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第108話 このドラゴン、何か邪悪な気でも出してるのか?



 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはギルドマスターを論破した!? ドラゴンの死体を目の前にした恫喝であることは誰も指摘しなかったのだから結果オーライである。そこへ又々、又の乱入者登場である。二度目は悲劇、三度目は喜劇というが、現実はどうであろうか?



「水臭いですぞ。ドラゴンが今日届けられるとは聞いておりませんぞ?」


 3回目の乱入者は、貴族っぽくはないが派手な衣装の中年で、ヘイスがボルサスの孤児院で見かけた神官に似た服だったので、おそらく教会関係の偉い人だと思われる。

 その人物が親しそうにギルドマスターに声をかけていた。


「う、うむ。ワシも今日知ったばかりなのじゃよ。それより大司教殿、わざわざ足を運んでもらったのは痛み入るが、今日はご訪問の予定は聞かされておらぬのだが?」


 どうやら大司教らしい。この世界は『システム』のせいで宗教といえば『天声教』しかない。つまり、邪神の使徒であるヘイスの敵だ。


「それこそ水臭いですぞ? 私と子爵閣下との仲ではございませぬか!」


「困りましたな。これから幹部会議がございますのじゃ。大司教殿のお話は後日改めてということで」


「それは重畳。その会議、是非私も参加させていただきたい。教会への引渡しが早まれば神も喜ぶことでしょう」


「いやいや。その件は国と協議することになっているはずじゃ。商人ギルドも煩いゆえ、オークションで国が競り落としてからにしてくだされ」


「いえいえ。神は誰から献上されてもよろしいのですよ」


「いやいや……」


「いえいえ……」


 大物二人の遣り取りはヒートアップしている。


 ヘイスは、ギルドマスターが大司教に捉まっている隙に、ナジャスを促して倉庫の隅に避難した。


「……このドラゴン、何か邪悪な気でも出してるのか? 次から次に厄介ごとが舞い込んでくるんだが……」


「神官様を邪悪だなんて、冗談でも言わないでくださいよ。しかも、大司教様ですよ……」


 ナジャスは、ギルドの経営だが、一応は教会の孤児院で育てられたため、教会にはかなり好意的である。信仰心があるかは知らないが。


「神官を邪悪とは言ってない。厄介だと言っただけだ。それより、決めたか? 俺の予感どおり、面倒になりそうだろ?」


「そう言われても、私の一存では……せめて通信でボルサスのギルドに指示を仰ぎたいのですが……」


「そうしろ、そうしろ。だがな、俺の予想じゃ、お前がどんな選択しても、ボルサスは文句を言わねえと思うぞ?」


「……信頼されている、というだけじゃなさそうですね? どういうことでしょう?」


「信頼はあるだろうさ。だが、そもそも、あのギルマスや事務長がこのドラゴンで儲けてやろうって欲張るタイプだと思うか? こっちのギルドに丸投げしたって時点で、違うだろ? 高く売れれば儲けもの。安く買い叩かれても面倒が省けた分の手間賃だと思えばいいさ。タダで持っていかれたら、それでも今後の交渉には使えるだろうよ。どう転んでもボルサスには利益しかない。だから気楽にやればいいのさ。そう言われたんじゃないのか?」


「……言われましたね……二人分の旅費以上になれば黒字だとも……あれは冗談じゃなかったんだ……」


「まあ、そんなにがっかりするなよ。別に信頼がないってわけじゃない。お前の本当の仕事は、俺が途中で消えたりしないようにすることだと思うぞ? だから顔見知りで孤児院関係者のお前が選ばれたんだろうし」


「……それは責任重大ですね」


 ナジャスが想像したのは、ヘイスが途中で依頼を放棄してドラゴンとともに行方不明になること。もしそうなった場合、諸々の損害賠償がボルサスに回ってくる。それだけではない。行方不明の情報を信じないドラゴン目当ての人間が引っ切り無しにやってきて、ボルサスのギルドは仕事にならないだろう。

 だが、そんな不幸な未来は、こうしてギルド本部にドラゴンを正式に納入したことによって回避されたのだ。

 それが理解できたナジャスは、改めてホッとする。


「わかりました。しっかりと納品したことを通信で報告しておきます。そのついでに私の今後の仕事についても確認しておきましょう。申し訳ありませんが、それまで付き合ってもらえますか?」


「おう。大して時間はかからんだろうよ。今すぐ行こうぜ」


「え? この状況でですか?」


 ナジャスは、喧々囂々の遣り取りをしているギルドマスターと大司教の方へ目をやった。二人の部下たちは口を挟めずオロオロしている。ギルドの職員たちも似たようなものである。


「この状況だからだろう? 何故俺たちがこんなくだらん騒ぎに付き合わなきゃならん。時間の無駄だ。抜け出すぞ」


 そう言ってヘイスは倉庫の出口に向かった。

 ナジャスも、勤め人としての常識が躊躇わせるが、ヘイスの意見は尤もなので仕方なく従った。


 ここは解体倉庫であり、かなりの大きさだ。出入り口は複数あり、ギルドマスターたちはメインの入り口を入ったところに陣取っているため、ヘイスたちは他の出口を使わなければならない。


「ちょうどいい。アイツに案内させよう。幹部だから通信の魔道具もすぐに貸してくれるかもな」


 偶然か必然か。ヘイスと同じ発想をしていた人物がいた。

 彼もまたギルドマスターたちが終わらぬ論争を始めたのを見てここから抜け出そうとしているようだ。

 ヘイスとナジャスはその人物の後を追った。


「クソッ! 何とかあの方に連絡を取らねば……ヒッ!」


 倉庫を人知れず抜け出した男は、安堵したのか、それとも焦燥感からか、呟きを漏らす。

 その男の肩をヘイスは後ろからポンと叩いた。

 気配は消してある。男はいろんな意味で驚いたことだろう。


「安心しろ。詳しくは聞かん。だが、ちょうどいい。俺たちも通信室とやらに連れていってくれ。嫌とは言わんよな?」


 男は恐る恐る後ろを振り向き、誰に見つかってしまったのかを確かめ、絶望の表情になった。

 その人物とは、先ほどヘイスに遣り込められ、進退が窮まった警備部門の部門長であった。


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