雨徳利(あまとくり)
軒先に素焼きの徳利を並べて
音楽会をしているのかと思ったら
ニヤリとこいつは笑って言った
友よ
つまらないことを言うんじゃないよ
野暮だねえ
こいつはこうして雨を溜めておくとね
酒になるのさ
そんなこと あるもんか
もう酔っているのだろうか
こいつは本当に酔っ払い
どうしようもない酔っ払い
こうして並べて置くだけで
宵の口には酒になるのだ
芳しく美しく
口に含めば夢心地
そんな極上の酒になるのさ
まったくこいつは酔っ払い
まだ午前中だって言うのに
俺たちはこれから
軽く蕎麦でも啜りに行くのじゃないか
カラリ トントン
キラキラ コロリ
キン パラリ
澄んだ音から愉快な声まで
いろんな形の徳利が
気ままに並んで歌っている
これがみんな酒になるのかい?
馬鹿なことしか言わない奴だ
信じないなら好きにしなよ
分けてなんかやらないから
梅雨に入ってすぐだけさ
この時だけの酒なのに
友よひとりで歯噛みして
俺が呑むのを見てるがいいさ
それで蕎麦には行くのかい
こいつは軒先の徳利を肴にして
既に五合空けているのだ
愉快そうに盃を傾けて
ひとりでするする進めているのだ
どれひとつ 蕎麦でもとるか
ほらみろ こいつは酔っているのだ
蕎麦に出ようと言ったじゃないか
忘れているのか面倒なのか
出前の電話で勝手に頼む
そもそもここは俺の部屋
一抱え程 素焼きの徳利を
朝からいきなり持ち込んで
勝手に軒先へ並べやがった
こいつは朝からご機嫌で
畳の上に胡座をかいて
俺の秘蔵の蔵出しを
雨をツマミに喰らうのだ
全くとんでもない奴だ
本当にこいつは酔っ払い
骨の髄まで酔っ払い
血なんかきっと流れていない
代わりに酒が流れているのだ
へらへら笑って酒ばかり煽っている
こいつは死ぬまで酔っ払い
梅雨が明けよが
夜が明けようが
どうせこいつは 酔うだけさ
まあこんなもんです酔っ払いは