6話 魔防壁
メイランドの西にそびえ立つ魔防壁は、魔物が冥界の扉から攻めて来ると言う恐怖から、何度も増築と補強を繰り返し巨大な砦となっていた。
岩壁と岩壁の間を繋ぐ5階建てで、中央の門は3重になっている。
魔物の襲撃を受けて兵士達は、暗がりの中、槍や松明を手に右往左往に走り回っていた・・・そこに王子が駆け付けて来る。馬から飛び降り
「魔物は、どうなってる!」
矢を両手いっぱいに抱え、ヨロヨロしている兵士に声を掛けた。
「あっ!王子っ!・・大変です!壁の向こうは魔物でいっぱいで・・・ここは危険ですから早くお逃げ下さい!」
王子は、兵士が抱えている矢を半分担ぎ上げると
「この矢は何処へ運べばいい?」
「え?おっ屋上ですけど・・」
王子は屋上の松明の灯りを見上げ
「私は戦うために来た!ここに全軍を集結させ魔物共を返り討ちにしてやるぞ!」
そう言って、魔防壁の階段を駆け上がって行き、クモキとソラキも後に続く・・・
最上階に登った王子は、矢を置いて壁の向こう側を見下ろすと、魔物で溢れ返っている。
100人程の兵士で迫り来る魔物を必死で防いでいたが、魔物は3階まで埋め尽くし4階に迫っていた。
王子は、隊長のベルンを見つけると、弓を手に下に降りて行く!
隊長のベルンは、3本の矢を一度に放ち、立て続けに魔物に命中させていたが、魔物の勢いに押され少しずつ後退していた・・・
「ベルン!苦戦しているようだな!」
「王子!」
王子が矢を放ちながら近付いてくるのを見て、笑顔で応えると
「怪物共がウジャウジャわき出てキリがねぇ!おまけに矢を食らっても平気な奴までいやがる!困ったもんだゼ!」
と言いながら、矢を放ちまくる!
「ベルン!全軍をここに呼び寄せた!それまで何とか堪えるんだ!」
「へぇーっ!そいつはありがてぇ話だ!」
笑みを見せる隊長の元に1人の兵士が駆け寄る!
「隊長!そろそろ限界です!」
「そうか・・よぉーし!全員上に引き上げろ!」
隊長の指示で、兵士達は4階へと駆け上がって行くが、王子は
「まだ戦える!」
と剣に手を掛け斬り込もうとする!ベルンは素早く王子の肩を掴み!
「王子、無茶は禁物ですゼ!これも作戦なんですから!」
「作戦!?」
「奴等の足元をよく見て下さい。」
王子は魔物の足元に目を走らせた!
「油か!」
魔物の足元には油が撒かれていた。油は足元だけじゃなく2階や3階の床や壁にも撒かれ、兵士達は油を撒きながら少しずつ後退して行き、魔物達は密集し油にまみれながら攻め上がって来ていた。
王子と兵士全員が4階に上がると、ベルンは鉄柵を閉めて駆け上がり、更に上から油をぶちまけ、次々に火矢を放つ!
火矢が油に突き刺さると燃え広がり、瞬く間に魔物の体に燃え移って行った。
更に、兵士達が上から火矢の雨を浴びせ、炎は大きく燃え上がり、魔物の大軍は一気に壊滅してしまう。
屋上から見ていたクモキとソラキは、100人程の兵士で五千を超える魔物相手に勝利を収めた事に、顔を見合わせ信じられずにいた・・・
真っ黒い煙が立ち込める中、隊長は煤で黒くなった顔で微笑み
「魔物は人間を食うって聞いて、俺は逆に奴等を食ってやろうと思ってたが、こうも黒焦げになっちまったら、不味くて食えねぇゼ!ハッハッハッハッハッ!」
と高らかに笑い、兵士も王子も笑っていた・・・
一方、岩影から1人洞窟を見張っていたサツキは、緊張と恐怖の中にいた・・・新たに魔物が、続々と洞窟から出て来ていたのだ!先程の数を遥かに超えて・・・
『どういう事なの?・・まだ出て来る・・しかも、さっきより大きくてヤバそう・・・』
絶望的な恐怖心に自分がどうすればいいのか分からない・・・と、そこに場違いな者がいることに気づいた!
ズラリと並ぶ魔物の前に人がいるのだ!
黄金の鎧を着た魔物と話している男・・・サツキも知っている男だった・・・
『なぜ、サイラスが・・天界に行ったんじゃ・・』
サツキが2人の様子を見ていると、そこに傷を負った魔物が駆け込んで来る!
「ギムグル様~!みんな殺られちまったでゲス!全滅でゲス!」
それを聞いた黄金の鎧のギムグル
「ほーっ!人間もなかなかヤるじゃないか!これなら、少しは楽しませてもらえそうだな!」
そう言うとギムグルはサイラスに
「どうする、お前も行くか?」
「えっ?私は、戦いはちょっと・・ここで冥王様をお迎えします・・」
「そうか!わかった!」
と応えると、魔物の大軍に向かって
「よーし!弔い合戦だ!行くぞぉー!」
魔防壁に向かい、ゆっくりと進軍して行く・・・
魔物の大軍を見送って、一息付いたサイラスの目の前にサツキが姿を現した!
「サイラス!どういう事なの?なぜ魔物と一緒にいたの・・・」
「サツキさん・・・」
サツキは、サイラスをキツく睨み付けた・・・