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20・ある意味負のスパイラル。-美優の場合・1-

 ここまで来ると異世界って食に乏しいイメージしか持てないんだけど……。


 実際はそんな事はないんだよ?


 食にこだわり過ぎて同時進行でゲテモノ作りにはまっていったり、今ある数少ない調理方法で食を極めてたり(ちなみにそんな所に新しい調理方法を投下したら大変な騒ぎになって収集付かなくなったという話もあるらしい)、日本みたいに細かくややこしい調理方法が独自に発達してたり、調味料に情熱を注いでる所だってある。


 だけど、たまたまこうして食に乏しい感じが集まったらそうとしか思えなくなるのは仕方ないよね!?

 

 なんてことやあれ自分達の行った世界の美味しい料理やゲテモノ料理とか、雑談しながら昼食が終りかけた頃、美優ちゃんが口火を切った。


「それじゃあ、お腹も落ち着いて来たでしょうから、異世界のお話しますね」


 お母さんの入れるお茶がコポコポと音を立て、お父さんがお茶を啜る音が聞こえる中、美優ちゃんの話が始まった。


「わたしがいた世界はアルトラーデという名で、他種族混合の世界でした」


「異種族?」


 お父さんが首を傾げる。


「えーっと、所謂エルフとかドワーフとか、犬族・猫族・鬼族とか、もちろん魔族もいましたよ。とにかくファンタジー映画で見る様なやつです。ラノベ……ライトノベルやファンタジー系ゲームとかにも良く出てくる種族が沢山いるのを異種族とか他種族混合っていうんですけど。それで、わたしがいたのは魔族が治める国の一つでした」


 親切にもこういうので大抵がそのまんまのイメージだって、画像を見せたりしている。


「魔族の国にいたんだ?」


「です。魔族って言っても、別に悪の象徴ってわけじゃないんですよ。地球と一緒で国が違えばあれやこれやと争う事もあれば手に手を取ってっていう風な、そういう普通の定義での国でした。人間と魔族、魔族と猫族、犬族とエルフ、まぁ多種多様な組み合わせでいざこざが起きてたんですよね。ただ、そのいざこざの内容が……」


 途中でお茶を啜り遠い目をする美優ちゃん。


「お前達がむやみに土地を荒らすから、食料が減ったじゃないか。土地が痩せたじゃないか。どうしてくれるんだこの野郎」


 口が悪くなってるよ!


「そんな感じで、始まるんですよね……。おまけに、そんな負の感情を巻き散らしたものですから、最初は緩やかだった淀みがある時期を境に爆発的にあちこちに点在して広まって。淀みが出来た場所では、土地が腐敗して作物すら育たなくなって周囲に住んでいた人達は移住を余儀なくされ、そんな人達が移動するとやはりそこもその内土地が痩せたりして負のスパイラルに陥って。このままじゃ、ボクの世界が壊れちゃうよ。困るから助けてー! っと、神様召喚されました」


「ミュウさん、一ついいですか?」


 ユランさん、やっぱり美優って発音出来ないよね。

 千寿も日本人でもちょっと言い難い発音だし。

 アルウィン達に名乗った時に、「チジュ? ティズ? ティジュ?」って何度も言い直してた。

 これも異世界あるあるだよねー。


 結局、ティジュって呼ぶようになったんだけど、ティランジュという豊恵の女神様がいて、それに倣ってだって。

 

「あ、やっぱりミュウになりましたか。あはは」


「すみません。どうも発音が難しく……」


「いえいえ! この世界の外国の方も慣れないと発音難しいみたいですし、千寿さんなんかは特にそうですよね。わたしがいた所でもミュウで通してたくらいですから。って質問でしたよね! どうぞ」


「スパイラルというのは……?」


「横文字……外国語って通じそうで通じないパターンですねぇ」


「日本人が外国語を使うと通じない事があって、逆に外国人が日本語を使うと通じないなんて事もあるから、言語能力っていっても結構微妙な所があるよな」


「後、略語ー」


「それな」


「そうなんですよね! 言語能力の意味を改めて問いたい気分です! それで、スパイラルは循環・連鎖・螺旋、とそんな意味です。負のスパイラルは要約すると悪循環って事で、負の連鎖が延々と続く感じで終りが見えない事を言っています。

 ちなみに、啓介さんの言ったパターンというのは、型・構図や模様、まぁ、規則性のある型という意味で、よくあるお決まりの構図の一つや、最後まで聞かなくても展開が読めてしまう程ありふれた展開の一つ、とそんな意味合いでよく使われます。

 パターンとほぼ同義語だけど微妙に意味合いや使い回しが変わってくる言葉が、テンプレートの略のテンプレです。ある一定の物を作り続けるために必要な基盤や型という意味で、呆れるくらい捻りがなくて外さない思った通りの展開、そんな意味の時に使うんです。ややこしいですけど」


「なるほど……」


「気になった事は何でも聞いて下さい」


「じゃあ、もう一ついいかしら? 淀み、というのは……?」


 あー、そうだ。

 逆に剣と魔法の異世界で通じる言葉は、こちらでは通じないよね。こちらで通じる言葉は通じない事もあるし。

 要は、単語としての意味は分かるけど、それが何を意味するのかが分からないって感じかな。

 話の腰が折れまくると言う、これもある意味負のスパイラルだわ。


 進まないけど、理解していないと分からない話にもなってくるから仕方ない。


「えっと、淀み、を説明する前にまず、魔素というものから説明しないといけないんですけど、魔法というのは分かりますか?」


「え、えぇ。それくらいなら。ほら、何もない所から火を出したり、瞬間移動したりとか、よね?」


「そうです! それを使うためには魔力というものが必要になるんですが、その魔力の素となるのが魔素なんです!

 更に魔素となる素というのがあるんですけど、これは世界によって素になる現象? が違うんですよね。世界によっては魔素も魔力も他の言葉だったりしますけど……って、この辺は今は割愛しますね。

 その魔素が上手く循環されずに留まってしまう事があるんです。魔素は、純粋な力の源でありとあらゆる地脈を巡っているんですが、純粋故に様々に影響を受け易くもあるんです。

 二つ程例をあげると、水の行き先が池や湖だとそこに溜まってしまう様に、魔素も消費や循環が行われないと溜まってしまうんです。

 そして、浄化作用の何かしらや、汚染されるようなものがない池や湖は綺麗ですが、そうでなければ濁っていますよね。それと同じで、ほどほどにでも消費してくれる対象がいなければ濁っていくんです。これが淀みの原因の一つです。

 もう一つは、生物の感情でも左右されるんです。特に感情の起伏が激しい生物、つまりわたし達人や知識や心を持つ魔物です。

 魔素の流れはゆっくりなんです。ゆっくりと綺麗に魔素が循環していても、基本人は定住する生物なので、定置で負の感情を振りまき続ければその感情により濁ってしまうんです。濁ってしまった魔素はより一層流れが悪くなり、流れているけれど留まっている状態に近くなるんですが、それも淀み原因の一つと言われています」


 お母さん、大丈夫かな? ついていけているかな? 心配です。


「上手く循環出来なくなった魔素が留まる場所──池や湖になった状態の場所を、魔素溜まりと呼びます。大体異世界共通語ですが、たまに別の言葉で……あ、これは別にいいですね……。その魔素溜まりの状態だけならまだいいんですけどね。

 ちなみに魔素は、魔法を使って魔力を消費した後、消費されっぱなしなのか、消費されても際限なく魔素が沸くのか沸かないのか、霧散して魔素に戻って循環されるのか、世界によって色々と事情は変わってきますけど、どちらにせよ、消費されない・循環されない魔素溜まりは淀んでいくというのがほぼテンプレです。

 淀んだ魔素溜まりが出来た地域では、様々な悪影響が及ぼされます。魔物や動物が狂暴化した上、最悪な場合爆発的に増えて暴走したり。植物ですら魔物化して暴走するんですよね。土地で言うと、土壌の栄養分が消失して作物が育たなくなったり枯れたり。

 なので、魔素溜まりが発生すると素早く散らすという作業が必要になるんですが、それが出来るのは特定の人のみな上、いつ何処で現れるかも分からないし人が踏み入れない場所もあるし、大小合わせれば多数存在していて、全てに対処出来るわけではないんです。

 少なくとも、わたしのいた世界ではそうでした。

 ある意味、国家、広い範囲で言うと世界規模の災害とも言えるかと。淀みが飽和すると最悪な場合そこからどんどん広がって、まさに負のスパイラルが始まるというわけです。

 わたしが呼ばれた世界では、本当に世界が滅びる一歩手前といった深刻な状況でした」


「それじゃ、崇められるの分かる気がするよ」


 美優ちゃん、説明お疲れ様。

 とりあえず、お茶のお代わりどうぞ……。

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