9話 血の雨
張り詰めた空気が漂う闇の中に、かがり火の灯りで無気味に浮かび上がる魔防壁・・・
ベルンは魔物の動向を見張り、王子は援軍の到着を静かに待っていた・・・が、援軍の来る気配が全くない・・もう、かなりの時間が過ぎているのに・・
王子の元にベルンからの伝令が駆け付ける!
「王子・・魔物が動き出したようです・・」
「本当か!」
ベルンの元へ走る王子・・・
「動き出したか!」
「はい・・100程の数ですが壁を上って来ます」
王子が下を除き込むと、魔物が壁をよじ登って来るのが見える・・・
『しびれを切らしたようだな・・・』
油は使い切ったし援軍も来ない。王子は剣に手を掛け
「戦いの時だな!」
闘志を燃やす王子!
「戦いの時です!」
ベルンが応えた!
「ギムグル様~!」
ギムグルと冥王、サイラスのいる所にトベベが駆け寄る。
「どうした?ドベベ!」
「勝手に攻め込んで行った奴らが!」
「そうか・・腹が減って我慢できなかったんだろう。好きにさせとけ!」
「いいんですか!」
「あぁ、構わん!」
「あの・・・私も行ってよろしいでしょうか?」
「好きにしろ!もう十分待った!援軍が来ると言ったのも、苦し紛れの大嘘かもしれんからな!」
ギムグルがそう言うと、ドベベは嬉しそうに走って行く。
更に300の魔物が魔防壁へ向かって行った。
冥王は、その様子を見て
「ギムグル!こんな調子でお前の軍は大丈夫なのか?また全滅させるんじゃないだろうな」
「冥王様!我が軍の戦い方は、真正面から突進するだけです。例え人間共がセコい作戦を練ろうとも、ゲスな攻撃を仕掛けても我々が戦う時は、1人でも正々堂々と正面からブツかって行くのです!」
「はぁーっ!カッコつけて!こいつは、また全滅だな・・」
ギムグルの言葉に呆れた冥王だが、サイラスには、黄金の鎧を纏うギムグルが、より輝いているように見えていた・・
サルタン王国を目指し馬を走らせていたクモキとソラキは、魔防壁に向かう援軍とすれ違っていた。
10万の大軍は長蛇の列で、その顔は皆闘志に燃えていたが、慌てる事もなく、ゆっくりと進軍している。
「何故、もっと急がないのですか!」
ソラキが兵士に聞くと
「ゼック将軍の命令なのです!」
「命令って!・・魔防壁には、魔物の大軍が迫っているのですよ!」
「我々も急ぎたいのですが・・・魔物と戦う前から体力を消耗するなと・・・」
「そ・・そうですか・・」
それが将軍の考えならば仕方ないとクモキとソラキはサルタン王国に馬を向けた・・・
魔防壁では、兵士が上から石を投げ落とし、矢を打ちまくっていた!
「叩き落とせ!上がらせるな!」
魔物は矢が刺さっても構わず壁をよじ登り、ついに2階に魔の手が掛かる!
「来るぞ!下がれ!距離を取るんだ!」
ベルンの声が響き、兵士達は後ろに下がって弓を構える!
魔物はヌクッと顔だけを覗かせ、兵士を見渡すと
「グヘヘヘェ~ッ!人間だ!ご馳走がいっぱい!」
と言って、足を掛け兵士達の前に姿を見せた。
よだれを垂らし兵士の前に立つ魔物・・・
「で・・でかい・・」
魔物は3メートル程あり、見上げて怖じける兵士に魔物は
「どいつから頂くかな・・臆病で腹黒い奴ほど旨いからなぁ・・」
舌舐めずりしてニヤける・・兵士が後ずさりすると魔物は詰め寄ろうと1歩足を踏み出した時!
「射てぇーっ!」
ベルンの声で、兵士が矢を放つ!
グサグサっと魔物の体に20本以上の矢が突き刺さった!
魔物は、体に刺さった矢を一掴みで10本程引き抜くと
「こんなもん痛くも痒くもねぇ!」
兵士に向かってブン投げた!
勢いよく飛んで来た矢を盾で防ぐが、間に合わずに深手を負う者も・・ベルンは3階の兵士を見上げ
「紐付きの矢を用意!」
と言うと間髪を入れずに
「射てーっ!」
紐が結び付けられている矢が、魔物の左右の腕に5本づつ突き刺さる!
紐付きの矢は刺されば抜けにくく、結ばれた紐は、それぞれ兵士の腕に繋がれていた。
矢が刺さったのを見てベルンは
「引き上げろ!」
引っ張る兵士に負けじと魔物も力を込める!
魔物の力に引きずられそうになるのを周りの兵士が加勢して引っ張り上げる。魔物の両腕が上がった瞬間!素早くベルンが剣を抜き、魔物の懐に飛び込み胴を真横に切り裂いた!
「グゲェェェ~ッ!」
魔物の上半身が高々と宙に飛び上がる!
「やったな!ベルン!」
王子は笑顔を見せ、下半身だけで突っ立っている魔物を魔防壁から蹴り落とす。
「王子!まだまだ、これからですゼ!」
ベルンの視線の先には、次々と2階に上がってくる魔物が見えていた。
ベルンの指示で兵士達は3階に行き、上から矢を放つ!
魔物達は、それぞれ違った特徴を持っていて、ひときわ大きい体の者もいれば小さい者、鋭い爪や長い腕とバラバラで、矢が刺さって痛がる者もいれば平気な者もいた。
2階から3階に上がる階段は、頑丈な鉄柵で閉じられ、そこでは長槍と盾を持った兵士が攻防を繰り広げる。
鉄柵の隙間から槍を突き立てる兵士に対して魔物は、鉄柵に何度も体当たりを食らわせ、その音と振動が3階まで響き渡り、3階では、紐付きの矢で引き上げた魔物を大勢の兵士で襲い掛かる。
魔物の悲鳴と血の雨が降り注いでいた・・・