神化
「吹っ飛べ!」
「ぐわあああああ!!」
ブレスを真正面から突っ切り、ドラゴンの顔面を蹴り飛ばす。
蹴りをかまされた奴は盛大に吹っ飛び、地面に激突する。
体が半ばまで地中に埋まり足がぴくぴく痙攣しているが、一応手加減はしているので死ぬ事はないだろう。
「はぁぁぁぁぁ!!」
ベーアが独楽の様に旋回して此方へと突っ込んで来る。
俺はそれを片手で軽々と受け止めてみせた。
尤も、彼女も初めっからこんな攻撃が当たるとは思っていないだろう。
つまりこれは陽動だ。
「にん!」
「隙ありです!」
ベーアの背後から、姿と気配を完全に殺していたポーチとアーニュが飛び出し俺の首を狙う。
だが勿論俺に隙は無い。
開いているもう片方の手でアーニュの手を掴み、ポーチの幻妖剣を歯で噛んで受け止める。
「ふぁまぁいふぇ」
剣に噛みついているので上手く言葉が喋れない。
だがまあ意味は伝わってるだろう。
俺は3人を力任せに地上へとぶん投げる。
その際、重力を操る魔法を使用したので3人は受け身も取れずに地面に激突してしまう。
「大丈夫か?」
俺は地上に降り、ベーア達3人をカオスヒールで回復させてやる。
アーニュはアンデッドだが、俺のヒールは死者すらも癒す?ので特に問題は無い。
「流石は魔王様です。もう我々では手も足も出ませんわ」
アーニュが俺の顔をうっとりと眺めて、そう呟いた。
きっと俺が世界征服して。自分が重要なポジションに納まっている妄想でもしているのだろう。
「ぬぅぅ、悔しいべ。もっと強くなりたいからもう一回変異させるべな」
「今のままでは父上のお役に立てそうにもありません。出来れば私も変異をお願いします」
「悪いけど、それはもうちょい先だ」
短期間に変異を繰り返した事によって玲音は心が壊れ、魔王になってしまっている。
二人が同じ道を辿らないとも限らない。
させるにしても、次の変異まではそれ相応の期間を開ける必要があるだろう。
「取り敢えず、皆との組手で上げるのはもう限界だな」
現在俺のレベルは97まで上がっている。
ほぼリーチ状態だ。
とは言え、ここから99までには相当な時間がかかる事になるだろう。
現在、俺は分身をスキルポイントで強化して使っていた。
生み出せる数は最大で4体。
分身は生み出す数が増える程に俺の力は弱体化する仕様だ。
そして今の手合わせは、4体生み出した状態で行っていた。
超弱体&4対1。
それだけのハンデを付けて尚、簡単に勝ててしまう。
残念ながら、彼女達との手合わせで効率よくレベルを上げるのはもう限界だった。
「やれやれ、レベルカンストまでは長そうだ……」
「今の主ならば、本気を出せば魔王など敵では無かろう。無理にレベルを上げる必要はないのでは?」
地面に埋もれていたドラゴンが起き上り、のしのしと歩いてきた。
一応奴にもヒールをかけて回復しておいてやる。
「倒すだけならまあそうだが」
魔王の強さはレベル80の俺と同等と想定している――女神さまの言葉から。
倒すだけならもう問題なく勝てるだろう。
だが目的は倒す事ではなく、鹵獲とその状態の維持だ。
只倒せばいいという訳ではない以上、レベルは高ければ高いほど好ましい。
それに、インキュバスに変異するという夢の到達点を目指すには、どちらにせよ99目指してレベル上げは必須だった。
だからレベル上げを切り上げるという選択肢は、俺にはない。
「只倒せばいいだけじゃ――って、なんだぁ!?」
背筋に寒気が走り、思わず変な声を上げてしまう。
凄く嫌な感じだ。
俺が振り返ると、月明りに向かって光の柱が伸びているのが見えた。
それは帝国――深淵の洞窟がある方角だ。
「なんだべ?」
「父上、あの光は一体?」
「魔王……か」
方角的にはそうとしか考えられなかった。
だがおかしい。
以前結界に近寄った際、俺はそこから漏れ出るあいつの力を感じている。
だがあの光の柱から感じる物は、明かにその時感じた物とは別物だった。
何より俺の本能が囁いている。
いや、囁くなんてレベルじゃない。
まるで体の中で銅鑼が鳴らされるているかの様に、鼓動が早鐘となって俺を打つ。
「マジかよ……」
戦えば死ぬ。
それが俺の本能が導き出した答えだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そんな!!」
地上の……蘇った魔王を見て私は思わず大声を上げる。
「そんな事が……」
我が目を疑う。
それはあり得ない事だった
あり得る筈がない……
だが間違いは無かった。
私の眼にはハッキリとその姿が映っている。
神へと変異した魔王――いや、破壊神の姿が。
そしてそれは、世界の滅びを意味していた。