第104話 やまさん!?
あけましておめでとうございます。
拙い作品ですが、本年もお付き合いください。
鈴木公平改めヘイス・コーズキーはミッテン王国冒険者ギルド本部の警備部門部門長に口汚く罵られていた。ケンカを売られたと判断したヘイスは当然そのケンカを買うことにする。
「しょ、証拠はあるのか!」
しばし機能停止していた警備部門長がやっと声を出した。
「ん? 何がだ?」
「しょ、証拠もなく警備部門のトップに逆らうのか! 冒険者如きが!」
「冒険者ごときって、ここは冒険者ギルドじゃなかったのか? それに、証拠も何も、俺はただ『情報を売っていないか?』って聞いただけだぞ? ギルドには報告したが、道中2度も待ち伏せに遭った身としちゃ、当然の質問だと思うがな?」
「そ、そんなこと、キサマが考えることではない! 警備部門に従えばいいのだ! そ、そうだ、話を逸らしおって! 何故指示に従わなかった! これは契約違反だ!」
「話を逸らしてるのはソッチだろうが……で? 結局、情報は売ったか売ってないのか、どっちなんだ?」
「うるさい! 証拠もないくせに、また話を逸らすんじゃない! 今はキサマの違反の話をしておるんだ!」
「そうかい、そうかい。証拠だ、契約違反だと偉そうに言ってるが、お前、結局否定はしないんだな?」
「あ゛あ!」
「あ、じゃねえよ。だから、お前は『情報を売ったか』って質問に肯定もしてなきゃ否定もしてないんだよ」
「な、なんだと! そ、そんなくだらん質問、まともに答える必要はない! だ、だが、どうしてもと言うなら答えてやる! 答えは『否』だ! ど、どうだ! 恐れ入ったか! ギルドの幹部を疑った罪も含めてやるからな! 覚悟しろ!」
「遅せえよ。今更言ってもバレバレじゃねえか」
ヘイスは大袈裟に周りを見渡した。
警備部門長も釣られて周りに目を向ける。
かなりの人数が無言でヘイスと警備部門長の遣り取りを見ていた。その中でセザルを始めとした買取部門の職員たちはジト目を向けているし、着いてきた警備部の職員は目を逸らしていた。
「あ、あ……」
「まあ、俺はただ質問しただけだ。何もお前を吊るし上げるつもりはない。それに、こうしてドラゴンはギルドに納めたからな。ちゃんと依頼完了のサインももらったし」
周囲の非難の気が篭った視線に晒されてようやく自分のミスに気が付いた警備部門長に、ダメ押しとばかりに依頼書をピラピラ見せ付けるヘイス。
「ドラゴンの現物が手に入ったんだ。煮るなり焼くなり、持ち逃げするなり横流しするなり、勝手にやってくれ。よかったな、警備部門の好きにできるぞ? 手間が省けたんじゃないか?」
ヘイスの嫌味にも反応しなくなった警備部門長に用はないとばかりに、ヘイスはセザルの方に向き直る。
「セザル。さっきの提案はお断りだ。理由はもう言わなくてもわかるな?」
「あ、ああ……すまない。ギルドがこんなことになってるとは思ってもみなかった……だが、ここまで大事にして、どう収拾をつけろっていうんだよ……」
「知ったこっちゃないな。そもそも、たかがドラゴンで大騒ぎしたのはお前らだろうが。普通の魔物と、ウルフやゴブリンと同じように扱えばいいだろうが」
始めは、ボルサスのミゲールに似た雰囲気があって、買取部門の責任者は職人的な叩き上げがテンプレなのかと思ったりもしたが、どうやらセザルも自分の職分さえ果たせばいいと思っている歯車だったらしい。
「ドラゴンはたかがじゃないんだが……」
「どうでもいい。それよりナジャス。俺の仕事はこれで終わりだが、お前はこれからどうするんだ?」
「え? えーと……」
ギルド本部の幹部たちに何の興味もなくなったヘイスは呆然としているナジャスに話しかけた。
「俺はすぐにこの街を出て行くが、お前はどうするって話だ。やっぱりオークションまでこいつらに付き合うのか? 面倒なだけだぞ?」
「面倒と言われても……仕事で来ているわけでして……」
「面倒というより、危ないんじゃないか? 警備部とやらがこんなんだし」
ヘイスは一人残されることへの危険性について語る。
ヘイスがアイテムボックス持ちでドラゴンを運んでいることは情報として流れている。ならばドラゴンを欲する人間はヘイスそのものを攫おうとするだろう。そのヘイスの姿が見えなくなれば、同行したナジャスにスポットが当たってしまう。居場所を聞き出すためか、誘き出す人質にするか。あるいは、スマホなどが普及しているわけでもない世界であるからして、始めに与えられた任務を下っ端が愚直に遂行しようとして、ヘイスの同行者であるナジャスも誘拐対象のままかもしれない。ドラゴンは既にギルドに納品したという言い訳が通じる相手だとは限らないのだ。
「あまり脅かさないでくださいよ……」
「脅しじゃねえよ。可能性の問題だ。ここに来るまでのついでの護衛は引き受けたが、これからは守ってやれん。まあ、俺と離れれば危険もなくなるとも考えられるし、五分五分だな」
「……ギルドは安全だと思います。確かにボルサスを狙う勢力があったりドラゴンに目が眩んだ人間もいたりするでしょうが、それはギルド自体とは直接は関わりないはずです。ボルサスがギルド主体の都市であることはギルド全体にとっても益のあることですから。それに私はギルド職員です。任された仕事を放り出すことはできません。なに、これでも元中級冒険者です。集団にでも襲われない限り、自衛ぐらいできますって」
「……その仕事だがな、もし取引の権限が与えられてるなら、俺の取り分とか考えなくてもいいから、二束三文で叩き売ってしまわないか? こんな厄モノ、さっさと手放すに限るぞ?」
「それはちょっと……」
「もし今日明日中に取引がまとまるっていうのなら、ケムールだったか? 港町までは送ってやるぞ? 今度は道も覚えたから3日ぐらいで着くんじゃないか?」
「み、三日……」
「話は聞かせてもらった」
ヘイスの提案に、というより規格外さにナジャスが呆れていると、倉庫内にまたしても乱入者があった。
「やまさん!?」
【作者からのお願い】
「面白かった」「続きが読みたい」と思われた方は下記にある【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。