一話 異変
朝、俺は目が覚めたんだがある異変を感じた。卒業してタンスの奥底に閉まったはずの高校の制服が吊るされているし、俺が高校時代に買った参考書も見当たらない。異変を感じた俺はとりあえず下に降りてみることにした。
そして下に降りたら母はとんでもないことをいったのだった。
「あんた、遅いわよ、今日から高校生だっていうのにいつまで寝てんのよ。もうすぐご飯できるから顔でも洗ってきなさい」
は?俺はもう高校は卒業したぞ?一体何を言ってるんだ?
「もうお兄ちゃんったら春休みが終わって現実逃避してんの?」
妹までもがそんなことを言う。俺は恐る恐るカレンダーを見てみるとそこには三年前の四月のカレンダーが吊るされてされていた。しかもしっかりと高校入学式と丸がされている。
ドッキリかもかと思ったが、そんなドッキリを朝っぱらからやるとは到底思えないし
テレビに目をやるとしっかりと三年前になっていたから恐らくドッキリではないのだろう。
本当に現実なのかとためしに頬をつねってみた。しかし俺は目が覚めることはなくただ痛い
という感覚しかなく、残念ながらこれは夢ではなく本当に現実らしい。
そもそもなぜ三年前の世界に俺はいるんだ?これが現実ということはつまり俺はタイムスリップしたことになる。しかもベッドの中でだ、俺が知ってるタイムトラベルは理論的には可能らしいが、俺がもともといた時代では考えられないし、魂だけタイムスリップしているのだから尚更不可能だ。
とりあえず俺はベッドの中を調べてみることにした。もしかしたらなにかタイムスリップした原因がわかるかもしれないと思ったがなにも手掛かりになりそうものはなかった。ほんとにどういう原理で過去に行っているんだろうか。
俺は少し考えてみたが全く思いつかない。今のままだと今後一生考えつくことはなさそうだからとりあえず今は考えるのはやめよう。
しかし高校一年生の入学式にタイムスリップしてしまったことは事実だ、原因を突き止めないと現実世界には戻れないだろう。
俺はまずダメもとで家族に聞いてみることにした。さっきの反応から見て知らないことは明らかだがもしかしたらなにか知っているのかもしれない。だが
「そんなの知らないわよ、気でも狂ったんじゃないの?」と返されてしまった。家族全員そんなことを言っていたから恐らく過去にタイムスリップしたのは俺だけなのだろう。
俺は模索したがなにもなかったため仕方なく三年間着続けた高校に行く準備をしていると家のインターホンがなった。
「全くまだ準備できてないの?遅いわねえ初日から遅れるなんて許されないのよ!」
呼び鈴の正体は俺の幼馴染の木下淀だった。彼女とは文字通り幼い頃からの付き合いで家も近いから
たまにこうやって俺の家に呼びに来るような関係だ。そんな時間かと思いふと時計を見てみたらまだまだ時間があるじゃねーかよ。と思いながらも俺は支度をすませ家をでた。
「またせたな」と申し訳ないと思いつつ言うと淀は「もう全くあんたは朝が苦手なんだから」
と怒られた。俺そんなに朝苦手じゃないんだけどな。
俺は淀にも俺が起こったことについて話してみることにした。もしかしたら淀も何か知っているのかもしれない。まあ多分ないだろうけど。
「なあ淀」というと淀はこっちを振り向いた。「何?」と聞いてきたので俺は思い切って、疑問をぶつけてみた。「なあ、俺たちってもう大学生だよな?」というと淀は「は?何言ってるの?春休みで頭でも狂った?」と返された。この反応だと100%タイムスリップについては知らなそうだな。
俺は淀も何も知らないとわかり半ばあきらめていると高校時代唯一の親友だった奴が話しかけてきた。
「よおお前ら、夫婦そろって登校とはアツアツだなあ」
と冷やかしを入れてきたのは俺が一回目の高校の時の唯一の友達であり一番の親友の徳川政宗だ。
「う、うるさいわねえ、あんたには関係でしょ!」と淀が怒る。まあ怒るのも無理はないだろう。
「動揺してんな、もしかして図星か?」と政宗も言い返す。おいおいしょっぱなから喧嘩しないでくれよな。
「ちょ、あんたいいかげんに...」淀がそろそろ本気で怒りそうだったので流石に止めるとするか。「まあまあ、確かに男女二人仲良く登校してたら誤解されてもしかたねえよ」
と俺が冷静な突っ込みをすると淀も納得した様子で「まあ確かにね」と食い気味ながらもいい俺たちは学校へ足を運ぶこととなった。
俺は登校中、考えた。なぜ三年前に戻ってしまったんだ。俺を三年前に戻した黒幕はいるのか。もしいるならば問い詰めたい。
だが俺はこのタイムスリップを逆にチャンスだと考えた。戻れたということはつまり高校生をやり直せるということだ。
実は俺は高校三年間青春というものをまったく謳歌していなかった。戻ったからにはこの地球上のどの高校生よりよりも素晴らしい高校生活を送ってやろうじゃねえか。友達と遊び、恋人を作りデートをしたりするようなだれもがうらやむ高校生活をな。ということを心に決めた俺は三年間ずっと通い続けてきたもうとっくに見慣れた学校の校門へと足を運ぶことになったのだった。