報告
「待て!」
新手の侵入者が現れ、声を上げる。
金髪碧眼の顔立ちの整った男だ。
6人とは少し離れた場所にいた事と、男には此方への敵意が無かったため気づくのが少し遅れてしまった。
「何者だ!?」
先に居た侵入者の男が声を上げる。
どうやら新手の男は襲撃者の一味ではないらしい。
敵意が感じられなかったのもその為だと納得する。
つまりこの男は――正義の味方を気取ってこの場に現れたという訳だ。
「こんな夜更けに人様の屋敷に乱入し、女子供を害する輩に名乗る名はない。さっさとこの場を立ち去れ!さもなければ――」
男は言葉を途切れさせ、腰に掛けていた剣を抜き放つ。
月明りの無い闇夜だというのに、その刀身は赤黒く不気味に輝いている。
それには見覚えがあった。
この屋敷の主であるカオスが以前手にしていた魔剣だ。
ポンコツという事で売り払ったそれを、男は自信満々の表情で掲げていた。
「その剣は……」
その禍々しい刀身を目にし、襲撃者達の顔色が変わる。
何故彼らはそんなに驚いているのだろうか?
何かあるのかと思い刀身に注視するが、特に何も感じなかった。
「……魔剣使いか」
「ふ、一目でこの紅蓮の魔性を見抜いたその目は褒めてやる。死にたくなければ降参すんだな」
見抜くも何も、暗闇で刀身が赤黒く光っているのだ。
それが普通の剣でない事ぐらいは馬鹿にでも分かる。
「戯言をほざいて貰っては困る。要はその魔剣に注意すればいいだけの事」
どうやら彼らは男の持つ魔剣を危険視している様だ。
私の知る限り、刃を飛ばすぐらいしか能がなかった筈だが……まあ襲撃者達はその事を知らず、不必要に警戒しているのだろう。
6人の内4人が男を取り囲み。
残りの2人が私に刃を向け、此方を牽制してくる。
恐らく4人で男を素早く制圧し、改めて6人で此方を包囲する気なのだろう。
「かかれ!」
リーダーらしき者の号令で、3人が一斉に襲い掛かる。
「なかなかやるべ」
3人の襲撃者達の動きはそれ程悪くなかったが、だが男の方が頭二つ程抜きんでていた。
見事な体捌きで3方からの攻撃をいなし。
剣の腹で打ち据え。
3人を一瞬で昏倒させる。
かなりの腕前だ。
変異前の自分となら、そこそこいい勝負ができたかもしれない。
まあ流石に、竜人化してレベルをせっせと上げてきた今の自分の敵ではないが。
「どうする?勝ち目はないぜ?」
「くそっ!調子に乗るな!」
男が地面に何かを叩きつける。
その瞬間煙が立ち昇った。
煙幕だ。
「小狡い手を使うべな」
それに毒が含まれているのが匂いで分かる。
私は平気だが、吸えば男は只では済まないだろう。
「無駄だ!紅蓮!」
だが男はそれに怯まず、剣を上段に構えた。
振り上げられた魔剣の刀身が怪しく輝き、赤いオーラが立ち昇る。
それは刃を取り巻く様に旋回し初め、やがて赤い旋風となり――
「紅蓮旋風陣!」
剣の斬撃に合わせて解き放たれる。
放たれた力はまるで小さな竜巻の様に突風を巻き起こし、周囲の煙幕を吹き飛ばした。
カオスは只オーラを飛ばすだけだったが。
男のそれを見て、面白い使い方をする物だと男を感心する。
「くっ!?」
だがまあ広範囲に拡散したため威力はお察しだ。
案の定、相手はぴんぴんしていた。
特殊な使い方をしたとは言え、人間一人倒せない用ではカオスがポンコツと称したのもうなずける。
「させん!」
再度何かをしようと襲撃者が腰の袋に手を入れる。
だがそれよりも早く男が一瞬で間合いを詰め、剣の腹が襲撃者を捉えて弾き飛ばす。
まただ……
4人全員殺さず生け捕り。
男の行動は少々甘すぎる。
もしくは――
「ちぃ!」
私と対峙していた二人が此方に襲い掛かる。
人質にとって男を牽制する積もりなのかもしれない。
最初っからそれをしなかったのは、2人で私にかかるリスクを避けたか。
もしくは、負けない強い自負があったかのどちらかだろう。
「させん!紅蓮斬!」
男が離れた位置から剣を振るうと、真っ赤なオーラが刃となって襲撃者を襲う。
「がぁぁぁ……」
直撃を受けた男の腕が闇夜に舞う。
やがてそれは重力に従い、どさりと音を立てて地面に転がった。
腕を失った男は呻き声を上げ、苦痛からその場に蹲る。
ダメージとしては大きいが、この期に及んでまだ無殺か……
「どうする?まだやるか?」
「くそっ!」
最後の1人が此方に背を向けて逃亡する。
起死回生の手はないと判断したのだろう。
ちらりと男を見ると、逃げる相手を追撃する気はなさそうそうだ。
襲撃者はジャンプして高い塀に手をかけ、そのまま乗り越えようとする。
だが……私に喧嘩を売っておいて、逃げられると思ったら大間違いだ。
「逃がさないべ」
羽根を力強く羽搏かせる。
強い力が働き。
私の体は、まるでリールに勢いよく引っ張られているかの様に一直線に宙を舞い。
一瞬で塀の上空へと先回りする。
「な!?」
私と逃亡者の視線が空中で交差する。
その瞬間、相手の瞳は驚きと絶望が入り混じった、何とも言えない物へと変わる。
他者を襲おうとしておきながら、なんという情けない目か。
呆れを通り越して、笑いすら込みあがって来る。
「楽にしてやるべ」
私は口の端を歪めて笑う。
笑かしてくれた褒美だ。
せめて楽に死なせてやるとしよう。
腕を振り上げ、その頭部を全力で殴り飛ばす。
ぐしゃっという鈍い音が響き、勢いよく男の頭部が破裂し飛び散る。
その体は司令塔を失い、力なく塀の内側へと落ちていった。
「どうやら、助けは必要なかった様だな」
男が剣を鞘に納め、此方へと歩いて来る。
私はそれを手で制した。
近づけば殺すという殺意を籠めて。
「おいおい!俺は敵じゃないぞ!?」
「じゃあ何で全員生かしてるだべか?」
情報を引き出すだけなら、生かすのは1人2人で十分だ。
だが男は誰も殺さず、しかも逃亡まで見逃そうとしていた。
それはつまり――
「こっちを油断させるための芝居だっぺ?」
勝ち目のない相手を倒すのは、油断させて隙を作るのが一番だ。
男の行動は、あえて仲間をぶちのめす事で安心させる手立てと私は考える。
夜間、襲撃者と同じタイミングで勝手に屋敷に侵入してきた事。
実力差があったにも関わらず、誰一人始末していな事。
疑うには十分すぎる根拠だ。
確かに殺気や敵意は男から感じないが、そんな物はその気になれば隠す術は幾らでもある。
考慮する必要は無いだろう。
「違う違う!俺はただ、無意味な殺生を避けただけだ!」
男は理解不能な言い訳を口にする。
夜襲をかけて来る様な奴らを生かす事こそ無意味だ。
その言葉に合理性はない。
「ならそこに転がっている連中を3人殺すべよ。そしたら考えてやっぺ」
仲間でないなら手に掛けられる筈。
そうすれば敵ではないと信じてもいい。
数が3なのは、最低1人は生かしておかないと情報が引き出せなくなってしまうからだ。
「グルじゃないなら出来るべ」
まあ自分のピンチに仲間を平然と切り捨てる輩もいるが、最悪警戒さえしておけば大した問題は無いだろう。
「断る。動けない人間を殺すような真似、俺には出来ない」
「そうだべか」
敵で確定と判断する。
これで殺しても問題ないだろう。
大した根拠もなく人間を殺すとカオスが五月蠅いのだ。
「正気かよ」
一歩前に出るとその分男が下がる。
「逃げてもいいべよ」
勿論逃がす気など更々無い。
突っ込んで来るなら正面から返り討ち。
逃げる様なら、背後から心臓を抉るだけだ。
「くそっ……何でこうなるんだよ」
男が苦々しげな表情で、腰の剣に手をかける。
まあそれが正解だ。
生きるため最後まで足掻くと――
「ベーア!何をやっておるのじゃ!」
急にサラが騒ぎ出す。
視線を其方にやると、結界を内側から手でぺちぺち叩いているのが見えた。
「なんだべ?」
「何でべはないわ!助けてくれた恩人に何をする気じゃ!?」
「こっちを油断させる手だべ。その証拠に誰も殺してねえべ」
その程度も分からないとは。
これで同い年だというのだから呆れてしまう。
「そんな理由でか!?兎に角止めるのじゃ!止めねばカオスに言いつけるぞ!」
「む……」
ちゃんと合理的な理由がある以上、カオスに言われても何も問題はない。
ないのだが……自信満々なサラの態度を見ると、自分の判断が間違ってるのではないかと揺らぐ。
「ふむ……仕方がないだな。この場から失せるのなら命は見逃してやるべ」
「ベーア!それは失礼であろう!」
「これ以上の妥協はしないっぺ」
仮に不意を突かれても、自分ならどうにでもなるだろう。
だがサラやニーアはそういう訳には行かない。
彼女達はカオスが招き入れた客人である以上、それは自分にとっても客人だ。
死なせるわけには行かない。
「わかった。此処は素直に撤退させて貰う。その前に一つ聞くが、先程カオスという名をあちらの少女が口にしていたが、ひょっとしてここはポーチさんのお宅なのか?」
「それがどうしただべか?」
「おお!やはりそうか!あれだけの美貌の持ち主だ。どこぞの令嬢ではと思っていたがやはり」
途端、男が嬉しそうに表情を崩す。
まるでここに誰が住んでいるのか知らないような口ぶりだが、只の関係ないアピールだろうと流す。
「ところでポーチさんが見当たらないようですが」
辺りを見回し聞いてくる。
見逃してやると言った事で、かなり調子に乗っている様だ。
「今日は出かけていないべさ。それよりさっさと消えるっぺ」
「それは残念だ。では今宵、このS級冒険者アレクが皆さんの危機にはせ参じたと、どうかポーチさんにお伝えください!」
そう言うと、アレクは回れ右して屋敷からさっさと出て行く。
丸でもう、此処には用がないと言わんばかりの態度だ
「勿論伝えるべ」
襲撃者の一味である、S級冒険者のアレクに逃げられてしまったと。
そうはっきりとカオス達に伝える積もりだ。
「さて、情報でも聞き出すべか」
私は倒れている4人を纏め、身動きが取れないよう円錐状の結界に閉じ込めた。




