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夢幻世界~断片~  作者: さがっさ
1/1

GUNSLINGERS~世界座標CH・AH-6789,荒野にて~ 前編

短編集のその一です。

拙作のPsychic×Strangersと関係があったり無かったり

    ◆





 ―――白衣の女は探求の先、未踏の荒野へと一人挑み、ガンスリンガーとガンスミスと神獣がその後を追った。






    ◆






 地平線の彼方、限りなく続く荒野では球状に絡まる枯草――タンブルウィードが転がり、サボテンが所々にそびえ立つばかりであった。

 太陽は南中に二つ、点対称を取るように位置しており、極限まで地上を熱し続けている。

 生き物は地上を歩くサソリと砂上の楼閣を作るアリ、そしてそれらを丸ごと喰らい尽くすアリジゴクばかりである。



 延々と続く荒野、そこにぽつんと一軒の酒場があった。



 建物自体はタイヤを外されたトレーラーを改造されて作られたものだった。そこにはガソリンスタンドが併設されており、バイクが幾つか停められている。中には金色の車体のバイクが一際目立つように置かれている。酒場の屋根の上には給水タンクが四つほど備え付けられており、どれも分厚いガラス製のタンクにはなみなみと水が貯められていた。

 周囲に水を補給できる場所を見つけることもできないことから、旅人にとっての荒野のオアシスとなっているのだろう。地獄に置かれた一時の救いをもたらす天使の泉。見てくれはみすぼらしいものだが、訪れるものにとってはそれで十分だった――――








 ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 




 一瞬でまばゆく閃光が酒場の内部を満たし一瞬と待たずに解き放たれた、

 衝撃で屋根は吹き飛び、水が蓄えられていた貯水タンクが地面へと転がり中には衝撃で割れて中身が零れ落ちるものもあった。


 天井がものの見事に吹き飛んだ元酒場、バーの傍では何人かが既に気絶し倒れ伏しいた。うめき声を上げてその場で立ち上がる事ができなくなった者も多く、その場で立っていることができているのは僅かに三人。



「てめぇらあぁ!! 俺様の一撃で立っていられるとはどういうこったぁ!? ああ!?」


 

 一人は金でできたプロテクターを身に纏った大男。肩から掛けられたベルトには同じく金色の巨大な手榴弾を幾つもぶら下げ、手にはこれもまた趣味の悪い金色に揃えた重機関銃をそなえている。その火力は重戦車も同然であり、先ほど酒場の天井を吹き飛ばしたのも彼であろう。

 手に持った重機関銃の先を他の二人へと向けて威嚇する。




「あら、思ったよりやるのね」



 一人は厚手で丈が合っていない改造ロングコートを着ている少女だ。袖は途中で分かれており、肩から肘の部分が露出している特殊な作りである。体の前は完全に首元まで閉めており、体の線は完全にコートの下に隠れている。一見、武器の類を持っているような様子は見られない。

 少女は天井が吹き飛んだにも関わらずふてぶてしくもテーブルに腰かけたまま更に大男を挑発する。

 その手には温められたミルクがグラスに注がれていた。


「おい、自分だけ楽してんじゃねえよ。ちっとは働け」



 そして最後の一人、その姿は全身が濃い青で染め上げていた。

 その男は濃い青の襟立てたコートで身を包み、更に同色のテンガロンハットを被ることで完全にその表情を窺うことはできない。

 両手には同じく青いグローブを身に付け、その右手には蒼い拳銃が握られている。

 拳銃は一見、西部劇御用達の旧式リボルバーを塗装しているように見えるが、銃に詳しいものが見れば、その仕組み、型番などは既存のものにどれも当てはまらないと直感的に理解してしまう。

 最も、この場にはそのような余裕があるもの等は改造ロングコートの少女と全身が青い男以外には居合わすことは無かった。



「別にいいでしょう? 私のはまだ"調整中"なのよ。それにか弱い女子を守る栄誉が与えたんだから、光栄に思って欲しいわね」

「だからって、回避行動も取らないのはどうかと思うけどな。俺を盾にしてくれた方がよっぽどいいんだが」

「あら、守ってくれるのかしら」

「まあ、それぐらいはな」

「てめえらぁあああ!! 俺を無視して話し込んでんじゃねえぇぇぇぇ!」

「とは、言ってもな、吹っ掛けて来たのはお前だろう、バイクをよこせとか。まあ、重ねて挑発したのはコイツだが」

「しょうがないじゃない。あの趣味の悪い金色と私たちのバイクが放つ黄金じゃあ、色合いが悪いわよ」

「俺の顔も知らねえよそ者が粋がりやがって、ぶっ潰す!!」


 

 一秒が十秒にも伸ばされたような感覚の中で行動するガンマン達の戦いの先端が開かれた。



 二人のやり取りに既に痺れを切らしている大男が怒号を上げて、趣味の悪い金色を輝かせる重機関銃を二人に向けて、引き金を引く。


 怒号を上げてから放つ攻撃、話をしつつ誘いを掛けていた青い男は既に迎撃の体勢を整えていた。


 大男が引き金を引く瞬間を狙ってクイックドロウの早撃ちでその手元へと弾丸を打ち込む。


 

「くっ!!」



 しかし、大男の方も、油断は無かったようであり手首を僅かに返してプロテクターに当てることで何とか利き腕へへの直撃を防ぐ、しかし衝撃により引き金に掛けられた指は離れ即座に銃撃を眼前の敵へとばらまくことを防がれた。



「おお、やるなあ。流石ここらへんで猿山の大将を名乗るだけはあるぜ」

「なめんじゃねえ!! このよそ者野郎が!!」


 

 大男は、すかさずその持ち前の脅威の怪力で付近の木製テーブルを自身の盾とするように蹴り上げ、そのまま蹴り上げた足で青い男の方へとテーブルを蹴り飛ばした。

 痺れた指の回復を今この場で回復させて、このまま木製のテーブル越しに青い男を撃ち抜こうとする。



(一瞬だが、射線は切れた! このままゴールデンエレファントでテーブルごとミンチにしてやるぜ!!)


 

 愛銃、ゴールデンエレファントの引き金へと再び指を掛ける大男、この黄金の機関銃の威力であれば一度火を吹けば最後、木製のテーブルの破片か青い男の血肉か判断できない程にすることは十二分に可能である。

 例え避けたとしても、その追撃として肩から掛けられている黄金手榴弾をもう一度お見舞いさせてやればいい。

 必勝のパターンへと持ち込んだことを確信した大男はほくそ笑む。


 

「死ねぇぇぇぇ!」

「あら、ご機嫌ね。とりあえず、頭上注意よ」



 改造コートの少女が放った言葉と共に銃声が鳴り響く。

 同時に大男の頭上へと熱いものが降りかかる。同時に降りかかるのはガラスの破片である。



「熱っつうぅ!!」

「もしかして、私が何もしないとでも思っていたのかしら? お笑いよね」

「本当に横から偉そうだよな」



 被った熱湯に大男は思わず悶えてしまい再びその照準を定めることは無く。再び、その引き金から指が離れた。

 そして、その隙は彼にとっては致命的なものであった。ガンマンが二度も引き金から指を離すことは致命的であることは自明である。

 従って、この決着はその一瞬の後につけられる。




 ―――蒼い銃の撃鉄が下され、不思議な銃声が鳴る。




 その弾丸は蒼い光を帯びて進む、しかしその角度は大男へと向かわない。一度崩壊した酒場の柱に激突しはねかえり、大男の死角へと向かった。跳弾撃ちである。


 

(いや――まだだ、まだ死ぬことはねえ!)



 蒼い光が向かう先は、大男が身に付ける金色の手榴弾、その威力は先ほど酒場の天井を丸ごと吹き飛ばしたことから分かるように強力である。しかし、それらを肩から下げたベルトに幾つも下げて、着弾した際に爆発を起こされてはあまりにも危険すぎる。そのため、黄金手榴弾は全て、拳銃程度の弾丸の衝撃では爆発しないように作られた特注品となっており、このまま着弾した所で弾丸は再び跳ね返るだけである。


 反撃のため、逸れた銃口を再び向ける。今度は狙いを付けることも無く、重機関銃による弾丸の嵐で眼前の全てを挽き肉へと変換するべく、すぐさま引き金に指を掛けて引く。

 大男は自身の勝利を確信した。


 

 黄金手榴弾に蒼い光を帯びながら弾丸が着弾し、満面の笑みを浮かべながら趣味の悪い金色を身に着けた大男の意識は殺戮への快楽に溺れたまま、途切れてそのまま永久に戻ってくることは無かった。




  ◆




 二度目の閃光が走り、続いて連続した爆発が発生する。

 衝撃が幾度も半壊状態の酒場を襲い、残された部分が光と共に吹き飛ばされていく。

 遠目から見たのならば、その様は地上で花火が暴発したかのようであった。

 


 瞬くように連続した閃光が途切れ、爆発音も鳴り止んだ。

 都合、六回目の閃光と爆発の後でようやく終わった爆発の後に残されたのは、瓦礫の山であり、何故かバーカウンターと外のガソリンスタンドが何とか半壊状態で残されていた。


 

「30点ね」

「ケホッケホッ、採点、辛くないか?」

「これだけ消し飛ばしたらどうにもならないじゃない。私が居なかったらこの酒場は跡形も無く消し飛んでたわよ」

「お前が手伝ってくれたらもっと楽だったよっと」



 バーカウンターの奥から姿を現した全身が青い男と改造コートの少女、男の方は舞い上がった塵で咳き込んでいたが、少女の方は先ほどまでの平静を崩すことなく、勝手に空いているグラスにミルクを注いでいた。


 酒場の中心部分にはそれまで肩から掛けられていたはずのベルトから上がその後方の酒場の壁ごと綺麗に吹きとばされており、無残に肩口から下が丸ごと残された今は見る影も無い下品な金色のプロテクターはオブジェ同然の死骸を晒すこととなっていた。


 男は少女の行動に既に慣れた様子で特に気に掛けることは無く、バーカウンターの奥から人影を引っ張り出した。


 

「さて、無事かな店主、いやあ本当に申し訳ない。こちらとしてはあまり挑発する気は無かったんだが……こんなんなっちまった」

「あ……あんたら、何てことを……! あの"ゴールデンバグベア"のグラッケンを倒しちまうなんて……!」

「あーまずかったかな? 見た所、ここいらのボスらしかったが」

「毎月みかじめ料の支払いにうるさい奴らが消えたのは清々したがよ……」



 男に引き上げられた酒場の店主と思わしき初老の男は完全に廃墟と化している酒場を見まわして、唖然としていた。既に見る影もない酒場に初老の店主はなにもできずに男への返答も生返事であった。



「そうだな……あの意地汚い金色の鎧の……えっとグラ…なんだっけか?」

「グラッケンだ! あんたら本当に何も知らないで喧嘩を売ってたのか!?」

「ああ、そのグラッケンだが……もし、賞金が掛けられているんだったら、そうだな迷惑料として全部あんたにやるよ」

「あ、ええ!? そ、そりゃ本当か?」

「は、はあははああああ!!!!!????」

「何とか起き上がってみたらなんだそりゃあ!?」



男の提案に驚きを隠せない店主、いつの間にかそこら中に転がっていた酒場の客達が立ち上がっていた。



「お、おいアンタらどこの賞金稼ぎか知らねえが、階級(ランク)は幾つなんだ? あのグラッケンを倒すほどだ! 金冠とかじゃないのか!?」

「え? ああ、うんちょっとその今は失業中でな……賞金稼ぎじゃねえのさ。だから、そうだな誰かにそいつの首をやるぜ、賞金の八割はこの酒場の修理に充ててやってくれ、残りは迷惑料ってところで」

「お、おい。いいのかそりゃあ?」

「なんだよ、誰もやらないなら俺がやるぜ、グラッケンの首……は、ねえからアイツが落とした鎧の破片でいいだろう。ここいらであんなの付けている奴なんてあれぐらいだからな」

「ああうん、じゃ、あんたでいい。その代わりに……ちょっと、探しているものがあってな……」



 青い男がそう言って言葉をきり、群がる男たち全員に声が行き渡るように見回した。それを受けて全員が男の次の言葉を聞き入るために黙った所で改めてこう切り出した。




「この荒野の世界で、無限に水を生み出すことができる杖について何か知らないか?」




 


   ◆




「しかし、アンタらは良かったのか? もう少しお礼をさせて貰っても……」

「いいよ、情報と当分の水で十分だ」

「ガソリンもろくに入れて無かったみたいだが……」

「問題ねえよ。こいつは結構、保つやつでね」

「そ、そうか、そういやアンタ達の名前を聞いて無かったな」



 酒場を後にしようと、バイクに跨った二人に後ろから初老の店主が声をかけてきた。

 二人は振り返りそれに答える。



「ん? ああ、そうだな、俺のことは"ジョー"でいい。それでいい連れは……」

「アミリア、アミリア=ヴェスウィックよ」

「そうか、それじゃあまた会うことがあったら今度はお礼をさせてくれよ!」

「ああ、それじゃあな」


 

 黄金色の装飾が施された大型のバイクのマフラーから黒煙を吹き出しながら、特徴的な雷雲が通り過ぎたような低く唸る音を響かせながら廃墟同然の酒場を後とした。



 どこまでも続く荒野を、黄金色のバイクが黒煙と唸り声を上げ続けて駆け抜けていく。

 暫く走り抜けた所で、後部座席に座っている改造コートを着こんだ少女、アミリアが運転する青い男、自称"ジョー"に声を掛ける。



「―――いつも思うんだけど、その"ジョー"はどうかと思うわ。うん、改名をお勧めする位には」

「いいだろ、別に気に入って――そこまで言うか!?」

「確か、映画……物語の主人公の名前よね、それも凄腕のガンスリンガーの――凄いわよね、本気でそれを自分から名乗るなんて正気じゃないわ」

「相方が、いつも以上に手厳しすぎる……今日は頑張ったのに……」

「30点が良く言うじゃない。私が防いでいなかったら大惨事よ、そこを含めてもう落第よね。知ってる? ら・く・だ・い」

「覚えたての単語を喜々として使っている所は可愛らしいんだけど、突き刺さると痛すぎて受け入れるには辛い」

「あら、まだまだ余裕じゃない……これなら、街までは退屈しないで済みそうね」

「勘弁してくれ、アミリア、頼むから」



 げっそりとしながらバイクのハンドルへともたれかかるように項垂れる"ジョー"その様子を見て、からからと笑うエミリア、二人の様子から普段からこのようなやり取りを行っていることが伺える。




「それで? 目的地の町までどのくらいだったかしら?」

「聞いて無かったのかよ……ったく、夜にはつくハズだ」

「それなら、今夜はベッドがありそうね、良かった。もう四日も野宿だものね」

「お嬢様には辛いってか?」

「ええ、いい加減あなたの上着を掛けてもらうのはどうかと思うのよ、淑女として、四日目として、四日目ね」

「おい、なんで四日を強調するんだよ」

「いえ、別に私は定期的に水浴びやらしたから気になってないわ。貴方はどうか知らないけれどね?」

「え、なに、待って、怖いんだけど」

「あらそう、そうなの? いえ別にいいのよ でも、そうね一言、言わせてもらえれば――そろそろ臭うわ」

「―――女子に言われると、超つらい」



 "ジョー"は完全に敗北した。通算百敗までこのペースではあと半年もかかりそうには無い。

 単なる悪口に何も言い返すことはできずに"ジョー"は情けなく突っ伏している。



「で、話は戻るけど。結局お目当ての物はありそうなの?」

「ああ、高確率でな、この鉛玉とガソリンのオイルの世界で、突如として現れたとんちき、神の奇跡だとか何だとか言って水を豊富に分け与えてるんだと」

「あら、できた聖人なのかしら、その行いは十分立派だと思うけれど」

「関係ない。アイツが善行をしていようが、悪行をしてようが、持ってる杖を奪うのには変わらねえからな」

「そうね、世界の法則を道具として体現する《アーティファクト》、その中でも世界を渡り、その法則を内包することができる、匠の一品、《マスターピース》、賞金首とはよく言ったものよね」

「ああ、俺らは《法具狩り(ピースハンター)》だからな」


 

 二人が話していると、漸くして建物の集まり、目的の町が地平線の向こうに見えて来た。

 


 二つの太陽が今日もこの世界の西の地平線へと落ちていった。


次は恐らく、多分Psychic×Strangersの方の更新かと思います……

こちらは時間を見つけ次第更新していきます。

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