レジェンドクエスト
「よお、アレク。まさかお前さん達まで参加するとはな。驚いたぜ」
カウンターで一人酒を煽っていると、がたいのいいモヒカン男が声を掛けて来た。
顔なじみだ。
「そうか?にしても、相変わらずの格好だな」
「いいだろう?」
モヒカンは自身の身に着ける、ショッキングピンク色のフルプレートを自慢げに指さした。
いかつい見た目にミスマッチなこのピンクの鎧こそ、彼のトレードマークだ。
その為彼の二つ名はピンクの悪魔という、なんとも言えない物となっている。
彼――クラングは俺の横へ座り、きつい酒を注文する。
正直、この男と並ぶと嫌な意味で目立つので他所に言って欲しいのだが――
「あれをやれると思うか?」
「可能性は高く無いだろうな」
これから同じ死地へと向かう間柄だ。
我慢してやるとしよう。
俺とクラングはS級冒険者だ。
それぞれの所属するパーティーもSランク認定されており、最上級のモンスターとさえ渡り合う実力がある。
他にもSランクパーティーが1つに、Aランクが3つ。
この国における上位パーティー6つが今、この街に集まっていた。
そこにBランクまで含めると、俺達は総勢130名程の強戦闘集団になる。
だが今度の仕事で生きて帰れるのは、恐らく片手で数えられるレベルの人数だけだろう。
いや、寧ろ全滅する可能性の方が遥かに高いと言っていい。
「厄介な仕事だ」
事の発端は、王国西部のにある山の採掘が始まりだ。
その山には巨大な竜が眠っていると言われ、近隣の人間はそこを死の山と恐れて誰も近づこうとはしなかった。
そんな場所にも拘らず。
それを只の迷信と切り捨て、ある欲深い貴族が山に眠る鉱物目当てに採掘を始めてしまったのだ。
そして踏み込んでしまう。
伝説に残る竜の塒へと。
結果は悲惨なものだった。
その場に居合わせた鉱山夫達は元より、その近隣の街は怒り狂った竜の襲撃によって、もういくつも滅びている。
当然そんな状態を国が放っておくわけも無く、国は竜討伐に大軍を動かした。
だが怒れる竜の力は恐るべきもので、差し向けた1万にも上る軍勢は完全に全滅させられたらしい。
その余りの強大さに討伐不能と判断した国は、方針として該当地域の封鎖を宣言する。
要は竜のテリトリーと思しき範囲から住民を避難させ、そこを封印の地として永久に放棄すると言う物だ。
これ以上余計な刺激をせず、大人しく待つというのは判断としては正しい物だろう。
だが問題はそう簡単な話ではない。
該当地域に当たる街や村は。全部で10か所。
人数にすると、20万人近い人間を避難させる必要があった。
それだけの人間が今住んでいる場所を放棄し、新しい場所で生活する事がどれ程大事かは考えるまでも無いだろう。
国から助成金が出るとはいえ、移住者の生活が困窮するのは目に見えている。
だから避難予定の各町から依頼が出たのだ。
竜討伐の。
「だが俺は、これがチャンスだと思ってるぜ」
そう言うと、クラングはにやりと笑う。
10か所からの依頼で、それも難易度伝説級だ。
一生遊んで暮らすぐらいの報酬は期待できる。
だが彼の言うチャンスとは、決して金の事ではない。
――英雄。
その言葉に憧れない冒険者はいないだろう。
ここに集まっている無謀な連中は、英雄という称号の為に命をかけるのだ。
「まあ確かに。後世に名を遺す偉大な英雄となる機会なんて、早々転がっていないだろうからな」
功績あっての英雄だ。
それを成す機会など、生涯に1度あればいい方だろう。
「そういう事だ。お互い生き残って英雄入りしてやろうぜ。兄弟」
「誰が兄弟だ。誰が」
ピンク鎧を着こんだモヒカンと兄弟になる積もりはない。
俺はしっしと手を振って追い払う仕草をする。
「はっはっは、連れねぇなぁ!」
クラングは俺のジェスチャーなど気にも留めず、バンバンと馴れ馴れしく此方の肩を叩いて笑う。
俺はやれやれと首を振り、溜息を吐いて酒を煽った。
今日はこいつと飲み明かす事になりそうだ。
明日は竜相手にドンパチする事になる。
にも拘らず、貴重な1日をこうやって無駄に垂れ流す。
馬鹿みたいな生き様だが、これもまた冒険者としての醍醐味と言えるだろう。
喧騒の中、俺は夜遅くまで命運を共にする者達と酒を酌み交わした。




