。茶番でも何でも来いだ」


「……お前ら。物騒な話は終わりにしてくれ。さあ、行くぞ」


 こうしてヘイスとナジャスは不毛な会議に出席することになった。


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