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第110話 通信担当者は自分に被害が及ばないように祈っていた

 


 鈴木公平改めヘイス・コーズキーは冒険者ギルドミッテン王国首都本部の通信室に突撃した。念のため途中で拾った本部の警備部門部門長を矢面に立たせたため申請はスムーズに通った。あとはボルサスに報告するだけだ。



『……そうか、本部の対応もそんなものか……』


 すでにユーブネで一報を入れていて、その後は襲撃には遭わなかったものの、首都に到着してからのことを報告して、今後の対応を仰いだナジャスだったが、通信機の向こうのボルサスのギルマスの反応は薄かった。


「それで、私はこれからどのように行動すればいいのでしょうか? やはりオークションが終わるまで待機するべきですか?」


『全部任せるって言っただろ? ナジャスの好きにしていいぞ?』


「え? それはギルマスのいつもの冗談だったんじゃ?」


『俺はいつでも本気だ。ったく、真面目なのも困りモンだな。ヘイスも言ってたんだろ? 危ないと思ったらすぐに帰ってきていいぞ? 叩き売っても黒字だ。最悪献上ってことになるかもだが、褒章金やら下賜品やらはあるだろうよ』


「……ヘイスさんと同じこと言ってますね」


『お前もわかってるモンだと思ってたぜ。まあ、オークションで高値で売れることに越したことはないが、それよりも職員の身の安全だ。無理はしなくていい』


「……わかりました。ヘイスさんも、今日明日なら待っててくれると言ってましたから、なるべく早く決めたいと思います」


『おう。それでな、帰ってくるなら、ヘイスのヤツも連れ帰ってきてくれよ?』


 ギルマスの要望が出て、ナジャスはヘイスのほうを見た。

 ナジャスの後ろで聞いていたヘイスは首を横に振る。


「あー、ダメみたいですね。旅をしたいって何度も言ってましたから……」


『そうか。まあ、ダメ元で聞いただけだ。気にするな。ああ、だがよ、旅が終わったらまたボルサスに来てくれって、それだけは念を押しといてくれよ? おい、ヘイス。聞いてるんだろ? そのうちこっちも落ち着く。そしたらまた開拓でものんびりやってくれや』


 ギルマスはナジャスに頼むと言いながらも、通信の声を大きくしてヘイスに呼びかけるのだった。

 通信室にいた人間はその大声に眉を顰め、当のヘイスは苦笑していた。


「ギルマス、大声出さないでくださいよ。ヘイスさんにも普通に聞こえてますから。ギルマスからの要請は私からもお願いしてみます。他に何かありますか?」


『いや。人手不足だってぐらいだ。帰ってくる時、活きのいい冒険者を土産に頼むわ』


「善処します。それでは、連絡は以上です」


 魔道具の中でも燃費の悪い通信装置を私用で使うことはできない。あくまでも冒険者ギルド間の業務連絡なのだが、何故かボルサスのギルマスが口を開くと酒場でのバカ話に聞こえる。

 根が真面目なナジャスは高価な魔道具を私的に使っている気分になってしまい、慌てて話を切り上げて、通信担当者に席を代わってもらった。

 あとは担当者が通常通り〆てくれるだろう。


「よし。これで本当にここでやることは終わったな」


 この後は、おそらくヘイスが連れてきたジョイス部門長が黒幕と秘密の通信でも行うのだろうが、もうヘイスには関わりがないので興味はなかった。


「いえ、すみませんが、ドラゴンの代金回収について話をしないといけないので、もう少し待っていてくれませんか?」


「ああ。明日まで待つって言ったのは俺だからな。構わんぞ。おう、ジョイスだったな、案内ご苦労。俺たちはこれで帰る。お前も色々忙しいだろうからな、見送りは要らんぞ。じゃあな」


 巨大組織の幹部に向かって、この口の利き方はない。その場にいたヘイス以外の人間はそう思ったが、どこぞの側近のように憤慨のパフォーマンスを見せる者はいなかった。

 通信担当者は自分に被害が及ばないように祈っていたし、ナジャスはジョイスが襲撃に関わっているのはほぼ間違いないと知っているので、いつもなら形だけでも窘めるヘイスの態度も放置した。


 そのジョイスと言えば、ボルサスに報告されたことがダメ押しとなり、青褪めた顔が一層酷いことになっていて、ヘイスの言葉が聞こえていたかどうかも怪しい。心の中で打開策を考えているが、ヘイスが言うように、今更ヘイスたちを襲ってもドラゴンが手に入るわけがない。襲うならギルドの倉庫なのだ。関係者を皆殺しにでもすれば誤魔化せるかもしれないが、ボルサスに名指しで報告されてしまった後では、黒幕はともかくジョイスは指名手配を免れないだろう。

 そもそも、皆殺しと簡単に言うが、そんなことが出来る腕前なら、自分でドラゴンを倒せるのではないか、とどこぞの邪神の使徒は言うだろう。

 八方塞がりであった。


 ジョイス部門長が気が付くと、ヘイスとナジャスは既に通信室から出て行った後だった。

 残っているのはジョイスと通信担当者。通信担当者は仕事なので出て行きたくても出て行けない。哀れである。


「……すまんが、幹部同士の連絡がある。席を外してくれ」


「ハイ! わかりました!」


 ここ最近ジョイスは通信室で秘密の通信をすることが多くなっていた。

 そのことは担当者も当然知っていて、昨日までは、『またですか~? 記録に残さないとマズイんですがね~?』などと面と向かってボヤいていた。

 だが、先ほどのナジャスの通信を横で聞いていたため、このギルド本部でとんでもないことが起こっていると感じ取り、巻き込まれては敵わないと、今回は喜んで通信室を明け渡した。

 この後上司にすべてを報告するつもりである。口封じされる前にと、急ぎ出て行った。


 ジョイスは、通信担当者の口封じは一瞬考えたものの、時間稼ぎどころか藪を突く行為でしかないと思い、そのまま出て行く姿を見送った。

 溜息を付きながら通信装置を操作する。


「こちらギルド本部、警備部門のジョイスだ……」


 通信相手は誰なのか? ジョイスに起死回生の手はあるのか?

 それは我らが邪神の使徒には関わりのないことだ。




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