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第1話 落ちた男

2022年02月22日22時22分


祝・ぬこの日


しれっと新作投稿&ペンネーム変更









『ᛘ⊕ቧዊ⊖?』


(……誰だ、誰かいるのか?)


瀕死の男に何か声が聞こえた気がした。

だが男は身動きすることも声を出すことも、呼吸さえままならなかった。

そして自分がそんな状態であることすら気づいていないようだ。


『ڛڙڗۋदग़⊘ध!! पप⊘ghቧዙዩᏘᏗᒊ!!』


(本当に誰かいるみたいだな……って、声が出ねえ? あれ? 目も……何だよこれ! 手も体も動かねえじゃねえかよ!)


今度は男の耳に、正確には精神に直接なのだが、誰かが何か言っているのが聞こえた。

そして自分の置かれている状況の片鱗に気付く。瀕死であることにはまだ気付いていないようだが。


『zधपपdfዩዧᏙᏘg?』


(誰だよ! 何言ってるかわかんねえよ! 身体が動かねえんだよ!)


『♩えrttᚺじlkwᛘ』


(わかんねえって! くそっ! 声が出ねえ……)


『あーあー。えrrと、kうかな? いyあ、kmいらしくしたほうがいいかもしれんな』


(日本語? 日本語だ! 誰かいたら助けてください! くそっ! 声が出ねえよ!)


『あー、落ち着くがいい。我の言葉がわかるな? そなたの声も届いておる。説明はしてやる。興奮せず心を鎮めて耳を傾けよ』


(耳を傾けるって、身体が動かないんですけど? あれ? 声が出せないのに何で会話が出来るんだ?)


『落ち着けと言うとるであろう。先に言っておくがそなたは今死に瀕しておる。興奮しすぎると助かるものも助からんぞ』


(しにひんし? し? 死ぬのか? ふざけんな! 意識もハッキリしててこうやって話できるだろうが!)


『身体も動かず声も出せぬ分際で何を愚かなことを。目も見えておらんじゃろ。耳が聞こえておるかどうかも怪しいもんじゃ』


(う……そ、それは……お、お前が何かしたのか! 声が出ないなら何で会話できるんだよ! 怪しすぎるじゃねえか!)


『疑いたくなる気持ちもわかるからそれを責めはせん。何かしたかと言われれば否定もできぬしのう。じゃが、そなたが死に瀕しておるのは事実じゃ。信じずそのまま死ぬのもそなたの勝手じゃ。我にとっても残念じゃがのう』


(だ、騙してないのなら助けてくれるのか?)


男は謎の声の言うことに半信半疑であったが、もし事実なら取り返しのつかないことになると考えた。


『条件次第じゃ』


(ひ、人の命に条件をつけるのか!?)


『あたりまえじゃろう。それともそなたはこれまで無条件で他人を助けてきたというのか? そんな記憶はなかったがのう』


(…………)


男は何も言えなく、いや、言葉を返すことが出来なかった。

他人が命の危険に晒されている状況に出くわした経験がなかった、というだけでなく、もしそんな状況になった場合、果たして自分が献身的に人助けできるか想像してしまったからである。


『まあよい。時間もないことであるし、いろいろ説明してやるゆえ、それを踏まえて結論を出すがよい』


(じょ、条件を飲めば助けてくれるのか?)


『そのつもりじゃ。じゃが、説明を聞いてからにしたほうがよいと我は考えるぞ。そなたの名前どおり《公平》であろう?』


(何故知っている? そういえば記憶とかなんとか……あ、いや、説明してくれ、いえ、お願いします)


『ふむ。やっと落ち着いたか。これでそなたの世界でいう3分は命を維持できるじゃろう』


(さ、3分……さんぷん!!? 時間がねえじゃねえか!!?)


『落ち着け。ますます時間が短くなるぞ。今は我の説明を聞いておけばよい。まずはそなたに安心してもらうために簡単に自己紹介しておこう。

我は神じゃ。瀕死のそなたを見つけ精神を調べたが、この世界の人間とは違うので驚いた。利用できると思い、記憶を精査した。この世界をもともと知っていたかのような記憶に二度ビックリじゃ。そなたの世界の娯楽はすごいのう』


(神でも悪魔でもどっちでもいい! 時間が!)


『落ち着けと言うとるじゃろ? そなたの知識にもあるじゃろうが、今そなたの精神は10倍に加速しておる。体感であと30分は生きていられるぞ。意識がハッキリしたままでな』


(……さすが神サマといえばいいのか、それとも、たった30分じゃ足りないというべきか……)


『残り1秒で蘇生には事足りるわ。じゃから安心して残り時間は説明を聞くのじゃ』


(わ、わかった……)


『それでよい。でじゃ、今そなたがいるのはこの世界で最大のダンジョンじゃ。そこの最下層、コアルームじゃな。理解できるじゃろ?」


(話は理解できるが……素直にハイそうですかとは言いたくない)


『納得できんでも理解できれば今はかまわぬ。

とにかく、そなたはコアルームに落ちてきた。いや、床に次元の穴が開いておったから飛び出した、が正確かの。

そして近くにあったダンジョンコアに後頭部をぶつけて頭蓋骨陥没、脳挫傷じゃ。

そなたが落ちてくる瞬間は我も見ていなかったが、おそらくはそんなところじゃ。そこの記憶もあいまいじゃったしの。

どうじゃ? 思い出せるか?』


神を自称する謎の存在に問いかけられ、男は自分自身について見つめなおす。


(うわー、全然考えてなかった。どんだけパニクってたんだよ俺。脳挫傷てマジか。ヤベーじゃん。

えーと、名前は鈴木公平。28歳。彼女なし。普通のブラックな会社で普通に理不尽な上司にコキ使われている……うん、住所も電話もメアドも覚えてるな。

で、今日は……ああ、それもいつもどおり上司の指示で外回りだったな。このご時勢向こうも迷惑に思ってるだろうに、何がメールや電話は誠意が足りないだ。ウチも在宅勤務にすればいいのに。まあ、自宅待機じゃなくってよかったけど。

おっと。そんなことじゃなくて、外回りしてるときに何が……確か、次のエリアに行こうとして、駅に向かって……

あっ! そういえば段差もないのに足を踏み外したような、浮遊感? そんな気が……)


『ふむ。記憶はハッキリしておるようじゃの。

その後は想像するしかないが、そなたの世界では上から下に向かって落下し、その勢いのまま次元を超えて、こちらの世界では下から上に向かって放り出されたのじゃろう。どんな体勢だったかはわからぬが、勢い余ってコアに頭をぶつけたというわけじゃな。尻からでも落ちれば五体満足であったかもしれんし、次元の穴に落ちたことといい、頭をぶつけることになるといい、運が悪いとしかいえぬのう。

我に感謝すべきじゃな。命が尽きる前に精神を保護したおかげで記憶だけは守られた。よかったの、失っておったら神でも元に戻せぬ。まあ、部分部分思い出せないこともあるじゃろうが、それは諦めることじゃな。命に比べたらどうということもあるまい?』


(ぐ……そ、そりゃ命のほうが大事だけど……それより、脳挫傷って、ホントに俺は助かるのか?)


『我と契約すれば助けよう。神の名に懸けてな』




過去作品は作者マイページから見てやってください。


次話は23日6時投稿予定です。

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