9・そして今。
序盤で張り切って回想したせいか、なんかだんだん疲れちゃって適当な感じになったけど。
そもそも、後半になるにつれ説明が被るんだもん。
端折っていくとどうしても短くなるから仕方ない! という事にしておいてくれると助かります。
そんな事をつらつらと思いながら、見慣れた雑踏を掻い潜る様に抜けて、職場兼住居へと続く路地へ入ろうとした所なんだけど、その入り口で立ち止まる羽目になり。
そして今。
私は、非常に、困惑、している。
私の半径百メートル範囲にいる帰還者数名が、目をぱちくりさせていたり生温かく見守ってたりウンウンと涙ぐんで頷いてたりしているわけだけど。
そもそも、この範囲に帰還者がそんなにいるとか。
確かにそこかしこにいるとは言ったけど、こんな狭い範囲に複数人いるとかまず珍しい。
帰還者達がそんな生温かい視線を送って来つつも、微妙に焦っているのも何となく分かる。
帰還者以外の道行く人は、何事かと振り返るか二度見するか口をあんぐり開けるかをしている。
おまけに喧騒は軽く静寂に包まれ、物凄く居た堪れない。
そして、数秒後には軽いどよめきと騒めきに包まれる。
本当に居た堪れない。
もう一度言おうと思う。
私は
今
非常に
困惑
している。
何故なら。
少なくとも染めていない限り存在しない、ブルーシルバーのさらりとした髪で、緩く編まれ解れている一部が少し色っぽい感じで。
真っ直ぐな切れ長でトパーズの様な左目とエメラルドの様な右目。
そこらの女性よりも白っぽい艶っとした肌。
その割には、がっちりとした体で。
そんな人物にしなやかで鍛えられた腕にぎゅぅーっと抱き込まれ、その人物の胸辺りの身長の私はものの見事にそこに頭を押し付けられている。
本当に! もう! 色んな意味で! 居た堪れない!
「あー……うー……あー……」
と、唸り、軽く、いや……、盛大にパニック中である。
そんな私の頭上から降って来たのは。
「ティジュ」
囁き程度の音量で、モノトーンだけど優しい感じのする声でした。
ものすっごい心臓がドキバク言ってるんですよ!
色んな意味で酸欠しそうなんですよ!
浅くなった呼吸を整えるために、焦りながら吸って吐いて吸って吐いて……。
スーーー……ハーーー……。
少し混乱しつつ、そっと上目遣いにその人物を見上げ、
「ア……ア……アルウィン?」
見間違いではなかったと確認するや否や、その人物の名を静かに呼んだ。
少しは心のどこかでやっぱり無理なんじゃないかって思っていて。今も目の前にいる事も信じられなくて、夢なんじゃないかと思ったりして。でも、この温もりは確かなもので……。
ただただ、目をぱちくりさせてその人を凝視する。
そして、時が止まったかの様に静寂に包まれていた。