第103話 これが縦社会の弊害か……
鈴木公平改めヘイス・コーズキーは依頼達成したものの、新たな依頼ということで引き止められた。そこに更なる乱入者があった。
倉庫に入ってきた途端、買い取り部門の部門長であるセザルを怒鳴りつける乱入者。ドラゴンという貴重品が搬入されて警備態勢が厳になっていて然るべき場所に、これは一体どういうことかとヘイスとナジャスはセザルに目を向けた。
「やっと来たか。こいつは警備方の部門長でな。俺のところへ連絡が来てから念のため呼んでおいたんだ。これで倉庫の警備はなんとかなる。あとは倉庫からの出し入れなんだが……」
「こっち見んな、って言ってるだろうが」
「おいセザル! 何故ここにドラゴンがある!? 何故道中の護衛をキャンセルした!」
ヘイスとナジャスがセザルから事情を聞こうとしていると、その乱入者こと警備部の部門長とやらはセザルに食ってかかった。
「実際に届いてしまったんだから仕方がない。こっちは道中の警備がキャンセルされたっていう情報すら聞いてなかったんだぞ? 今更何言っている。それより倉庫の警備は任せたぞ」
「バカな! 俺が苦労して支部に護衛を集めさせたのが水の泡ではないか! どう責任を取るつもりだ!」
「どうもこうも知るか。ドラゴンは既に受け取った。売りに出すまでは警備関係はお前の責任だ。お前こそ警備のキャンセルを知ってて俺に情報を寄越さなかっただろう。おかげで受け入れ態勢が取れなかったんだぞ? どう責任を取るつもりなんだ?」
「これが縦社会の弊害か……」
買い取り部門と警備部門の責任者同士が責任の擦り付け合いを始めたのを見て、ヘイスはポツリと呟いた。
組織を効率よく運営しようとすると、自然に役割が決まってきて、それは上意下達の関係であることが普通だ。派閥もその一種といえるが、横よりも縦の繋がりが重視される。特に産業革命に影響を与えた『分業』の概念が浸透すると、その傾向が強くなる。組織の歯車になってマニュアルに従っていれば面倒なことを考えなくて済むからだ。
何も縦社会のあり方そのものが悪だというわけではない。社会の安定期あるいは停滞期においては確かに効率が上がるだろう。
しかし、構造物に例えてみれば当たり前だが、大きなショックに弱い。
何か複数の縦軸に跨る問題が発生すると、その解決に無駄に時間がかかったり、問題が悪化したりするのはよくあることだ。
こんな場合は『ワンマン経営』や『ワンオペ』のほうがスムーズに解決することがある。
これは政治にもいえることで、『独裁制』と『合議制』のどちらが優れているかという議論に答えが出ないのと同じことである。
一長一短。おそらく人類全体が何段階も進化のステージを登らないと答えは出ないだろう。
ヘイスは、元々ブラックな会社の一サラリーマンであったゆえ社会に対して思うところもあるが、具体的な良案など思いつくわけもなく、『世界が違っても人間のやることは同じなのか』と諦観していた。
そのヘイスの嘆息を聞きつけたのか、セザルとの口論でヘイスの存在を知ったのか、警備部門長とやらの矛先がヘイスに向かった。
「キサマが護衛をキャンセルさせたという冒険者か! 一体どういうつもりだ! ギルドに与えた損害は大きいぞ! 賠償金が払えなければ奴隷にしてやる! 何とか言ってみろ!」
声の限りに叫ぶ警備部門長。急に口論の対象を外されたセザルは、助かったような呆れたような表情で見ていた。
もしこれがサラリーマン時代に起きた出来事だとすると、ヘイスは忍耐の一文字だっただろう。どんなに罵られても賠償金を払う事態にはならないし、ましてや奴隷にされることもない。だが、逆に反論したりすると相手が更に激高することもわかっていた。『何とか言ってみろ!』と怒鳴られて素直に意見を言ったりすると『口答えするな!』と逆ギレするのがスタンダードなのだ。他の例として、ヘイス自身の経験ではないが、ある下っ端社員がミスをして会社に損害を与えたとすると責任を取らされて解雇される。退職金なしで済めばいい方で、払えないと知っていて損害賠償を請求される場合もあるという。その時『ミスをした人間が責任を取らされるのが当然なら、仕事を成功させて得られた利益は担当社員のモノだ』と反論すれば鼻で笑われるだけである。正論というのはどこの社会でも使いどころに困るシロモノなのだ。よって、八つ当たりされるのも給料の一部、いや大部分と自己暗示をかけていたことだろう。
しかし、ここは現代日本ではない。法律や人権がどこまで冒険者を守ってくれるかわかったものではない。冒険者を守るべきギルドの幹部から怒りを買ったとなれば一体どこの誰が助けてくれるというのか。
それに、この世界ではヘイスに気遣いしなければならない柵はほとんどない。
この警備部門長が喚き散らす程度など、既にユーブネのギルドで体験済みである。
「知るか! 無能が勝手に押し付けてきた護衛なんぞ、迷惑なだけだろうがよ!」
まさか口答えされると思ってなどいなかった警備部門長はギョッとした表情になった。
実は軽く『殺気』をぶつけていたので、それも理由だろう。
口をパクパクさせるだけで声の出なくなった隙にヘイスは畳み掛けた。
「それよりお前、輸送のコースや日程を盗賊に売っただろう。いや、盗賊っていうか、アルマンやドラゴン目当ての貴族とか商人にだな。いくらもらった? 売った情報どおり俺が進まないと非常に困ったことになるだろうな。あ、もう困ってるのか。賠償金を払えって言われて奴隷に落ちないといいな。俺も神サマに祈っててやるよ」
神は神でも『邪神』にな、とは流石に言わなかったが、成り行きを見ていた人々はヘイスのあまりにもハッキリ断定したためか呆然としていた。
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